第1話
「まさか、投獄されるとは……」
井上司は今、王城地下にある牢屋の中で呆然とした表情を浮かべていた。
牢屋だけあって中に設置されているのは排泄用の小さな穴だけ。
冷たく固い鉄格子に阻まれていることもさることながら、地球から異世界リメイクに転移してきたばかりで、どこに逃げればいいかもわからない。
「これからどうなるんだろう……」
何故、こんなことになっているのか、それには理由がある。
司は、つい先ほど、この国、エスタールの王であるレブレサック王の怒りを買ってしまったのだ。
思い返して見れば、今でも王の怒る姿が思い浮かぶ。
『――多大なる犠牲を払い異世界転移より召喚したはずの勇者が反転の魔王グリモアと同じ魔王のジョブ持ちとは……なんと忌まわしい……』
リメイクに異世界転移させられてすぐに行われた鑑定で発覚したジョブは『反転の魔王』。
その名の通り、事象を反転するスキルを持つ魔王で、過去に世界のほとんどを征服したとされる反転の魔王グリモアが持っていたとされるジョブと同一のもの。
魔王と同一のジョブを有してしていただけではなく、その後言った一言が王の逆鱗に触れた。
『えっと、すいません。それなら、家に帰してほしいのですが……』
『……っ! 魔王と同じジョブ持ちというだけでも許せないのに自己保身に走るとは、こやつ本当に勇者か? 投獄だ! 今すぐこの者を投獄しろ!』
何故かは分からないが、レブレサック王は、『家に帰りたい』という司の言葉を自己保身と捉えたらしい。
そんな感じで、司は兵士に捕らえられ、気付けば牢屋にぶち込まれていた。
「あの場で処分されなかったのは、俺が勇者扱いだからなのかな?」
事実、あの場で殺されてもおかしくない位、剣呑な空気が流れていた。
まあ、レブレサック王の反応から処刑されるのも時間の問題の様な気がするけど……
司を捕らえた兵士も言っていた。
おそらく、お前は処刑されることになるだろうと……
ため息を吐きつつ、司はステータスを確認する。
◆――――――――――――――――――◆
【名 前】井上司 【年 齢】15
【レベル】1 【ジョブ】反転の魔王
【STR】攻撃:10 防御:10
体力:10 魔力:10
知力:10 運命:10
【称 号】異世界転移者
【装 備】異世界の衣服
◆――――――――――――――――――◆
レベルも1だし、まともな装備も持っていない。もし万が一、牢屋から出られても、出た瞬間、兵士に捕えられ牢屋に逆戻りが関の山か……
「レブレサック王が機嫌を直してくれるといいんだけど……」
多分、無理だよなぁ……うん? レブレサック王? そういえば、どこかで聞きたことがあるような……
異世界リメイク……エスタール王国……レブレサック王……魔王グリモア……
そして司は思い出す。
「……あれ? もしかして、これモンクエ4? 俺、ゲーム世界に転移したの?」
牢屋の中を見渡すと、なんとなく見覚えがある。
この牢屋……城に呼び出された主人公が闇の大臣、フロッグの策略により捕らえた牢屋にそっくりだ。
フロッグはモンクエ4第15章に出てくるボスモンスターで、エスタール城の地下に封印された裏ボス、邪神クトゥルフの復活を目論んでいる。
もしこれがモンクエ4と同じ世界ならここから脱出することができるかも知れない。
司はモンクエ15章のストーリーを思い返し、一番左の鉄格子を回す。
すると、ズズンいう音が響き、部屋の真ん中に取手付きの蓋が現れた。
恐る恐る取手を引き上げると、そこには地下へと続く梯子が設置されていた。
「やった……」
どうやらこの世界はモンクエ4の中で間違いないようだ。
見張りの兵士がいないことを確認すると、司は梯子に足をかけ、下に向かって降りていく。
「一応、蓋も閉めてきたし、大丈夫だよね?」
エスタール城の地下に裏ボスが封印されていることを知っているのは、ラスボスと闇の大臣、フロッグ位のもの……
フロッグは第14章まで進めないと出てこないキャラクターのため、あの牢屋がこの場所と繋がっていることを知っているのは誰もいないはずだ。
梯子を下りると、そこには地下神殿の様な空洞が広がっていた。
四隅にそれぞれ赤、青、緑、黄に光る泉が湧いており、真ん中の石柱には、古びた剣と盾、袋が飾られている。そして、そのすぐ側には禍々しい意匠の門が設置されていた。
「……やっぱり、モンクエ4だ。邪神を封印する精霊の泉だ」
モンクエ4には、転職システムがあり、ラスボス討伐後、『魔王』というジョブを選択することができるようになる。
そして『魔王』職を極めると『反転』スキルが使えるようになり、過去に魔王と戦った勇者が持っていた伝説のエピック装備、『勇者の剣』と『勇者の盾』そして『アイテムボックス(無制限)』が利用可能となる。
司は古びた剣と盾、袋に触ると『反転』と呟いた。すると、古びた剣と盾、袋が色を取り戻し新品同然となっていく。
それを見た司はガッツポーズをした。
これならなんとかなりそうだ。
『勇者の剣』と『勇者の盾』は裏ボスと戦う直前に手に入る伝説のエピック装備。
手に入れた装備を調べて見るとこの様に表示された。
◆――――――――――――――――――◆
【武 器】勇者の剣
【レア度】SSS
【攻 撃】+999
【効 果】雷属性付与
状態異常無効
常時回復
◆――――――――――――――――――◆
◆――――――――――――――――――◆
【武 器】勇者の盾
【レア度】SSS
【防 御】+999
【効 果】属性ダメージ無効化
魔力吸収
