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超弩級超重ゴーレム戦艦 ヒューガ  作者: 藤 まもる
第6章 アスティリアス貿易編
66/75

第53話「魔王様、買い物する」

エスパーニャ暦5542年 6月22日 14時00分

アスティリアス王国 ダービー領内陸

マットロックの町


 魔族国バルバドスからダービー領に渡ったエンリケ局長は、領都エプソムダービーで以前世話になったアスティリアス海軍軍人を尋ね、退役水兵、教官、船員などの情報を得て人材を集めた。


 商業ギルドや船乗りが集まる酒場にも顔を出し、移民パンフレットを配り、募集も行なう。

 魔王国は出来たばかりの国なので知名度は低いが、最近の高失業率も手伝って、バルバドスとダービー領から順調に人員を調達できた。

 とはいえ、人数は50名程度であり、必要最低限ではあるが。


 領都エプソムダービーでの募集がひと段落したエンリケ局長は、ダービー領内陸の町マットロックに移動。

 ここにいる失業した元水兵を尋ねながら、移民や冒険者・探索者見習いを募集することにした。


 このマットロックのギルドは酒場と同じ建物内にあり、エンリケ局長は休憩のため、護衛と共に酒場でお茶を飲んでいた。

 そこへ、地元の13~14歳ぐらいの少女3名と少年2名が入ってきて、エンリケ局長のところへやって来た。


「ねえおじさん。これ見たんだけど、本当なの?」


 先頭にいた金髪の少女は、例の移民広告を差し出す。


「おお。移民の募集だね。勿論さ。魔王国ヴァルドロードは人手不足でね。それで何が希望だい? 兵士かな?」


「ううん。探索者だよ……」


 エンリケ局長は話しながら、少年少女の状況を推測した。

 探索者見習いなのだろうが、着けているのは短剣と革の服程度だ。


 おそらく農民出の次男、次女以降の者であろう。

 これはレオンでもよくある話だが、農村の人口が増えすぎると、口減らしの為に村を追い出されて、探索者や単純労働などで独立させられるのだ。

 当然お金もあまり持ってなく、装備もろくに整えられない。


 その昔は、エスパーニャ大陸でも奴隷制度があって、農民が売られることもあったが、現在では監獄制度に移行。

 犯罪者は監獄に送られ、軽犯罪者は経済奴隷としてタダ働きさせられる。

 いずれにせよ自分で食い扶持を確保しなくてはならないので、奴隷制度があったころに比べると生活や求職は厳しくなっている。


 そこにこの移民広告だ。

 探索者になるための破格の待遇がそこには書いてある。

 チャンスと見たエンリケ局長は、少年少女らにセールスをかけた。


「そこに書いてある待遇の通り、らくらく冒険パックでレムノス島で移住すれば、探索者として働ける。装備が無ければ武器・鎧は貸与されるし、ギルドで無料訓練も受けられる。ああ、もちろんアパートメントは無料で借りられるよ。祝い金はレムノス島に着いた所で支払われる。レムノス島の探索者は少ないからね。大儲けだってできるかも知れないぞ」


 話を聞いた金髪少女は、隣の黒髪少女と話す。


「本当らしいよ。これ行ったほうがいいんじゃないの。こんなチャンス滅多にないわ」


「でもぉ。話が旨すぎない? それに魔王国なんでしょ。人間族だと肩身が狭いんじゃない?」


「だけど胸にあんなに沢山勲章つけた軍人なんか見たことないよ。きっと偉い人だから大丈夫よ」


「ハハッ。お嬢さん方、魔王国はたしかに魔族が多いが、人間族も沢山いるぞ。皆きちんと平等に扱われている。その証拠が私だ。私は魔王海軍の最高責任者だが人間族だよ。とりあえずレムノス島に渡ってみないか? まじめに働けば2年後にはここに戻ってくることもできる、悪くないだろ?」


