第66話 メイドコボルトは面食らう
魔王との悶着のあと、クリアテスは他の二人を引きつれて引き揚げていった。予定を三分の一ほど残しての撤収である。
帰っていく様子を窓から眺めていた魔王は、やれやれといった感じで呆れた顔をしている。
「まったく、スルランの子孫らしい癇癪持ちだな。実力はあるんだが、どことなく鼻にかける性格が本当に残念だ」
「魔王様、彼のことはよく知っているのですか?」
愚痴をこぼす魔王に、ククールは問いかけている。
「いや、あやつのことは知らん。だが、余とパーティーを組んでいた男が、よく似た顔と性格でな……」
当時のことを思い出したのか、魔王は眉をひそめてしまっている。よっぽどよくない思い出のようである。
「ねえ、聖剣」
『なにかな、主よ』
「聖剣と魔王様って知り合いだったの?」
『うむ。こやつは何百年も前に我を振るった元勇者だ。なにゆえ魔王になったかは知らんがな』
「え、ええ……?」
ククールが聖剣に尋ねてみるも、返ってきた答えに思いっきり困惑している。魔王が元勇者ということがどうにも信じられないようだった。
「聖剣のいうことは正しいぞ。余は元勇者であり、今いるこの街は、余が造ったのだからな」
「……はい?」
さらにとんでもない発言が出てきた。魔王の爆弾発言に、ククールは顔を歪ませ、黙っているトールソンは腰を抜かしそうなくらい驚いている。
なんということだろうか。今トールソンが治めている街は、魔王が勇者時代に築いた街だというのだ。誰がそんなことを信じるというのだろうか。
『なるほど。自分が造った街だからこそ、時折ククルを使いに出して確認していたというわけか』
「まぁそうだな。それ以前にも人型の魔族を時々使いに出していたがな。元々は、魔王城攻略のための最前線の砦だったのだからな。魔王に転生していることに気が付いた時から、ずっと気にかけておるよ」
「あわっ、あわわわわ……」
魔王の話を聞きながら、トールソンは取り乱し続けている。
あまりにもあたふたし続けているので、さすがの魔王も気になって仕方がないようだ。
「少しは落ち着いたらどうだ。余は魔王ではあるが、自分の造った街を潰すような真似はせん。できるならとっくに壊しておるわ」
「……確かに」
魔王の言い分に、ものすごく納得してしまうククールである。
そういいながらも、ククールははたと何かに気が付いてしまう。
「魔王様、どうして私のピンチに気が付いたのですかね」
そう、タイミングよく魔王が現れた理由だ。
クリアテスに襲われかけたところに現れたので、その理由を知りたいと思ったのだ。
「余が自分の部下の危機に気付かぬと思うか? ましてや、そなたは余にとっては重要な人物だというのにな」
「え?」
魔王の答えに、ククールはきょとんとしてしまう。どういうことなのかまったくわからない。
ところが、聖剣はなにやらにやにやし始めており、何かに勘付いたようだった。
「ちょっと聖剣。気持ち悪いんだけど」
『いやいや失敬。なるほど、我は分からなかったが、魔王の態度でなんとなく分かったぞ』
「何がよ!」
聖剣の言い分もまったく理解できない。何がなんだか分からないククールは段々と機嫌が悪くなっていってしまう。
その様子を見た魔王は、ククールの頭にポンと手を置いている。
「お前は思い出せていないようだな。まあ、余もククルをそばに置くようになってやっと気が付いたくらいだしな。無理もないか」
「ちょっと魔王様? わけが分からないんですけど?」
頭をわしゃわしゃされて、ククールはなんとも嫌がっているようである。
それ以上に気持ち悪いのが、自分の知らない自分の何かを魔王たちが知っていることだった。一体魔王と聖剣は、自分の何を知っているのかと、ククールは精一杯の警戒をしている。
そんなわけで、改まって話をするということで、ククールが使っている部屋のテーブルを取り囲んで座る。
さっきからほとんどしゃべっていないトールソンは、自分の屋敷だというのにとても肩身が狭そうである。大体は隣に座っている魔王のせいである。普通の人間にとって、魔王は恐怖の対象だからしょうがない話である。
ククールの話に入る前に、魔王はトールソンに謝罪をしている。自分が突然割り込んだせいで、なんだか人間の世界で不利益をこうむりそうな事態になったからだ。
なので、自分の築いた街なので、しっかりと面倒を見ることを約束したようだった。ただ、わけが分からな過ぎて、トールソンは生返事をするばかりだったようだ。
これでは話にならんということで、魔王は一応書面にだけは残していくことにした。
「さて、これでようやくククールの話に入れるな」
魔王の視線がククールへと向く。その瞬間、ククールの全身の毛がぞわぞわと逆立っている。獣人の姿なので毛の量は減っているのだが、それでもよく分かるくらいに逆立っている。
「ふふっ、そう警戒はするな。ようやく再会できたのだからな、余の婚約者にな」
「……はい?」
あまりにも唐突な話に、ククールは間抜けた返事をしてしまう。
一体魔王の婚約者とはどういうことなのだろうか。
今日一日だけでいろいろと情報がなだれ込んできてしまったがために、さすがのククールもパンク寸前になってしまうのだった。




