表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の最高傑作は冥王です  作者: 屋猫
第三章 魔女と人
48/48

6 騎士と魔女と兵士

破壊された壁の影から大聖堂内の様子を伺っていたジュラは、見知らぬ美少年から突然剣を突きつけられて思わず飛び上がってしまった。

 少年とはかなりの距離があるのだが、ジュラは目の前に剣先を突きつけられているように感じたのだ。

 そして飛び上がった瞬間に足元にある瓦礫に躓き、尻もちをついてしまった。


 「うっわぁ!・・・いったぁぁ」


 ――・・・なんか、今日はやたらに転ぶなぁ


 派手に音を発てて転倒したジュラには、大聖堂内にいる二人の会話は聞こえてなかった。


 「・・・なんか、随分と、どんくさい子だね」


 「・・・そうですね。俺も知りませんでしたが」


 倒れたジュラが視線を上げると何処か呆れたように覗きこむエディッツと目があった。


 「おい、大丈夫か?」


 「あ、う、はい」


 ジュラは若干ふらつきながらも二人の前に立ち上がった。


 「・・・帝国の人間じゃ、ないね、君。」


 立ち上がったジュラの姿を確認して、カミーユは訝しげに尋ねた。

 ジュラの姿は一見すると旅の魔術師のような姿である。あるいは、今の帝国の現状を考えれば傭兵の魔術師ということも考えられるだろう。

 今、帝国内で傭兵を見かけることは珍しい事ではない。むしろ、帝国の貴族達は滅亡に向っている帝国からいち早く逃げ出そうと必死で帝都は閑散としている。帝都クリスタバルにいるのは戦利品を漁る傭兵か、その場を動けない奴隷達ぐらいだった。


 「・・・傭兵、って感じでもないけどねぇ」


 カミーユはジュラの姿を上から下までじっくりと観察して、傭兵では無いだろうと判断した。

 魔術師がローブを身にまとっていることは極普通だが、傭兵の場合は魔術戦だけでなく肉弾戦になる事も考えて、ローブの下に簡易の鎧を着ている者たちが殆どである。しかし、先ほど転倒したジュラの様子から、鎧のようなものは身に着けていないようだった。


 「エディッツの連れかと、思ったんだけど?」


 右手に持った剣を弄びながらカミーユがエディッツに視線を向ける。


 「・・・いや」


 カミーユの質問にエディッツは歯切れの悪い返事を返した。カミーユはエディッツの様子を目を凝らして見ていたが、煮え切らないエディッツの様子を見て納得したように軽く頷いた。


 「なるほど、・・・連れじゃないけど、知り合いってわけね」


 ジュラはカミーユの言葉に目をぱちくりと瞬かせた。隣で苦い顔をしているエディッツには気づいていない。


 「よく、分かりますね。私は」


 「おい?!」


 エディッツは慌ててジュラの言葉を遮ろうとした。ジュラはエディッツの声に驚いて、言葉を止めてしまったが、彼女の後を引き継ぐようにカミーユが言葉を続けた。


 「ユミルの魔女、でしょう?帝国の滅亡の切欠を作った。と云われている。真実かどうかは分からないけどね」


 「・・・え、えーと」


 「なるほどね」


 カミーユの指摘にジュラは途惑ったような顔をし、エディッツは疲れたように溜息を吐いた。


 「魔女が帝国の奴隷騎士を解放したのが、帝国の混乱を招いた訳だけど。解放した魔女があなたで、解放された奴隷騎士がエディッツだったのか」


 「・・・良く知ってますね!」


 「あなたの噂を帝国内で知らない者は居ませんよ。魔女殿。僕はカミーユ、帝国では翼騎士団に所属してました」


 「あ、どうも。私は土の属性を司る魔女です」


 「・・・ああ、もう」


 カミーユが推測を話し終わると、目の前には驚きで目を見開いているジュラと、疲れたように地面に座りこんでいるエディッツの姿が目に入った。


 「ふむ、魔女殿の様子から、魔女殿はここに来た心当たりが無いようだが。・・・エディッツはどうしてここに?」


 カミーユのきらきらと煌く紫色の瞳を見つめながら、エディッツは諦めたように呟いた。


 「団長のご想像通りだと思いますよ」


 「ふふん、だろうね」


 ジュラは二人のやり取りと眺めていたが、ふとある一点に視線を向けると感心したように声を洩らした。


 「・・・驚いた。カミーユは、魔剣士なんですね」


 カミーユはその言葉に驚いたように振り返った。ジュラの視線はカミーユが右手に持つ細身の剣に向けられれいる。


 「なんだって?」


 「その右手の剣、魔剣士の剣ですよね。まだ安定していないので、覚醒してそれほど経っていないようですけど」


 「・・・・・・」


 ジュラは繁々とカミーユが持つ右手の剣を見つめているので、エディッツとカミーユが驚いていることに気づいた様子はない。


 「まだ、少し不安定ですが、数年すれば能力は安定すると思いますよ」


 ジュラが一通り観察を終え視線を上げると、美しい二対の紫眼と目があった。


 ――・・・あれ?この目は。・・・それに、この魔力もどこかで?


