第52話「魔王様、成金になる」
エスパーニャ暦5542年 5月21日 13時00分
首都ラヴィアンローズ沖
魔王船 謁見の間
20日に魔族国バルバドスとの友好条約を締結した俺たちは、21日に魔王船に戻った。
そこへベルタ支店長のお父さん、バートウィッスル商会当主のデズモンドさんがやって来た。
「ベルタ、生きていたのか! 怪我もなくて良かったよ!」
デズモンドさんは、ベルタさんを強く抱きしめて頭を撫でた。
彼の話によれば、輸送船が襲われた数日後に、襲撃場所付近に漁船がたまたま通りかかり、アスティリアス海軍に通報。
その2日後にパトロール艦隊が現場海域周辺を捜索したが、漂流していた何名かの船員以外は回収できなかった。
船の残骸は3隻で、アッシャー号は行方不明。
知らせを聞いたデズモンドさんは、商会総出で船を借り1ヶ月ほど捜索したが、アッシャー号の行方を掴めず。
ほとんど諦めていた所に、魔王船の来訪の知らせ、翌日に海軍から遭難者の問い合わせが来て、ベルタさんが無事生きていることを聞いたそうだ。
「おおっ、コーマック船長! 元気そうで良かった!」
「ええ、魔王様のおかげで助かりましたよ。しかしアッシャー号は失ってしまいました」
「命があれば再起はできるさ。船のほうは俺が何とかしよう。幸い、仕事だけなら山のようにあるからな」
ひとしきり話した後、デズモンドさんは俺に膝をつき、挨拶した
「お初にお目にかかります魔王様。ベルタの父、デズモンドでございます。娘を助けていただき感謝しております」
「いえいえ、当然のことをしたまでです。と言いたい所ですが、現在我々はこちらで提携できるビジネスパートナーを求めています。もしよければバートウィッスル商会に商売の援助をしていただければと思うのですが」
「勿論のことでございます魔王様。さっきベルタからも聞きましたが、魔王様もすばらしい商品を発明したとか。であるならば、商売はバルバドスも良いですが、アスティリアス南部、ダービー領で行うのが良いと思われます」
「それは何故ですか?」
「あそこには各国の商人が集まっているからです。そこで評判になれば他国にも自然に商品が流れます。ダービー領の領都、エプソムダービーであれば、我がバートウィッスル商会の支店もあり、充分に支援が行なえます」
「なるほど。しかし我々が魔王船で訪問してもいいのでしょうか?」
「辺境伯のダービー卿に話を通せば、おそらく受け入れてくれるでしょう。あそこは人口も多く、貿易で栄えていますので。また、新商品であっても、転売目的や、様々なツテのある商人も沢山いるので、早く現金化を行なうならばダービー領が最適です」
「そうですか。よく分かりました。さっそくダービー領に使者を送りましょう」
「さっき相談したのですが、うちの娘ベルタを一緒につけましょう。ダービー卿もよく知っていますし、ベルタには支店に戻ってもらうつもりなので」
というわけで話はまとまり、セシリータさんとベルタさん。作業員4名。それにお土産としてうちで作った魔道具と缶詰を持って、23日にアスティリアス南部に連絡船で向かうことになった。ダービー卿に許可を得れば、魔王船で直接ダービー領に向かうつもりだ。
次に俺は、赤ん坊の頃にリリアに乗ってきたカプセルの中に入っている宝石10点を、デズモンドさんに見せて金貨800枚で売った。
これは後で移民募集のための活動資金にあてられる。
デズモンドさんは、コーマック船長と船員、海洋冒険者を連れて魔王船を下船、ラヴィアンローズへ帰った。
謁見の仕事が済んだ俺は、執務室にマリベルを呼び、移民広告の仕上がりを確認する。
バルバドスでの移民募集を行なうのだ。
ダービー領でも許可を受ければ、同様に募集を行なう。
グスタフに印刷魔道具を作って貰って、羊皮紙に印字した。
どれどれ…… 広告はどんな具合かな?
移民募集広告
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なんと実質年貢無料2年! さらに追加オプション!