 エンリケ局長は柔らかい笑顔、エンリケスマイルを浮かべる。

 優しそうなお父さんのような表情に、金髪の少女の胸は少しときめく。


 心温まる交流のような雰囲気だが、客観的に状況を見るとエンリケ局長は、世間知らずの貧乏少女をたぶらかす怪しいおっさんにしか見えなかった。 




エスパーニャ暦5542年 6月23日 16時00分

アルボラン海

魔王船 司令の間


 現在魔王船は12ノットでアルボラン海を西進、武器を購入するためにグレナダ王国に向かっている。

 司令の間では、ブレインが2つの目を大きく横に離して「測距儀ごっこ」をしている。

 ブレインが最近ハマッている遊びだ。


 もともとブレインとは魔王船の武装の相談をしていたのだが、その時にブレインからの質問で、遠距離の標的の距離をどう測るか質問があった。

 こっちの船では、ほぼ目測に頼って距離を測っている。


 だから軍艦は側面に大砲を沢山つけて、数撃ちゃ当たる。の方式で、不正確な目測を補っているのだ。

 無論、軍人は目測を鍛える訓練もするのだが、どうしても誤差が出るので、正確性には限界がある。

 そこでブレインには、俺がネットで見たうろ覚えの「測距儀」の知識を伝えた。


 もちろんブレインは、俺と前世の記憶を共有しているが、なんでも分かるほど便利ではない。

 あくまで共有するのは、俺が見た光景と音声だけで、俺の思考までは共有されない。

 だからブレインからすれば、俺が前世で話したり読んだりする日本語は意味が理解できないし、地球の映像を見ても細かい所までは分からないのだ。



 距離を測る「測距儀」は、横長の左右に伸びた筒がついていて、両端に覗き穴がついている。

 そこからミラーで画像を中心に送り、画像を拡大して見ることによって、画像差で距離を測る装置だ。


 具体的には、測距儀の中心にあるレンズを覗くと、左右の覗き穴から送られた画像が2つ見える。

 この2つの画像は重なってブレて見えており、ダイヤルを回してピントを合わせる。後は、測距儀に付いている目盛りを見れば、目標との距離が分かるという仕掛けだ。

 他にも、上下に分割した絵を合わせる方式とか色々あるらしいが、細かいことは知らない。


 このおおざっぱな説明にブレインは高い関心を示し、神経をいじってから意識を3つに分割することにより、測距儀の機能に擬態することに成功した。

 本当、ブレインは何でもできる奴だな。

 ブレインは2つの目を大きく離して、送られてくる2つの像のピントを神経内で合わせ、自身の目の角度から目標の距離を測った。

 床の上にコップを置いて、離れた所からブレインが距離を測る。


「魔王様、コップまでの距離2・2メートルです」


「よーし測るぞ。うん。ピタリ2・2メートルだな。優秀だ」


「ありがとうございます。しかし100メートル以内なら大丈夫なのですが、それ以上では誤差が出てしまいます。まだまだ訓練が必要です」


「そうだな、砲撃で使うなら距離1万メートルまでは必要だろう。訓練でモノに出来たら、ヒューガやアーク・デーモンにも伝えてくれ」


「ハッ。分かりました」


 まあチートなブレインなら、そのうち測距儀ごっこもマスターできるだろう。

 

 魔王船は24日にグレナダ王国に無事到着。

 ここでベルタさんの知り合いの武器商人に合うことになっている。





    超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ

   ⇒第6章 アスティリアス貿易編





 バートウィッスル商会、グレナダ支店の一室で俺が待っていると、薄着、黒髪のグラマーな中東系の褐色美人が入ってきた。


「お初にお目にかかります魔王様。私は武器商人のカルロッタ・ビジカ・デル=コーレと申します。以後お見知りおきを」


「初めまして、魔王のソールヴァルドです。ヨロシクお願いします」


「我がビジカ商会は様々な武器を取り扱っています。竜騎から装甲車、大砲まで色々です。魔王様が戦争をする時には是非ご利用ください。サービスさせて貰います」


「ハハハ……」


 カルロッタさんは俺にウインクをした。

 日本で生まれ育った記憶がある俺からは、乾いた笑いしか出なかった。

 しかしこんな色っぽい人が武器商人とはねぇ。


 さっそく、カルロッタさんから渡された武器リストから、武器を購入することにする。

 まず最初に購入するのは竜騎だ。


 種類はシャルルさんと相談してもう決めてある。

 戦闘騎の中型竜マッキ・フォルゴーレ種だ。

 グレナダ王国で輸出している戦闘騎はコレしかない。

 

