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第6話

 ウッドフォレストの町を包む空気は、どこまでも穏やかだった。

 それもそのはず……

 町を襲うはずの魔物は全滅し、襲わせる予定だった元凶は、元凶である領主、ゴルドーの妻を蘇らせたことで浮かれている。


「本当にやるのか? 我々としてはありがたいが、もう少し羽を休めてからでも遅くはないだろうに……」


 領主のゴルドーが整えられた髭をさすりながら怪訝そうに言う。

 彼の隣には、非業の死から甦った妻、エリーゼの姿があった。


「まあ、これは俺にしかできないことだからね」


 司には目的がある。

 それは、移民の町を作り、そこに移住してくる神様に元の世界に戻してくれるようお願いすること……

 その目的を果たすためには、移民の町を作らなくてはならない。


 モンクエ4のストーリーでは、移民の町は、このウッドフォレストの町に作られるはずだった。しかし、今、勇者に倒されるはずだった領主、ゴルドーは、蘇るはずのない妻、エリーゼと共に領主生活を送っており、娘も両親を取り戻すため魔物化する未来も消えた。

 その未来が消えてしまった以上、別の方法で移民の町を完成させなくてはならない。


 そこで考えたのが開拓だ。

 幸いなことにウッドフォレストの町の周囲は森に囲まれている。

『忘れられた神々』を祀る祭壇もウッドフォレストの町の外れにあるし問題ないだろう。

 その森を開拓し、移民の町に相当する町を作り上げる。

 そうすることで、モンクエ4のストーリーと逸脱することなく移民の町を作り上げることができる。


 それに、移民の町ができるのを待っていたら数年単位の期間が掛かりそうだ。

 その点、自分でそれを進めれば、より早く移民の町を作ることができる。


 神様が移民の町に移民してくるには、町民を1万人集めなくてはならない。


 ゴルドーが仲間になってくれたお陰で、資金繰りに目処がついた。


「さて、始めるか……『クエイクオール』!」


 司が土の全体魔法『クエイクオール』と唱えると、地面が隆起し木々をなぎ倒していく。次に召喚魔法『ゴレム』を唱えると、隆起した土がゴーレムへと変わっていく。

 100体ほど召喚した所で司はゴーレムに命令する。


「そこのゴーレムは木を一ヵ所に集めてくれ。整地も頼む。そこのゴーレムは城壁作りを始めろ」

『『『ゴルッ!』』』


 ゴーレムが木々を一ヵ所に集める姿をゴルドーは呆然と見つめる。


「いやはや、流石は司様ですな。よもや、ゴーレムを土木作業に使うとは……」


 ゴーレム召喚はジョブが魔法使いであれば使用可能。

 しかし、ゴーレムを土木作業に使った者はこれまでいなかったようだ。


「ゴーレムは疲れ知らずだからね」


 まずは平地を開き、町を囲むように城壁を設置する。

 10日もあれば、移民の町の骨格位作ることができるだろう。


「それじゃあ、ゴルドーには資材調達をお願いしようかな。ここに書いてある物を集めてくれ」


 お代は、司がウッドフォレストにいることにより量産される魔石だ。

 そう言ってリストを渡すと、ゴルドーは嬉しそうな表情でそれを受け取る。


「はい。このゴルドー、命がけで集めさせて頂きます」

「いや、別に命は賭けなくてもいいからね?」


 ゴルドーがいなくなれば、一気に資金繰りが苦しくなる。それこそ死活問題だ。


「……ウッドフォレストの領主として、愛しの妻子と共に健やかな毎日を送ることが俺の幸せに繋がると思ってくれ。だから無闇矢鱈に命を賭けないように」


 神妙な表情でそう告げると、ゴルドーは感激のあまり涙を流す。


「――わかりました。このゴルドー、身命を賭して事に当たらせて頂きます!」


 いや、だから命を賭けなくていいってば……

 しかし、認めてやらないと話が無限ループしそうな雰囲気だ。


「そうか。ならお願いしようかな……(多分、比喩で言っているのだろうし)」


 これからこの町には多くの移民がやってくる。移民が町に定着するには、衣食住に加え、生活基盤を支えるための仕事があることが大前提だ。


「(服飾品と食料品は当面の間、購入し、後々、生産できるよう準備を進めておこう)」


 幸いな事に、この辺り一帯の魔物はゴルドーの支配下にある。


「(折角だ。当面の間、魔物に農作物を育ててもらうか)」


 この辺り一帯の魔物はゴブリンを始めとする人型の魔物やトレントといった植物系の魔物が多い。意外と農作業に向いているかも知れない。


「……よし。ゴルドーが帰って来たら相談だな」


 ゴルドーが資材調達を終える間、司は追加のゴーレムを召喚し、町作りに励んでいく。


 その翌日……


「……うわぁ、よく、1日でこれだけ多くの資材を集めることができたね」


 体育館位の広さの場所に高く積まれた資材を見て司は言う。


「はい。金で手に入れられぬ物はこの辺り一帯の魔物を総動員して入手しました」

「(流石はゴルドー。命がけと言っただけのことはある。まさかリストに書いてあった資材すべてを入手してくるとは……)ありがとう。助かったよ。無茶を言ってごめんね」


 ゴルドーは、司の言葉に感涙する。