レムノス島にいますぐGO!!
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魔王様が今年、魔王国ヴァルドロードを建国しました。
ヴァルドロードでは移民の皆様をお待ちしています。
魔王国は人間族・魔族に関係なく平等に扱います。
・村がこれ以上発展しない
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・不景気で物が売れない
・村の人口が多すぎて口減らししたい
・ライバルが多くて商売が儲からない
そんな皆さんに朗報!
新天地レムノス島で新たに再出発しませんか?
今なら多数のプランでご歓迎、早い者勝ちです!
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(レムノス島・ドルレオン島、アスティリアス北部)地図
(キャプション)レムノス島は超海流を越えた先にあります。ドルレオン島のすぐ隣。故郷の近くで安心ですね。
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●充実の農民移民プラン「らくらく農民パック」
・実質年貢無料2年……1年目2割、2年目3割、3年目~8年目4割、実質2年間無料。
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・武器支給………………質の良いレイピア、短剣、弓矢で魔獣に襲われても自衛できます。
・耕し済み畑貸与………良質の畑に水路、あとは楽々種をまくだけ。
さらにオプション「Wバリュー」
・首都商業免許 1世帯につき1件無料
・無利子融資
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●充実の職人・商人移民プラン「モウケホーダイ」
・人頭税実質2年間無料………1~4年目5割、実質2年間無料。
・住宅・店舗・倉庫無料貸与…初期投資ゼロで商売できます。
・家具支給………………………住宅は家具つきです。
・祝い金 金貨5枚支給
さらにオプション「Wバリュー」
・首都商業免許 1世帯につき1件無料
・無利子融資
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幸せ絶頂の移住民の声です!
・紫色の髪の彼女が出来ました!
シーエルフ ドルフさん(26歳)
去年シルビア村に移住したんですが、海に漁場が沢山ありますし、缶詰工場も儲かっています。それに美人の彼女もできました。いやー、ヴァルドロードって本当いい国ですね。
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・祝い金 金貨5枚支給
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(極小文字)※まじめに2年間働くと、故郷に帰ることができます。※キャンペーン内容は全て実現する見込みですが、諸般の事情により遅れることがあります。※開国したばかりなので、給与が遅れる可能性があります。※魔王国国民になるには、魔王様に忠誠を誓う必要があります。
うん。なかなかいいんじゃない。この広告。
サービスしすぎだと思うかも知れないが、これぐらいしないと、超海流を越えた絶海の孤島なんかに誰も移住しないからな。
へたすりゃ故郷に2度と戻れないかも知れないし。
移民は2年縛りとした。
2年まじめに働けば、希望すれば故郷に帰ることもできる。
しかし俺の予想が正しければ、その頃にはアルコンと戦争になってるはずで、もう数年帰還を遅らせることができるだろう。
と俺は計算している。
地図のほうは、アスティリアスはそのままで、ドルレオン島を10倍、レムノス島を20倍に大きく書いてある。
これでまるでアスティリアスのすぐ近所にレムノス島があるかのように思える。