 「驚いた。魔女なんて云っても、隠遁している魔術師程度に思っていたけど。・・・どうして、僕が魔剣士だと思ったのさ、魔女殿」


 「・・・魔剣士の持つ武具は、通常の武具とは違います」


 ジュラはカミーユの雰囲気が変わった事を不思議に思いながらも、カミーユの右手に握られている剣に視線を移しながら説明をした。


 「魔剣士がその体に宿している剣は、魔剣士の肉体と密接に関係しています。通常の人にはその見分けはつかないかもしれませんが、ある程度魔力を持っている者には剣と宿主の繋がりを見る事が出来ます」


 カミーユの持っている剣は、細身で美しい装飾の施された黄金の剣だ。一見すると飾り物のような脆そうな剣だが、その刀身は美しい魔力を帯びている。 

 そして、ジュラの目には刀身を覆っている魔力がカミーユのもっている魔力と繋がっているのがはっきりと見えていた。


 「魔剣士として覚醒した者は、本人の種族以上の能力発揮する者が殆どです。それは体内に宿した武具と本人の両方に経験や能力が蓄積されるからだと云われています。・・・まぁ、魔剣士は絶対数が少ないので、詳しい事は分かっていませんが」


 ジュラは軽く肩を竦めて話を終えた。


 「・・・まるで、魔剣士について調べていたみたいだね」


 「え?ああ。私じゃありませんよ、サウサリアン諸島にいる学者が調べていたそうです」


 「・・・そんなこと、調べてる奴がいるのか」


 エディッツの呆れたような言い草にジュラは苦笑いを浮かべた。


 「・・・えっと、随分と変わり者なんです。彼は」


 「サウサリアン諸島っていやぁ・・・」


 ジュラの話を聞いていたエディッツが何か思い出したように呟いたとき、カミーユが鋭く辺りを見回した。


 「・・・おしゃべりの時間もここまでみたいだね。団体さんがご到着みたいだ」


 カミーユの視線は三体の死体が転がっている大聖堂内に向けられている。

 カミーユに続いてエディッツも中の様子を窺うが、特に変わった様子はない。


 「まだ、気配は感じませんが?」


 「あと、三十分ほどでここに到着するだろう。・・・元魔道大臣のドゥーバ卿と、・・・皇帝陛下もいる筈だ」


 一瞬にして張り詰めた雰囲気になった二人に、ジュラは途惑うように尋ねた。


 「ええっと、お二人は、どうして此処に?」


 ジュラの質問にカミーユとエディッツは同時に振り返った。

 そして、カミーユが華やかな顔立ちに相応しい笑顔を浮かべて、ジュラの質問に答えた。


 「帝国を完全に滅ぼしに来たのさ」


 それに続くようにエディッツが言葉を続ける。


 「帝国に囚われている奴隷達を、完全に解放する事によってな」


 二人の返答にジュラは不思議そうに首を傾げた。


 「帝国の奴隷を解放する?でも」


 ――帝国内では、奴隷を解放するための研究とかは一切行われていないはずじゃ


 だからこそ、帝国は長年に渡る奴隷大国を維持することが出来たのだろう。


 「そう、確かに奴隷の魔術印を解放する研究なんてされてない。帝国がしていた研究といえば、いかに奴隷を確実に、そして大量に支配出来るか、だ」


 カミーユは秀麗な顔立ちに馬鹿にしたような微笑を浮かべながら話している。


 「奴隷達の増加と、その支配を強めるために魔術印は改良され続けた。その結果」


 「解除することが不可能なほどに複雑になり、施すにも大量の魔力が必要になった」


 「その通り!しかし、奴隷の数を増やすことをやめる事は出来ない。奴隷こそが、帝国を支えてきた存在だったからだ」


 奴隷の魔術印を施すには上級の魔術師であっても一日に三人が限界である。そのような早さではもちろん遅すぎる。占領した地域の者達に速やかに奴隷の魔術印を施さなければ、反乱を招き次の地域への侵攻も遅れる事になる。


 「そこで、魔術印を施すための依り代を作る事にした」


 「・・・寄り代?」


 「そうさ、魔術印を施すための魔力の媒体と言うべき物をつくりだしたのさ」


 カミーユは右手に持っている剣をくるりと華麗に回転させた。黄金の剣は陽光を反射してキラキラと美しい輝きを振りまく。


 「ソルスト帝国の宝剣、英雄ティベリオスの聖剣レーヴァティンを使ってね」



  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