「……いえ、私などまだまだです。他に必要な物があれば、いくらでも言ってください。このゴルドー。命賭けで集めて参ります」

「その時はよろしく頼むよ。ああ、そうだ。早速、お願いがあるんだけどいいかな?」

「はい。喜んで」


 司の言葉にゴルドーは当たり前といわんばかりの対応を見せる。


「それじゃあ、当面の間、ゴルドーが集めてくれた作物の苗と種を魔物に育てさせてくれないかな?」


 そうお願いすると、ゴルドーは恭しく頭を下げる。


「はい。あちらの畑で作物を育てさせればよろしいのですね?」

「ああ、作物には虫が付きやすいから育てる時、気を付けてくれると嬉しい。虫が付くと実が大きく育たないからね」


 昔、ミニトマトを育てていた時、アブラムシが付いて酷い目にあった。

 大量のアブラムシが茎に密集する姿はトラウマ物だ。


「お任せください。陽が出ている間は、ゴブリンを農作業にあたらせ、夜はレイスを見張りにつけます」

「ああ、よろしく」


 そういえば、この近くに豊穣の力を秘め、どんな荒れ地も肥沃な大地に変えることのできる力を持った精霊がいたな……


 確か、オケアノスとかいう水を司る伝説の精霊という触れ込みだったはずだ。

 物語終盤で見たオケアノスは人間のことを酷く嫌っており、モンクエ4では仲間にすることができなかったが、序盤ではまだ人間に心を開いていたと設定集を読んだ覚えがある。


「よし。それじゃあ、行ってみるか!」


 司は街作りをゴルドーとゴーレムに任せると、オケアノスのいる海の畔に向かった。


「……な、なななな、なんじゃこりゃああああっ!?」


 ウッドフォレスト近くにある海の畔に到着してすぐ、司は大きな声を上げた。

 オケアノスが棲息する海の畔。

 司が大きな声を上げたのは、そこに多くの冒険者が押し掛け、オケアノス狩りを楽しんでいたためだ。


「オケアノスが1体、オケアノスが2体〜♪」

「見てみろよ。俺なんかもう10体も捕まえたぜ! こいつは高く売れそうだ!」


 オケアノスは羽の生えたカワネズミのような姿をしている。

 トンボ取り感覚で伝説の精霊が狩られていく姿を目撃した司は唖然とした表情を浮かべた。


「な、なんてことを……」


 オケアノスがなぜ、物語終盤で人間嫌いになったのか。

 それは、人間がオケアノスを狩り過ぎたためだったようだ。


「(このままでは、俺の計画が破綻してしまう。何とかしなくては……)」


 司は心の中でそう呟くと、行動に移る。


「(……オケアノスを冒険者が狩るのは、おそらく金になるため。見た目も可愛く豊穣の力を持つため、実用性は非常に高い。ならば、オケアノスをオケアノスに見えない姿に変える! 奴らが狩りを諦めるにはそれしかない!)……『ダーク・カーテン』」


 司がそう唱えると、一瞬、畔が闇に覆われる。そして……


「『ダーク・イリュージョン』」


 闇魔法『ダーク・イリュージョン』を唱えると、オケアノスの姿が醜悪な爬虫類に変わっていく。その瞬間、冒険者達は悲鳴を上げた。


「うっぎゃああああっ!? なんじゃこの気持ち悪い生き物はァァァァ!!」

「チクショウ! ただの可愛い妖精じゃなかったのかよ!」


 作戦は成功のようだ。

 網と籠を投げ捨て去っていく冒険者達を後目に、司はホッと息を吐く。


「(……とりあえず、上手くいったか)」


 しかし、これも一時凌ぎにしかならない。

 司は網や籠からオケアノスを解放すると、早速、移民の町に移り住まないかどうか交渉する。


「あー、えーっと、言葉は通じる?」

『『…………』』


 そう尋ねてみると、オケアノスは顔を見合わせ頷いた。

 どうやら言葉が通じるらしい。


「俺の名前は司。ここから数キロ離れたウッドフォレストの町近くを開拓し、新たな町を築こうと思ってる。そこの住民として君達を招待したいんだけど、どうかな?」


 移民の町では、魔物や精霊も住民としてカウントされる。

 ここにいては、また冒険者に襲われる可能性があること、空気中の魔力が豊富で、魔力を糧とするオケアノスにとって住みやすい環境であることを伝え説得するとオケアノスはどこかに向かって飛んでいってしまう。


「(説得失敗か……)」


 オケアノスの誘致は最初から難しいと思っていた。

 誘致失敗も仕方がない。


「(森の土は野菜の生育に適さない。オケアノスが来てくれれば、その辺りの事も解決できると思ったんだけど……とりあえず、帰るか)」


 誘致に失敗した以上、ここにいても仕方がない。

 そんな事を考えていると、司の顔に影が差す。

 顔を上げると、そこには大量のオケアノスが空を飛んでいた。

 オケアノスの一体が、司の肩に着地すると、移民の町の方向を指差す。


「もしかして、移民の町に来てくれるのか?」

『…………(コク)』


 オケアノスが首を上下し、肯定の意を伝えると、司はガッツポーズする。


「(――やったっ! これで、移民の町の土壌が改善される!)」


 オケアノス誘致の効果はそれだけに留まらない。

 オケアノスは水の精霊……つまり、オケアノスの誘致により治水問題まで解決したことになる。


 周囲を飛び回るオケアノスを見て司は笑みを浮かべた。


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