実際はゴーレム鳩でギリギリなので3千キロ離れているわけだが、知らない人に印象操…… 分かりやすくした。
幸いバルバドスもアスティリアスも長期不況で、失業率は10パーセントを越えてる。
レオン王国から大量に注文が入っているが捌ききれない、全体の景気に波及するのは数年先とベルタさんが言っていた。
移民募集には有利なんだが、やはり条件はあって、現役の冒険者、探索者、軍人の引き抜きはNGだ。
まあ、そりゃそうだな。
この広告を皆で手分けして、ギルドや酒場、役所に置かせてもらうつもりだ。
さて、どれくらい集まりますかね。
超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ
⇒第6章 アスティリアス貿易編
21日夕方、移民募集を行なうメンバーが出発するので、俺はウェルドックから見送ることにする。
シルビア村、アシュレイ村から来たシーエルフ2人は、魔族国バルバドスで移民を募る。
俺は活動費として、金貨100枚を2人に預ける。
マリオ、エンリケ、シャルル各局長は、まずバルバドス首都から北に回って、アスティリアスへ渡り、ダービー領で移民と兵のスカウトを行なう。
皆は軍事演習で何度かアスティリアスに来た事があるので、それなりにツテはあるらしい。
「まあ軍人の世界はわりと狭いですからな。どこへいけば必要な人材がいるかは大体分かります。ただ良く知っているのはアスティリアスで、バルバドスはあまり詳しくないですが、魔王様効果で人は集まってくると思います」
エンリケ局長は出来たばかりの真新しい軍服に、インバネスを羽織ながら話す。
服はハムスター族が作ったもので、俺の監修も入っているので、帽子や服のデザインは地球の軍服寄りになっている。
上下黒でグレーのインバネスを羽織ると、なかなか格好いい。
なぜか皆、軍服の胸に大量の勲章をつけていたりする。
「募集の際にはハッタリも重要な要素なのですよ。もっとも、素人の前でしか見せませんがね」
と、マリオ局長が説明してくれた。
俺は3名に活動費として金貨100枚ずつを渡し、量産したロッドマンを渡した。
中に寄生魔獣が入っているので、テレパシーで周囲500キロに通信を行なうことができる。
小型通信機として20個ほど作った。
エンリケ局長は俺に挨拶をして迎えの船に向かう。
「それでは魔王様、行ってきます。後でバートウィッスル商会のアスティリアス支店で会いましょう」
局長3名、護衛3名の軍人一行と、シーエルフ2名は、用意されたバルバドスの警備船に乗って、ラヴィアンローズへ向かった。
1日休んで23日。
今日はバルバドスに赴いて、軍隊や国の施設などの視察を行なう。
俺とソフィア、パッツィ、メイドナイト2名、ベルタさん、セシリータさんで警備船に乗り込み、一路ラヴィアンローズに。
到着すると、ベルタさん、セシリータさんは商会本部に向かった。
2人はこれから北上し、ダンドラムで船に乗ってダービー領へ、そこでダービー卿に会って、魔王船の商売の許可を貰うつもりだ。
ついでにアスティリアスと魔王国が国交を結べるか交渉する予定。
セシリータさんにも金貨100枚とロッドマンは渡しておいた。
俺たちは豪華な馬車に乗って、市内見学の後、施設の視察だ。
「ほほう。これが魔導造幣機ですか……」
俺は目の前の大きな魔導機械を見て感心する。
ここはラヴィアンローズの造幣局で、お金を作ることができる魔導機械を見学しているのだ。
国造りの参考のために俺が見学を申し出た。
この魔導造幣機はとても便利で、材料さえあれば、金貨、銀貨、銅貨をいくらでも作ることができるのだ。
金の比率を変えることもできるし、デザインも決められる。
「なるほど、ここはこうなっているのか……」
などと言いながら、俺たちは機械の後ろに回る。
造幣局の人達から見えない位置についた俺は、もっていたロッドマンを指先で叩く、しばらくするとロッドマンから小さな触手が出て、俺の手を撫でる。
俺たちはそのまま元の位置に戻る。
実は今日の視察で、俺は密かに「召喚宝典」を持ってきたのだ。
