第94話 準決勝 第一試合 後半
第四章
第94話 準決勝 第一試合 後半
試合が始まった。
◇
カヌレが杖を振る。
速い。
詠唱無し。
空中へ赤い魔法陣。
同時に青い魔法陣。
二つ。
いや。
四つ。
六つ。
次々と展開される。
観客席がざわついた。
「同時展開!?」
「六陣!?」
「前期首席は伊達じゃねぇぞ!」
歓声。
拍手。
◇
「行きますわ!!」
炎槍。
氷槍。
同時射出。
一直線。
れんかへ襲い掛かる。
◇
れんか。
無言。
杖も出さない。
右へ一歩。
左へ半歩。
紙一重。
全て回避。
◇
「全て避けますか…」
カヌレ。
「避けれた」
れんか。
◇
だが。
カヌレは止まらない。
再び魔法陣。
炎。
氷。
炎。
氷。
絶え間なく撃ち続ける。
◇
「おぉ」
たにしが呟く
「強いな」
たくろーも頷く。
「強いねぇ」
のんちゃんも微笑んだ。
◇
ドラちゃんは腕を組む。
「カヌレの本気だ」
虎牙ベンチ。
全員真剣だった。
◇
中央舞台。
爆炎。
氷柱。
轟音。
白煙。
もう普通の魔術師同士の試合ではない。
◇
その中で。
れんかが初めて口を開いた。
「強いね」
カヌレ。
止まる。
ほんの少しだけ。
「……っ!」
嬉しかった。
たぶん。
本人も気付いてないくらい。
「と、当然ですわ!」
さらに魔力が上がる。
「わたくしは!」
炎。
「あなたを超えるために!」
氷。
「必死に勉強して!」
炎。
「必死に魔法を学んで!」
氷。
「必死に努力してきましたの!!」
炎と氷が交差する。
◇
轟音。
爆発。
会場が揺れる。
「おぉぉぉぉ!!」
観客席が沸いた。
◇
れんかは初めて杖を構える。
歓声。
さらに大きくなる。
「れんかが杖持ったぞ!」
「本気だ!」
◇
「珍しいな」
たくろーがつぶやく。
「出すのめんどくさい。しか言わないもんな」
たにしも頷く。
「矢出すのめんどくさいっていうママそっくりだねぇ」
ひーちゃ、無意識にいじるタイプ。
のんちゃん苦笑。
◇
中央舞台。
れんかが静かに詠唱する。
◇
「氷壁」
一言。
巨大な氷壁。
出現。
カヌレの魔法を正面から受け止める。
観客席がどよめく。
「一言だと!?」
「短縮詠唱か!?」
「七行詠唱を一言か。めんどくさいから短縮した。とか言いそうだわ」
ドラちゃんが苦笑する。
その通りなんです。
「…」
虎牙ベンチ。
静かになる。
◇
カヌレも理解していた。
だから笑う。
「そうですわよね!」
嬉しそうだった。
「それくらい!やっていただきませんと!!」
炎。
氷。
炎。
氷。
れんか。
氷。
炎。
雷。
風。
魔法が空を埋める。
準決勝。
その名に恥じない戦いだった。
◇
数分後。
カヌレの肩で息が荒くなる。
対して。
れんか。
まだ余裕があった。
◇
「れんか、魔力総量上がってない?」
たにしがのんちゃんに聞く。
「ルノアフラペチーノ作りまくった時、上がったって言ってた」
のんちゃんが答える。
「とんだ副産物だな」
たにしが笑う。
◇
「くっ……」
カヌレは理解する。
届いている。
昔より。
ずっと。
でも。
まだ。
届かない。
「でも…まだ…ですわ!」
れんかを見る。
その視線を受け、れんかが杖を上げる。
「終わり」
静かな声で複数の詠唱。
巨大な氷柱。
カヌレの周囲を囲む。
逃げ場。
無し。
その頭上には20を越える魔法陣。
最後の魔力を振り絞り、カヌレが障壁を展開しようとする。
「くっ…」
が、儚く霧散する。
膝をつくカヌレ。
◇
「勝負あり!!」
レフェリーが手を上げた。
「勝者!!」
「れんか!!」
大歓声。
拍手。
口笛。
◇
カヌレは悔しそうに唇を噛む。
数秒。
そして。
深く息を吐いた。
「私、負けましたわ……」
「!」
その言葉にれんかが、はっとしてわずかに微笑む。
「なっ!なんですのっ!まだまだとでも!」
カヌレが悔しさに拳を握る。
「違う」
れんかが否定する。
「じゃぁなんですの!その笑み!」
「回文」
「カイブン?」
「ワタシマケマシタワ」
「逆から読んでも」
「ワタシマケマシタワ」
「……」
「生で聴けた嬉しい」
れんかはくるりと背を向ける。
「……」
カヌレはなんとも言えぬ感情に。
「……わ、わたくしとの戦いの感想がそれですのおおおおお!!」
カヌレが叫ぶ。
「れんかさん!!」
れんかが振り返る。
「覚えてくださいまし!」
プライドとか、もう何もかもがぐちゃぐちゃだった。
ただ真剣だった。
「…」
れんか。
少し考える。
「カヌレ」
カヌレの顔が明るくなる。
「は、はぃ!」
声が裏返る。
「覚えた」
れんかが微笑む。
◇
数年越しだった。
もう追いつけたと思った。
でも、まだ遠かった。
ただ、視界に入る距離には来た。
そして。
また、追えると思った。
カヌレは何かがスッと軽くなるのを感じた。
「たぶん…」
と、れんかはスタスタと歩き出す。
静かになる。
カヌレ。
固まる。
「たぶんですのぉぉぉぉぉ!?」
悲鳴が闘技場へ響く。
◇
ルノアベンチ。
「やっぱ煽り上手いよねぇ?」
「母親が言うから間違いないな」
「本人に自覚無いのが一番ひどい」
「精神系の魔法かもぉ?」
違うだろ。
◇
準決勝第一試合。
ルノアチーム先勝。
敗北以上のダメージを受けたカヌレだった。




