第1話 鍋食いそこねる
こいつら実在しますw
飽きるまでスローライフ異世界モノを書いてみる
一章
第1話 鍋食いそこねる
「だからあれ絶対ラグだって!」
「いや、お前が避けれてないだけ」
「ラグ!」
「回線じゃなくて反応速度な?」
個室に笑い声が広がる。
たにしはハイボールを飲みながら、目の前の光景をぼんやり見ていた。
居酒屋のテーブル。
唐揚げ。
枝豆。
鍋。
その向こうで騒いでるのは、
毎晩ボイスチャットで聞いていた連中。
オンラインゲーム《ワールド オン ワールドオンライン》のギルド「BlueMoon」のいつメン。
今日はそのオフ会だった。
「たにしくん、なんか静かやん?」
たくろーがジョッキを傾けながら言う。
「いや……なんか変な感じでさ」
「何が?」
「ほんとに存在してたんだなお前ら」
「失礼すぎん?」
のんちゃんが笑う。
「だってVCだけだったろ今まで」
「まぁ確かに」
その横で、
ひーちゃがこはるの皿にポテトを分けていた。
「こはる、野菜も食べな」
「やだ」
「だめ」
「やだ」
「あっくん、ポテトいる?」
「あー……もらう」
「はい」
「ありがとう」
「こはる、それママにもちょうだい」
「あげない」
「反抗期!?」
また笑いが起きる。
れんかはスマホを見たまま「うるさ……」と呟き、
あいりは「あっくんってほんとに静かだね」と不思議そうに見ていた。
「そろそろメンテ終わった時間だな!新イベどんなか、みんなで覗いてみようぜ!」
たにしの声かけに各々が携帯でログインする。
「ん?」
照明のかすかな点滅
一瞬だけ、
空気が静まった。
次の瞬間。
壁のテレビ激しく点滅して点いた。
『WORLD ON WORLD ONLINE』
ゲームのタイトル画面。
「え?」
あっくんが顔を上げる。
聞き慣れたログイン音。
――ログインします。
「ちょ、待っ――」
床が光った。
◇
「……っ」
風の音。
草の匂い。
たにしは重たい体を起こした。
「……なんだここ」
目の前には草原。
木の柵。
石畳。
そして、
どこか見覚えのある村。
「いてぇ……」
近くでたくろーが頭を押さえていた。
「ママぁ……」
「大丈夫大丈夫、ここいるよ」
ひーちゃがこはるを抱き寄せる。
あっくんは黙ったまま辺りを見回していた。
その格好を見て、たにしはちょっと焦る。
革の胸当て。
短剣。
茶色いマント。
ゲーム開始時の初期装備。
「……おい」
たにしは自分の服を見る。
同じだった。
「いや待て」
嫌な汗が出る。
「なんで初期装備なん?じゃなくてなんだよここ!」
「……まじじゃん」
のんちゃんも引きつった顔をする。
その時、
れんかが村の入口を指さした。
「ねぇ」
全員がそっちを見る。
木の看板。
そこに書かれていた文字。
【始まりの村 ルノア】
沈黙。
たにしがゆっくり口を開く。
「……いやいやいや」
誰も動かない。
「俺が酔ってんじゃないなら、今まで居酒屋いたよな?」
「いたねぇ」
たくろーが苦笑する。
「で、なんで今、ゲームの初期村にいんの?」
「知らん」
「異世界転移?」
「軽く言うなよ怖ぇよ」
たにしは頭を抱えた。
意味が分からない。
夢にしては妙に空気が冷たい。
風の匂いも、
土の感触も、
全部リアルだった。
その空気をぶった切るように。
グゥゥゥゥ……
腹の音が鳴る。
「あっ」
のんちゃんだった。
「……ねぇ、今日の晩ご飯どうする?」
「まずそこ?」
「いや大事でしょ。鍋食べそこねたし!」
「まぁ大事だけど」
のんちゃんは立ち上がる。
「この辺、西の森あったよね。野ウサギいたはず」
「いやゲーム知識基準で動くな?」
「他に情報ないじゃん」
「まぁそうだけど」
「ひーちゃー、薬草採りお願いー」
「あーい」
「れんか、行くよ」
「……だる」
「あん?」
「……行く」
「あいりはあっくんの手伝いしてて」
「はーい!」
「あっくん、香辛料系ある?」
「あー……多分」
「おっけ」
どんどん話が進んでいく。
「なぁ、たくろー」
「ん?」
「こいつら順応性高すぎん?」
「ほんとな」
たくろーが苦笑する。
「あー課金は出来なそうだな」
「おめーも順応しすぎだよ!つかすぐ課金しようとすんな!」
空を見上げる。
青かった。
そしてさらにはっきりと
見たこともない蒼い月が浮かんでいた。
嫌になるくらい綺麗な異世界の空だった。