 各国の主力戦闘騎は、長い間品種改良を繰り返して出来た特別種で、おいそれと輸出はされない。

 しかし、このマッキ・フォルゴーレ種は、値段が安い割には性能はなかなか高く、腕のいいワイバーンドライバーなら、かなり戦えるとシャルル局長が言っていた。

 というわけで、こいつを40騎購入する。



 こいつは中型竜で、本来は地上用なのだが、魔王船、レムノス島での運用になるから問題は無い。

 竜騎母艦に積む小型竜は、小型で高性能なので値段が高いが、そもそもどの国も輸出していない。

 例外として偵察騎はアスティリアスで売っている。

 できれば爆撃騎も欲しい所だが、残念ながら予算が一杯一杯だ。

 また今度の機会にしておこう。


 マッキ・フォルゴーレ種は、1騎金貨100枚。

 かなり安いと思われるが、もちろんこれには仕掛けがある。


「マッキ・フォルゴーレ種40騎ですね。本体は全部で金貨4000枚となります。それに加えメンテナンス要員2名、派遣料は1年契約で金貨1000枚。竜座などの各種装備セットが50セットで2000枚となります。以降購入5年間は、消耗品や人員サービスはビジカ商会からのみ購入可能です。契約違反があればペナルティがありますので、ご注意下さい」