召喚宝典は魔王船の中でしか召喚できないのだが「登録」だけなら船外でも出来るのだ。
護衛のソフィアが背負っているバックパックの中に、ブレインと召喚宝典を入れている。
召喚宝典に登録したいものがあれば、俺が杖を叩いて、ロッドマンからテレパシーでブレインに伝え、ブレインが召喚宝典を操作して対象を登録する。
登録が終了したら、ロッドマンが触手で俺の手を撫でて登録終了したことを知らせる。
これで後で、登録したものを船内で召喚できる。
まさに召喚宝典を利用したパクリ…… もといリバースエンジニアリングと言えるだろう。
だって、魔導造幣機って凄い高いもん。
缶詰とか売れたって全然買えないよ。
24日。視察2日目。
今日は午前中は陸軍の様子を視察。
午後に兵器局の視察に来た。
係員が兵器の説明をしてくれる。
「こちらは船舶用の5インチ・マギア砲となります。現在どの国でも一般的な軍艦の装備です」
「なるほど。ちょいと砲身を見せてもらいますよ」
俺は目の前の5インチ砲身の中を覗き見た。
ふーむ。
やはりライフリングは無しか。
こっちの世界でも昔は大砲の弾は球形だったらしいが、最近は一般的な先が尖った形になっている。
大部分は後装砲で、弾を装填して、チェンバーで爆発魔法を使って弾を飛ばす。
だがライフリングが無いので、安定性、飛距離はイマイチなのだろう。
だから戦列砲で大砲を並べて、命中率が低いのをカバーするというわけだ。
まあ俺もライフリングは考えたんだが、ぶっちゃけ彫り方が分からないんだよな。
どんな溝だったか、ネットがあれば簡単に調べられるのだが…… まあ今はそれはいい。
俺は砲の影でロッドマンを叩き、5インチ・マギア砲と弾を登録しておいた。
「次にこちらですが、最新式の6インチ、長砲身マギア砲になります。5インチ砲より大きな弾丸を遠距離に飛ばせます。各国とも開発してきており、いずれこの砲が海戦の主役となるでしょう」
こいつがそうか。
統制カウンシルが、バルバドスと同盟を結んだら、この砲を供給してくれると言っていたな。
だが俺はロッドマンを叩き、召喚宝典にこの砲と弾を登録した。
順調にパク…… リバースエンジニアリングは進んでいる。
その後は、陸軍の5インチ砲、8インチ砲、陸軍、海軍共通の対空バリスタ、20連装対空投射機、40連装対空投射機、対空臼砲と弾を登録。
うむ。これで魔王船と駆逐艦の武装の目処が立ったな。
25日、視察を終えた俺たちは魔王船に戻る。
そこへ、ダービー領に視察にいっていたセシリータさんから、ゴーレム鳩が来た。
ラヴィアンローズとダービー領は800キロ離れており、テレパシーが届かないのでゴーレム鳩を送ったのだろう。
さっそく中に入っていた手紙を読む。
ダービー領での交渉だが、魔王船で行くのはOKらしい。
またダービー領に限り、移動、商売、移民募集の許可も得た。
よしよし、上出来だ。
しかし国として魔王国と国交を結ぶのは、現状では不可能らしい。
一緒に入っていたベルタさんの補足説明の紙によれば、これはアスティリアスの伝統的な手法で、良く分からん相手は、まずダービー領に入れて様子を見て、信用できそうな相手なら徐々に他領での行動も許可してくれるのだそうだ。
アスティリアスの王族は、俺と魔王船には強い興味を持っているらしいが、現状での接触は不可能との判断。
あちらさんもバルバドスの政治体制は熟知しており、今俺と交流を持てば、間違いなく「内政干渉」と4大魔公爵が反発すると予想してる。
またアスティリアスも一枚岩ではない。
アスティリアスは、アスティ王国がリアス王国を併合して出来た国なのだが、旧リアス王国の貴族も生き残っており、リアス独立派の住民も居る。
下手をしてバルバドスの紛争に巻き込まれると、火の粉がリアス独立闘争にもかかってくる恐れがある。
というわけで、アスティリアスは泥沼の権力闘争に関わるのは御免こうむると言う事らしい。
政治的には、アスティリアスは伝統的に反アルコンなので、俺が反アルコンの姿勢を維持している限りは、非公式に協力してくれるらしい。