◆――――――――――――――――――◆
◆――――――――――――――――――◆
【武 器】アイテムボックス
【レア度】SSS
【効 果】無制限に物の出し入れが可能
劣化防止
◆――――――――――――――――――◆
流石は勇者の装備。
ステータスを見れば、レベル1とは思えないステータスになっている。
◆――――――――――――――――――◆
【名 前】井上司 【年 齢】15
【レベル】1 【ジョブ】反転の魔王
【STR】攻撃:999(+999)上限値です。
防御:999(+999)上限値です。
体力:10 魔力:10
知力:10 運命:10
【称 号】異世界転生者
【装 備】勇者の剣
勇者の盾
アイテムボックス
◆――――――――――――――――――◆
試しに石を拾い強く握って見ると、まるで絹豆腐でも握ったかの様に、石がひび割れ形を変えていく。
装備した勇者の剣と勇者の盾がステータスに反映された結果だ。
裏ボスは、封印を解除した者のレベルに20レベル上乗せした状態となる。
つまり、今の邪神のレベルは21。
勇者の剣と勇者の盾があれば、楽勝だ。
それに今倒してしまえば、近い将来、邪神が復活する目も潰すことができる。
レベル上げにもなって一石二鳥だ。
そうと決まれば……
司は、精霊の泉を周り、泉に沈められた『精霊のアミュレット』を拾っていく。
精霊のアミュレットには、『火』『水』『風』『地』の加護が込められており、封印された邪神の力を弱める力がある。
第15章のボス、フロッグは、魔王の力を借り世界と精霊の繋がりを断つことで『精霊のアミュレット』を弱体化させ、邪神の完全復活を目論んでいた。
しかし、今、精霊のアミュレットは、力を失う所か、ほぼ完全な状態でここにある。
本来であれば、一つ一つのアミュレットに精霊の力を宿すため、火山や海、風の谷や地底湖に行かなければならないのだが、今の時点であればオールオッケー。
ラスボスを倒し、ジョブ神殿で魔王にジョブチェンジし、職を極めた上で、力を失ったアミュレットすべてに精霊を宿すといった面倒な手順をすべて吹っ飛ばして裏ボスを倒すことができる訳だ。
回収したアミュレットを扉の窪みに嵌めていくと、四つ目のアミュレットを嵌めた瞬間、眩い光が辺りを照らす。
そして、扉が開くと共に精霊達が顕現し、力の奔流が扉の中にいる邪神に向かって侵攻した。
ゲームでは、四精霊が邪神を取り囲み、『ザシュッ! ザシュッ!』という音と共にボコボコにする描写が描かれていただけに、まさかこんな感じになると思わず、唖然とした顔をする司。
しかし……
『……ォォォォオォオオオオオオオオ!』
という叫びと共に扉から延びてきた触手に貫かれた精霊の姿を見て気を引き締める。
邪神復活時、精霊が攻撃を受け退場することは知っていたがまさかここまでエグいとは……
攻撃を受けた精霊が空気に解けるように消えていく。
触手に捕らわれていた精霊が消え黒くごつごつとしたものが、扉から這い出てくると空気が一変する。
まるで世界が邪神の復活に恐怖しているかのように大気が震え、大地が揺れた。
その瞬間、扉が壊れ時空が横に裂ける。
裂けた時空から姿を現したのは、巨大な頭だった。
頭からは数多の触手が伸びており、触手の先には、鋭い牙の生えた口腔と目が見える。
ゲームにおける邪神戦の第一形態、邪神の頭部だ。体力を半分まで削ると、第二形態となり、腕が伸びてくる。そして、さらに半分、体力を削ると体全体が姿を現す。
司は勇者の剣を構えた。
怖い……けど、問題ないはずだ。
邪神は封印を解かれ復活したばかり……
加えて、ゲームにおける戦い方はターン制。
初撃は必ず当たるようになっている。
主人公から一撃を貰うことで完全に覚醒し、邪神は主人公を敵と認識するのだ。
「――やあっ!」
司は勇者の剣を振り上げると、近くにあった触手を切り付ける。
ズバッ!
すると、予想外の出来事が起こる。
なんと、勇者の剣を振り下ろした瞬間、邪神の頭ごと時空が斜めにズレたのだ。
ズ、ズズズズズッ……
呆然とした面持ちで前を見ると、何故か、邪神の頭部も斜め一直線に割れている。
ズズズズズズズ、ズシィィィィィン!!
そして、邪神の頭部半分がズレ落ちると、邪神の体が空気に溶けるように消えていく。
『テテテ、テッテテー♪ 邪神クトゥルフを倒した!』
『井上司のレベルが60上がった。攻撃が500増えた。防御が500増えた。体力が500増えた。魔力が500増えた。知力が500増えた。運命が500増えた』
『称号【真の勇者】を獲得した。ステータスの上限値がなくなった』
どこかで聞いたことのあるファンファーレとステータスアップの声を聞き、ステータスを確認する。
◆――――――――――――――――――◆
【名 前】井上司 【年 齢】15
【レベル】61 【ジョブ】反転の魔王
【STR】攻撃:1509(+999)
防御:1509(+999)
体力:510 魔力:510
知力:510 運命:510
【称 号】異世界転生者
【装 備】勇者の剣
勇者の盾
アイテムボックス
【称 号】真の勇者
◆――――――――――――――――――◆
そこには、上限値を超え人並外れたステータスとなった司のステータスが表示されていた。
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本作はアルファポリス様で先行配信しています。
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