 つまり携帯電話の販売方法と一緒だ。

 まず竜騎本体を安価で販売、5年縛りで餌や消耗品の販売を独占することで、儲けを出すわけだ。

 たとえ購入した竜騎が戦闘で全滅したとしても、餌だけは40騎分を5年間購入しなくてはいけない契約になってる。

 まっ、こっちとしては竜騎をすぐに揃えたいので、多少高くついてもいい。



 次は対空装備。

 20連装対空投射機、40連装対空投射機、対空臼砲。


 残念ながら研究用に弾と合わせて1セットだけだ。

 沢山買うだけの金が無い。

 まだしばらくは、召喚に頼らなければならない。


 艦載砲は、すでに登録している物もあるが、5インチ砲1セットだけ研究用に購入した。

 海軍の主力砲は5~6インチ砲が主流だが、陸軍にはさらに大きな口径の砲があり、8インチ砲を1セット購入。


 さらに船の材料として使うために、鉄8千トン。

 竜騎の基地を作るために、竜巣ドーム建築資材セットを10基。

 車両は馬車20台、輸送車両20台、建築用車両10台を購入した。


 これでグレナダ王国での買い物は終了だ。

 残りはアスティリアスで買う予定。


 さっそく購入した武器や物資を運び出す。

 グレナダ王国では武器輸出は重要な産業のため、港の設備も整えられ、短時間で商品を運び出せる。

 およそ1日半ですべての積み込みが終了。

 26日夜に魔王船はグレナダ王国を出た。



 29日。

 ダービー領に再び上陸。


 アスティリアス支店へ行き、デズモンドさんに魔道具の販売過程を確認。

 結局最後まで、工業扇、魔導冷風機、魔導洗濯機、魔導瞬間湯沸かし器が売れ残ったが、最後に商人がやってきて、まとめて買ったそうだ。

 その商人は「これは海軍の軍艦に売る」と言っていたそうだ。


 ともかく、魔王国の商品は野に放たれたので、優秀な商品は後で注文や問い合わせが来ると思われる。

 評価されるかどうか、結果が出るまでは半年はかかるだろう。


 さっそく俺は儲けた金で、バートウィッスル商会を通して金塊、銀塊、銅塊と魔力結晶を購入。

 金塊は魔王金貨にするつもりだが、買える量が少なかったので、金の含有比率を下げて通貨を供給するつもりだ。



 その後、アスティリアス支店でベルタさんの知り合い、アスティリアス王国軍、武器輸出課のテレンスさんと会う。

 こちらでもお買い物だ。


 まず魔導通信機、ゴーレム鳩。

 それに陸軍が要塞砲や海岸砲など、拠点防御に使用している大口径大砲を購入する。


「陸専用の10インチ砲と12インチ砲ですか。10インチ砲はともかく、12インチも買われるので?」


「はい。そうですが……」


 テレンスさんは怪訝な顔だ。

 話を聞いてみると、どうやら12インチは、陸軍では失敗作の烙印が押されているらしい。

 原因は、単純に砲も弾も大きすぎて、運用しづらいからだそうだ。


 よって12インチ砲の生産は凍結。

 作った砲7門のうち6門は首都の海岸砲に使用し、1門を在庫処分で売り出したらしい。

 弾の生産もすでに終了しており、輸出用は10発しかついていない。

 当然買い手はおらず、倉庫で埃をかぶっている。


 が、俺としては、この大口径砲は魔王船の主砲にちょうどいいと思った。

 やはり魔王船の主砲は、それなりに大きいほうが良い。


 それに敵になる軍艦は3千トン級メインなので、大口径の主砲は海戦より地上砲撃メインで使おうと考えている。

 まあ弾のほうは、俺が開発するので問題は無い。



 それから兵器リストを眺めていて、俺は一つ気になった竜騎を見つけた。

 その竜騎は竜騎母艦用の小型竜で、通常は売りに出されることの無いはずの竜騎だった。


「あのー、テレンスさん。このハリアー種という竜騎なんですが……」


「はあっ。魔王様は変わった兵器がお好きなんですね。それは海軍始って以来の欠陥竜騎で、品種改良大失敗の例と言われています」


 ハリアー種は、ドルレオン島で開発された竜騎だそうで、10年前に100騎ほど育てたそうだ。

 特徴はドラゴンとワイバーンのハイブリッドで、腕は無く翼のみのワイバーンの特徴に、太い胴体のドラゴンの特徴を持っている。

 ドルレオン島の品種改良担当者が、ドラゴンとワイバーンを掛け合わせれば、万能竜騎ができるんじゃないか。

 という思いつきで開発したらしい。


 こいつの長所は、戦闘騎と爆撃騎の任務を両方できるという所だ。

 竜爆弾を搭載でき、ブレスも1日に1発だけ撃てる。

 またワイバーンカッターで、敵騎を攻撃することもできる。

 そして上昇力が高く、発進時にも風の補助も無く楽に発進可能だ。


 短所は器用貧乏なところ。

 なんでも出来るが、すべてが中途半端な能力だ。

 まず航続距離が650キロと短く、索敵は300キロの範囲でしかできない。


 次に速度が遅い。

 通常の竜騎の速度は、平均300キロ、戦闘時380キロ、急降下450キロくらいだが、ハリアー種は平均250キロ、戦闘時320キロ、急降下400キロだ。

 それに旋回能力が低く、運動性が鈍重で格闘戦が出来ない。

 後は爆撃騎としても中途半端、ブレスが1日1発しか撃てない。


 これは試験の時にアスティリアス海軍で問題となり、結局30騎購入しただけで終わった。

 だが品種改良担当者は諦めず、その後も飼育を続け、数は大幅に減ったものの、まだ30騎が健在だ。