非公式なので、俺たちの立場は、あくまでただの商人、旅人、魔王船は大型輸送船という扱いであるが。
26日。バルバドスと相談の上、魔王船は移動を開始、バルバドス海峡をダービー領に向かう。
見送りの野次馬船がしばらく追いかけて来て、バルバドスのパトロール艦隊が護衛につく。
ずいぶん賑やかな出港となった。
まあダービー領は近いので、ゆっくり移動しても1日で着くのだが。
27日。
ダービー領に到着。
今度はダービー領、領海軍の警備船が魔王船の周囲を固める。
バルバドスほどでは無いが、こっちでも野次馬船がやって来た。
俺は、婚約者4人とメイドナイト2名を連れて、10トン級マギアランチで海を渡り、ダービー領の領都エプソムダービーに入る。
今回はただの商人の扱いなので、俺たちは私服で、俺はさらにフード付きローブをかぶり顔が見えないようにした。
バートウィッスル商会のアスティリアス支店で、セシリータさん。ベルタさんと合流。
魔王船の輸送担当の人員が、馬車を使って魔王船で作った商品を運んでくる。
魔王船で作った商品の生産量は以下の通り。
・家庭用魔導扇風機 300台 価格金貨12枚
・工業扇(大型魔導扇風機) 25台 価格金貨20枚
・魔導冷風機(窓式) 15台 価格金貨40枚
・軽量魔導冷蔵庫 30台 価格金貨25枚
・小型魔導冷蔵庫 75台 価格金貨10枚
・手回し式洗濯機 75台 価格金貨20枚
・魔導洗濯機 12台 価格金貨50枚
・魔導瞬間湯沸かし器 12台 価格金貨40枚
・脱水用ゴムローラー 75台 価格金貨 1枚
・缶詰(魚介) 27,000個 価格銀貨 5枚
・缶詰(貝) 27,000個 価格銀貨 5枚
28日から販売を開始する。
ベルタさんのツテで、商人も沢山呼ぶそうだ。
全部売れてくれればいいけどな。
28日。
本日よりアスティリアス支店で場所を借り、いよいよ販売を開始。
いきなり商品が売れた。
といっても、購入者はバートウィッスル商会で、扇風機100台。缶詰2種5千個ずつ。
軽量魔導冷蔵庫、小型魔導冷蔵庫を1台ずつだ。
扇風機と缶詰は、一部試供品として貴族や有力者にばら撒き、他は販売。
冷蔵庫は事務所で使うらしい。
支店前には予想を超える人手で賑わった。
集まった商人に興味を持った、通りがかりの一般人が加わったからだ。
婚約者達が商品の説明を行い、ベルタさんらが商談をまとめる。
俺はメイドナイトと人ごみに紛れ様子を窺う。
売れ行きが良いのは、やはり前評判が良かった扇風機、冷蔵庫、ゴムローラー、缶詰だ。
あれよあれよと売れていき、缶詰以外はあっという間に完売した。
ほとんど商人が買っていったが、缶詰とゴムローラーは通りすがりの人も購入していた。
なにせレオンの特需があるからな。
貿易商会が集まる領都エプソムダービーはかなり景気がいい。
他地域への波及はまだ時間がかかるらしいが。
次に売れたのは、手回し式洗濯機、魔導洗濯機だ。
地元の洗濯屋が手回し式を20台、魔導を3台買っていった。
残りの洗濯機は、転売狙いの商人が買い、手回し式は完売、魔導洗濯機はまだ7台残る。
やはり売れないのは、工業扇、魔導冷風機、魔導瞬間湯沸かし器だ。
まだ1台ずつしか売れていない。
全体の傾向だが、魔力結晶を使うためか、ほとんどが業務用目的だ。
商会や事務所、仕事場での使用がほとんどで、個人客が買うのはせいぜい缶詰とゴムローラーぐらいだ。
うーん。一般の人に売るには、もっと廉価で作らんとだめだな。
今度試作品を作ってみよう。
ベルタさんから途中経過を聞く。
「最初のすべり出しは上々です。やはり缶詰の評判がいいですね」
「しかし、魔導瞬間湯沸かし器とかまるで売れませんね」
「焦りは禁物です。ここは商人が沢山いますので、こちらが思いつかない需要先を知っている商人もいるはずです。長く陳列すれば売れますよ」
「分かりました。プロに任せます」
「それで例の輸送業務ですが、レオン王国へは南方産竜騎100騎、物資2千トンの輸送注文を受けました。細かいことはセシリータさんに伝えてあります」
