第一章『勿忘草』 十八節『最終準備5~本気で~』
十八節『最終準備5~本気で~』
三秒ほど無言の時間を挟んだ後、言葉に頭が追い付いてきたよう。この緊急事態にみんな驚きと焦りを隠せない。
「簡単に言えば、鬼ごっこじゃな」
「簡単にって……」
「簡単じゃろう? これまでの二年間で君たちが学んだことを生かせばそう難しいことでもあるまい」
「で、でもじいちゃん! 俺まだ一回もじいちゃんに勝負事で買ったことなんてねえし、これからも壁になり続けるってじいちゃん言ってただろ?」
「そんなこと言ったかの? しかし、ならばじゃ。今がそれを超えるときなのではなかろうか孫よ」
「——っ!」
「はあ。ちょっとくらいはかっこつけてよね。こっちが恥ずかしくなるから」
空気を壊してそう言い放ったのはララだった。いや、空気を変えてと言う方が正しいかもしれないかな。
「おじいさんっ!」
「はいはい、何かな?」
「はっきり言って、あなたのお孫さんはヘタレです。わがままだし無知。しかも人に迷惑ばっかりかける」
「ほっほっほ。これはこれは」
「失礼ですよね。でも! 私はそんなあなたのお孫さんが愛おしくてたまらない。わがままの裏にたまに顔を出す優しさ、無知ゆえの圧倒的な自信とそれに見合うだけの努力、人のために何かしようとしていっつも失敗するけど百回に一回ぐらいは成功する迷惑。狂おしいほどに大好きです」
「……!?!?!?!?」
「そこ! しゃきっとする!」
「!」
「よろしい」
「でもヘタレなとこだけは救いようがありません」
「・・・・・・」
「何回も傷つけられた。このまま終わった方が楽かもしれないって思った。けど」
「けど! 白亜が初めて、私のことを一番に考えて、誘ってくれた。私のこの冒険課程ってチャンス……。私は絶対にものにして見せます! そのためにも、この試験を通って、その挑戦権をつかみます!」
「ほほう、」
「らら、すごいね。学校一の実力者と、伝説に向かって、恋の話で大見え切った」
「あれ!? 私、何言ってんだろ!?」
ララは頭真っ白。白亜は完全に下を向いて動かなくなっている。言われた通りヘタレのようだ。全く、わがまま小僧に無知の助、ヘタレとどんどんと名誉な呼び名が増えるもんだ。
「白亜にもこんなふうに言ってくれる人ができたのか。吾輩はうれしい限りじゃ」
「大見え切ったはいいものの、策はあるのかね? まさか無策と言うわけでもあるまい?」
ララと白亜の両名はもう何もできそうにないな。恥ずかしさで高熱を出している。
「ありますよ。そのためにも準備をしたいので早めに初めても構いませんか?」
僕の助け舟に感謝してほしい。もちろん策のためでもあるけど。あのままだと試験前に二人の死者が出ることになる。
「認めるのじゃ。自由に開始してもらって構わんよ」
「イカリ殿。私としてはこのような勝手は……」
「ほっほっほ。たいしたことではない。それに、負けたらすべての非を負う。そして、勝てば何も問題ないのじゃ。物事の道理じゃな」
「「「「……」」」」
「そうおっしゃるのであれば」
のどの奥に不安が押し寄せて、何も言葉が出てこない。怖い。怖くてたまらない。
「やんぞ」
背中を鮮やかな衝撃が打つ。こういう時は頼りになるな。低く響く声が心地いい。
「言われなくたってやってやるよ。本気でな」
「大見え切っちゃったんだから本気で頼むわよ!」
「風怖い。肌切れる。けど、頑張るよ。本気でね」
「さてさて。もういいかな?」
「はい。よろしくお願いします」
「それでは、それでは。君たちが先に逃げ始める。そのあと少しして吾輩たちがそれを追う。いいかな?」
「わかっています」
「……それから、その覚悟、本気の意思が無駄にならないことを本気で祈っておるよ」
「それでは試験、開始」
そんな淡白なアンセントワート先生の声で試験はついに始まった。
やっっっっと試験が始まりましたね。冒険課程まではまだまだかかりそうです……
無駄なことが多いのかペースが遅いのかはわかりませんがこれからもお付き合いください!
それでは、また。