 俺がこいつを魅力的に思ったのは、繁殖セットも一緒に売りに出されている点だ。

 普通、輸出竜騎はオスで、去勢されて売りに出され、メスは門外不出として外に出ない。

 だがハリアー種は失敗作の投売りのためか、繁殖セットとしてツガイが販売されているのだ。

 つまり魔王国の自前で生産可能ということ。


 性能も言うほど悪くは無いと思う。

 魔王海軍の艦艇は少なく、駆逐艦、巡洋艦は多機能艦にする予定で、すべてに竜騎を搭載する。

 ただし1艦につき2騎だけなので、搭載する竜騎は、戦闘、爆撃、哨戒となんでもこなすハリアー種のほうが向いていると思える。

 そりゃ、竜騎母艦で使うとなると能力不足だがね。


 あとは値段だ。

 1騎金貨200枚。

 マッキ・フォルゴーレ種より高いが、縛り無しでは破格の値段だ。

 俺はハリアー種の購入をテレンスさんに打診した。


「ハリアー種はドルレオン島にいます。あそこは魔族の自治領でして、紹介状を書きますので直接現地で購入してください」


 というわけで、俺たちは帰りにドルレオン島に寄ることになった。

 そこは獣魔鷹族が開拓した島で、バルバドスやアスティリアスの竜騎の繁殖や、傭兵のドラゴンドライバーを主力産業としている。

 竜騎戦を初めて行なった偉人、ロリー・ギャラガーから直接指導を受け、初期のころから竜騎を繁殖。

 昔からアスティリアス王国やバルバドスに竜騎を販売していたらしい。





エスパーニャ暦5542年 6月30日 10時00分

領都エプソムダービー南沖30キロ

魔王船 司令の間


 さてと、7月2日あたりに魔王船は出発し、ドルレオン島に寄ってからレムノス島に帰る予定だ。

 問題はレムノス島とバルバドス、アスティリアスとどう連絡を取るか。


 ゴーレム鳩の飛行可能距離は3千キロなので、アスティリアス北部から投げないと、レムノス島に届かない。

 だから連絡要員をアスティリアス支店に残し、バルバドスには外交官を配置しなくてはいけない。

 しかし外交官か、適任がいないな。


 連絡要員の方は、獣魔ハムスター族キンクマ種2名、きなことイチゴにやらせることにした。

 ベルタさんにお願いして、アスティリアス支店で使っていない小さな倉庫を事務所にする。

 護衛にバトラメイド1名もつける。


「では、きなことイチゴは連絡要員としてアスティリアス支店に残り、連絡業務を行なってくれ」


「はいです! 魔王さま、頑張ります」


 きなことイチゴは、目をキラキラさせながら元気良く返事をする。

 あぁ、2人ともハムスター族らしく、ちっちゃくて可愛いなぁ。


 ……うん。やっぱこいつらに外交官の仕事は無理だ。

 説得力が無さ過ぎる。


 やはり専門の外交官を新たに召喚したほうが良いな。

 しかし、外交官なんかリストにあったっけ?


 俺は召喚宝典を呼び出し、外交官を探してみた。

 すると1件だけ該当する奴がいた。

 おおっ、やった。

 俺は外交官の情報を読んでみる。



■ロケット外交官


種族 ハイメタルゴーレム(金)


ロケットに変形して空を飛ぶ凄腕外交官。

頭の角から破壊光線を出して、指先から岩を高速で打ち出す。

胸部からゴーレム鳩を射出可能。



 いやあの……

 これ外交官だよね?


 なんで空飛んだり破壊光線出したりできるんだろう?

 なんか嫌な予感がするが、こいつしか呼び出せないようだし、しょうがないか。



 俺は召喚ボタンを押して、ロケット外交官を召喚した。

 まばゆい光が発生し、しばらくして黄金色に輝くゴーレムが出現した。


「魔王様、召喚していただきありがとうございます。魔王国の外交はお任せ下さい!」


 ロケット外交官は俺に頭を下げる。

 俺はそのゴーレムの姿に既視感を憶える。


 人間の銅像に金メッキをしたような体。

 男らしい顔立ち。

 耳から長い角が伸びていて先っぽが丸い。

 そして歌舞伎役者のような長くて白い髪。


 ちょっと待て、お前は○グマ大使かよっ!

 外見似すぎだろうが、ネタが古すぎて誰も知らんわ!



 いやいや、少し待てよお前、たしかにあいつは大使だけど、外交官の仕事なんかしてたっけ?

 混乱気味の俺はロケット外交官に質問した。


「お前外交官だよな。なんで空飛べたりするわけ?」


「ハッハッハッ、魔王様。外交官の仕事はスピードが重要です。私はロケットに変形すれば、時速100キロで飛行可能でして、たちどころに関係各所に移動可能です。言語も堪能であり各国の書類も読めます。私が来たからには、魔王様に外交で不自由な思いはさせません!」


「ああ、そうなんだ……」


「ではさっそくバルバドスに外交官として赴任致します。バートウィッスル商会本店に事務所を設置しますので。それでは!」


 そういうとロケット外交官は、ガチャン、ガチャンと金属音を響かせて歩き、司令の間、横の見張り台に出てロケットに変形して、盛大に煙を上げながら大空に飛び立っていった。

 俺たちは唖然としながら、バルバドス方向に飛んでいく黄金ロケットを見送る。

 大丈夫なのか、あいつ?

 絶対不審者として迎撃されると思うんだがな。


 まあ本人が自信満々だから任せるか。

 でもあいつで外交官としての説得力があるのだろうか?





