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 見上げた先には曇天の空。

 昼間だっていうのに、太陽は分厚い雲の向こうに隠れたままで薄暗い。

 おまけに雪までチラついている。

 時折ごうと音を立てて、湿った風が吹き抜ける。

 あの日を思い出す、寒い日だった。


 血の匂いが風に乗ってくる。

 俺はただ、廃墟になった建物の屋上からそいつらを見ていた。

 動く骸骨(ミートレス)共とがむしゃらに戦う防人達をだ。

 昼間だからか、いつもより余計にノロマな動く骸骨(ミートレス)共に、それでも苦戦している様子の囚人兵達を眺めながら、あいつらもこんな気分だったのかなんて考える。


 俺達呪い子(カーズド)は、今までーーつまり教授が総督になるまでは、この街の人別帳に載ってなかった。要するに居ない事になっていたんだ。

 当然、囚人兵たちに最低限出される食事の配給も俺たちの分は無かった。

 だからその日食う物を手に入れるために、あいつらの使いっ走りみたいなことも散々やった。

 あいつらの代わりに労役をこなしたりだ。

 具体的に言えば、時折思い出したように壁を襲う異形(フリークス)を追い払ったりだ。ほんと、死に物狂いだった。

 でもそうしなきゃ、自分も妹弟(きょうだい)達も飢えて死ぬ。

 そういう生活を物心ついた頃から続けてきた。

 それが今じゃ、必死の形相で異形と殺しあう防人達を高みの見物だ。

 全く人生何があるかわからないもんだ。


 (あーあ、また一人死んだ)


 俺の見ている先で、囚人兵が血溜まりに沈んだ。別になんとも思わない、あいつらが俺たちにしてくれた事なんて何もない。

 だから、あいつらが何人死のうと俺の知ったこっちゃない。

 知ったこっちゃないけれど、胸糞の悪い光景だった。


「ふむ、まるでダメだな。彼らは動く骸骨(ミートレス)の処し方を知らないのかね?」


 こんな光景を作り出した元凶が、俺の傍で不満げな声を上げる。

 オペラグラスを片手に物見遊山気分で阿鼻叫喚の地獄絵図を見物しているコイツが、まったくもって業腹な事に俺の所有者(・・・)だ。


「これに何か意味があるのかよ人でなし(教授)


 別にあの哀れな囚人兵に同情してる訳じゃない。あいつらに受けた仕打ちを俺は忘れていない。

 だから本当に、あいつらがどうなろうと構いやしない。ただ、むざむざ殺される為にあそこに向かわせたんだとしたら、随分と趣味の悪い事だと思った。


「心外だな。これは枢機卿(カーディナル)の尖兵たる動く骸骨(ミートレス)、その分布と数を把握するため調査だ。その為の戦力投入だったのだが、まぁ正直を言えば彼らがあそこまで戦えもしないとは思っていなかった」


「新入りじゃあんなもんだろ」


 肩をすくめて見せた教授に、適当な相槌を打って俺は立ち上がる。


「適当に切り上げさせたほうがいいんじゃないか? この調子じゃ使える駒があっという間になくなるぜ?」


 そう吐き捨てて俺は血なまぐさい光景に背を向けた。

 あの日、教授が枢機卿(カーディナル)を屠ると言いだしたあの日から、もう2週間が経とうとしていた。




 結局あの日、俺はプリシラを俺たちの隠れ家に連れて帰ることはできなかった。

 酷く打ち拉がれて一人隠れ家に戻った俺に、マルクは何も言わなかった。その事が余計に俺の心を(きし)ませたけど、まぁ自業自得ってやつだとは思う。


 あれっきりプリシラには会っていない。

 教授が言うには、酷く塞ぎ込んでいるそうだ。けれど自殺を図るようなことはもうしなくなったと聞いた。

 もし自殺しようとしても、命令してでも辞めさせるように教授に俺が頼んだんだ。


 全く情けない。

 俺はあの時、プリシラの気持ちに向き合えなかった。そのくせ、ただ彼女に生きていて欲しいって願いを押し付けた。

 まったく、最低だ。

 それでも呪いが解ければーーという僅かな希望にすがって教授に自分を売った。

 今や俺は教授の飼い犬だ。

 せめて自分の無力さから目を逸らす為に、何かしていると思いたかった。

 だから俺は教授の話に乗った。

 呪いの解明のために、枢機卿(カーディナル)を倒すなんて荒唐無稽な話にだ。


 ーー何を驚いているんだね? 君達も薄々感づいていたんじゃないのかね? 君達の呪いと異形(フリークス)達との間に、何かしらの因果関係があることにーー。


 あの日教授はそう言った。

 確かに、俺たちと奴らの力は同種のものだ。もしかしたら、それを認めてしまう事が怖かっただけなのかもしれない。


 呪いは解けない。ただしこれまでのやり方では、だ。

 なら、試したことのない事を試していかなきゃならないんだろう。

 教授のやり口は極端に過ぎるにしても、つまりはそういうことなんだ。


 風が濃紺の厚手のコートをはためかせる。

 じっとりと張り付くような、湿り気を帯びた冷たい風に襟を寄せた。

 教授の所有物になった俺には、総督補佐官とかいう肩書きが付いた。

 このコートはそれを示すんだそうだ。

 まぁ見てくれなんてどうだっていい。

 俺のやる事はもう決まっている。

 アイツをーー枢機卿(カーディナル)を殺すんだ。

 どうやって?

 そんな疑問はもう持たない、そんな事はどうせ教授が考えるだろ。

 俺はただ教授の手足になって、アイツのやれということをやればいい。

 きっと上手くいく。何もかもが良い方向へ向く。

 別にそんな幻想を見てる訳じゃない。

 ただ、今よりひどい事にはならないだろうと、思っているだけだった。


第一部完結です。

書きダメがなくなったので続きはのんびり更新です。

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