「予定通り6月1日からかかります。すいませんね。何から何まで用意してもらって」
「いえいえ、こちらも手数料は頂いておりますし、良い商品も手に入るので、持ちつ持たれつですよ」
というわけで、後の販売はベルタさんの父、デズモンドさんに任せ、俺たちとベルタさんは魔王船に帰還。
6月1日から物資輸送の準備に取り掛かった。
まず魔王船のマギアランチをすべて出動させて、物資の輸送を開始。
次々に送られてくる荷物を、魔王船の住民総出でウェルドック横の倉庫や、第4デッキに並べる。
輸送代は、竜騎1騎につき金貨30枚、物資1トンにつき金貨20枚で請け負ったそうだ。
俺は魔王船左舷に新たな施設を召喚する。
竜騎をスムーズに積み込むための魔導リフトだ。
密閉型大型魔導リフト2基、開放型大型魔導リフト1基を召喚、設置した。
魔導リフトは4騎の竜騎を一度に第4デッキに下ろせる。
無論、将来的に航空機の運用も考えている。
これで魔王船左舷は、見た目航空母艦みたいになった。
輸送する竜騎には直接飛んできて貰い、輸送の手間を省くつもりだ。
4日。
積み込みが終わった魔王船は出発。
さらに竜騎と物資を積むために、一路グレナダ王国を目指す。
グレナダ王国はダービー領から南東へ2500キロだ。
11日。
グレナダ王国到着。
さっそく竜騎100騎と物資の積み込みを開始。
第4デッキにすべて積んだが、それでも4分の1しか埋まっていない。
魔王船は大きいと改めて思った。
13日にグレナダ王国出発。
レオン王国に向かう。
17日。
グレナダ王国から北東へ1500キロ移動。
レオン王国に到着。
運んできた物資と竜騎100騎の揚陸を開始。
ここでリリアから脱出してきた避難民120名がレオンに帰還する。
元々この人たちはバレンシア領外の人達で、アルコン侵攻時にたまたま仕事でバレンシア領に来ていた人達だ。
しかしこれまで苦楽を共にした仲だ。
俺は1人ずつ金貨20枚を支給し、餞別とした。
もちろん、レオン王国内での魔王の評判を上げるという下心もあるけどね。
故郷に帰る1人の水兵に、エンリケ局長とマリオ局長の家族への手紙を渡した。
生存報告だ。
エンリケ局長の家族は王都に住んでいるし、マリオ局長の家族は、たまたまレオン湾近郊の親戚の家に里帰りしていて難を逃れている。
プライベートなことなので手紙の内容は知らないが、魔王国に来るなら俺は受け入れるつもりだ。
避難民120名は、俺に感謝の言葉で挨拶し、マギアランチに乗ってレオン王国に帰っていった。
さようなら皆。
諸君の人生に幸多きことを祈る。
20日。
物資の揚陸をすべて終了。
決算を行い、現金を魔王船に輸送する。
武器を購入するために再びグレナダ王国に移動を開始。
24日。
グレナダ王国に到着。
1日前に魔王船からゴーレム鳩を飛ばして、アスティリアス支店に経過報告を送っている。
デズモンドさんから返信があり、うちの商品はすべて売れたそうだ。
おおっ、何それ凄い。
というわけで、パッツィとセシリータさんでこれまでの売り上げを計算。
結果、総売上は金貨78855枚となった。
そこから関税とバートウィッスル商会の手数料を引くと、金貨70969枚が残る。
おおざっぱに日本円で換算すると、7億969万円が儲かった。
「おお、けっこう儲かったな。ちょいと豪遊してみるか」
「何バカなこと言ってんのよソール。人件費が入ってないんだから儲かるのは当たり前よ。それ引いたら大分減るわよ」
パッツィは呆れた声を上げる。
それぐらい分かってるよ、冗談だって。
魔王金貨を作って払うのに、だいたい金貨3万枚を使用する予定なので、自由に使える金は金貨4万枚程度になる。
個人としては多いが、国としては微妙な金額だ。
とても余裕があるとは言えない。
まっ、予算内でなんとか武器と物資を揃えないとな。
さっそくショッピングに向かうか。
第52話 「魔王様、成金になる」
⇒第53話 「魔王様、買い物する」