エスパーニャ暦5542年 7月1日 9時00分

領都エプソムダービー湾岸

ポート・ダービー


 ここはエプソムダービーの港だ。

 今日は移民や局長達の集結日。

 早く結果が知りたくて、俺は魔王船から婚約者達と共にこの岸壁にやって来た。

 俺は腰に差したロッドに話しかける。


「ロッドマン。皆はこっちに向かっているか?」


「はい。バルバドスのシーエルフ組はあと10分で到着予定。シャルル組、マリオ組は領都内を南下中、1時間後に到着。エンリケ組は今領都に着いた模様で、到着は午後になりそうです」


 話を聞いているうちに向こうからシーエルフ2名に引率された700名ほどの集団がやって来た。

 先頭のシルビア村のシーエルフが帰還の報告を行なう。


「魔王様、ただいま帰還しました。バルバドスからの移民750名、官僚5名、外交官を連れて来ました」


 俺はシーエルフ達にねぎらいの言葉をかけた。

 話によれば、この移民たちは4魔公爵が派遣してきたらしい。


 俺が移民を募集していることを知った魔公爵達は、俺と深い関係を気付くために、強制的に領内の住民を移民団としたのだ。

 その際、どっちが沢山移民を送れるか競争になったが、統制カウンシルの調整により、各領村1つ分の移民を派遣することになったそうだ。

 ヒモ付き移民だろうが、別にそこまでやって貰う必要はなかったんだがね。

 村の人達には悪いことをしたな。


 幸いにも魔王国に行けるということで、村民の士気が高いのが唯一の救いだ。

 しかし各村長は、目が死んでるような気はするが。


 移民団は各魔公爵領から、1角魔族200名、ドワーフ150名、森エルフ150名、獣魔兎族200名で、魔公爵の命令とは関係なく、シーエルフの集落50名まるごと、バルバドスの商人が4名、独自に魔王国に来ることになった。


 官僚の方は、俺が統制カウンシルに頼んでおいた、政治制度専門家1名、法律専門家2名、経済専門家2名が来た。

 とりあえず魔王国の政治制度と法律関係は、バルバドスの制度をそのまま採用することになった。

 あまり国作りにかける時間も無いので、今は制度を表に貼り付けて、そのまま走るしかない。


 移民たちは俺に挨拶して、さっそくマギアランチに乗り込み、魔王船に向かう。

 その間にマリオ局長、シャルル局長に引率された100名ほどの集団が来た。

 マリオ局長が俺に声をかける。


「魔王様、今戻りました。集めたのは教師役の退役軍人10名、陸兵は30名ほどです。魔族の冒険者見習い7名も連れて来ました」


「やはりいきなりだと、そんなに集まらないですね」


「どうも魔王様、シャルルです。こちらはドライバー候補生46名、整備要員26名、退役した指導員4名を引っ張ってきました」


「ご苦労様。結構ドライバーを集めたんですね。しかし候補生とは?」


「竜騎ドライバーは人気職ですからね。レオンやアスティリアスでは、毎年50名の募集に2千人くらい来るのですよ。後は200名を採用して150名を落とすので、ある程度訓練を受けて脱落した候補生を、こっちに引っ張ってきたんですよ」


「なるほど。それだったら訓練の手間がかなり減るわけですね」


「そういうことです。レムノス島に着いて、みっちり訓練すれば30名はすぐに戦力化することができるでしょう」



 軍人達もマギアランチのピストン輸送で次々に魔王船に送られた。

 ベルタさんとセシリータさん、パッツィも戻って来た。

 この3人は昨日まで、レムノス島民から頼まれた買い物をしていたそうだ。

 派遣した例のロケット外交官ときなこ達は、まじめにやっているそうだ。


 昼食を終え、昼過ぎにエンリケ局長らが到着。

 こちらは退役した海軍指導員8名、元船長4名、船員20名、水兵見習い34名を連れて来た。

 頼んでいたレオンの軍事関連書籍も手に入れたようだ。


 移民はダービー領内陸のマットロック周辺の農村から抽出した模様。

 全員が人間族だ。

 平均年齢は12~14歳あたり。

 最年長は16歳ぐらいだが、8歳くらいの子供もいるわ。

 若いなぁ。


 マットロック移民団の人数は、北部移民団190名、西部移民団170名。

 別にかまいやしないんだが、皆表情が悲痛だな。

 まるで今からガダルカナルにでも渡るかのような顔をしている。


「エンリケ局長。移民たちが緊張しているように見えるんですが……」


「あぁ、ダービー領南部は別ですが、内陸の人間族の村では、魔族を一生見ることなく生涯を終える人間が沢山いますからね。初めて魔族を見てきっと緊張してるんでしょう。おまけに魔王国ですからね。アスティリアスでは子供の時に『言うこと聞かない悪い子は覇王にさらわれて兵士にされるよ』とか『魔王に食べられるよ』と良く言われるそうです。ハハッ、さすがに信じてはいないでしょうがね」


 おいおい。

 なんで俺が食べるほうなんだよ。


「しかしエンリケ局長。見た感じ女の子が多いですね。半分以上女で女児もいるようですが」


 エンリケ局長は俺の耳に口を寄せ、小声で話す。


「まあハッキリ言うと、最近の不景気の影響での口減らしの意味が大きいです。実質魔王国に売られたようなもんです、男も次男以降ばっかりですしね。昔は奴隷として売ってたんですが、今はそれもできないので、移民の話は人余りの農村ではちょうど良かったようです」


 ははぁー。

 なるほどねぇ、

 豊かな国が多いとはいえ、まだまだエスパーニャ大陸でもこんな話があるんだな。

 まあ俺としては、それでも絶海の孤島に来てくれるから、ありがたい話ではあるのだがね。

 その悲痛な顔の農民とは裏腹に、マットロックの町から引っ張った、まだ年若い冒険者見習い8名、探索者見習い20名は「一旗あげるぞ!」とハイテンションだった。



 翌日7月2日。

 魔王船に全乗員が乗ったのを確認。

 ベルタさんやロケット外交官らに見送られ、ダービー領から出発した魔王船は北上を開始した。


 3月10日にレムノス島を出て早4ヶ月、やっと魔王船は帰路につく。

 帰りは12ノットとやや早いペースでレムノス島へ進んだ。

 今思えば、こっちに来るのに少しゆっくりし過ぎたかも知れない。


 帰りも艦内では魔道具や缶詰の生産を続けている。

 これはレムノス島向けに作られ、最初は軍や役所に供給されるだろう。



 そしていよいよ駆逐艦に武装を施すことになった。

 まず最初に小型の船で試してから、その経験を魔王船の武装に生かすつもりだ。


 俺は召喚宝典で5インチ砲や対空臼砲と弾を沢山召喚し、スプリガン達が駆逐艦に設置する。

 それと平行して俺とグスタフは、造船所の片隅で5インチ連装砲塔の製作を開始した。


 砲塔の中に5インチ砲を2門並べて配置し、魔導モーターで砲塔が回転するようにする。

 それだけではなく、砲塔直下の揚弾機構、弾薬庫まで作って駆逐艦艦首部分に2基設置する予定だ。

 俺のうろ憶えの知識はグスタフに伝えてある。

 彼ならきっと作れるだろう。


 6日。

 ドルレオン島に到着。

 俺とパッツィ、シャルル局長で上陸、ハリアー種を買うことを村長に伝えた。


 ドルレオン島には、島の南側に獣魔鷹族が600名住んでおり、湾岸に大きな漁村が2つ、内陸に竜騎を育てる施設が広がっていた。

 ここでも魔王が来たということで、一時大騒ぎになった。

 おまけに買うのが欠陥のハリアー種だということで2度ビックリ。

 結局こっちも金が無いので、来年の夏ごろに購入するということで話し合いがついた。



 11日。

 超海流に到達。

 ゴーレム鳩でレムノス島に先触れを出し、超海流をあっさり突破した。

 しかし魔王船が揺れまくるので、スリルは満点だ。


 俺たちはいつものように司令の間の横の見張り台で、超海流の絶景を眺める。

 ふと甲板を見ると、マットロックの移民団が通り過ぎる超海流を見ていた。


 マットロックの移民団は、北部移民団190名、西部移民団170名で、半分以上が女だ。

 彼ら、少年少女らは、この超海流を渡って何を思ったのだろうか。

 もう二度と故郷には戻れないと考えているのか。



超海流 流れを抜けてその先に あるのは希望か絶望か


故郷思いしその瞳 海原見つめて たたずめば


渡りのササゴイ先へ飛ぶ



 12日。

 魔王船は無事レムノス島に帰郷した。



    第53話 「魔王様、買い物する」

   ⇒第54話 「魔王様、レムノス島に帰郷する」


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