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13/13

13-お袋はどこの層を開拓しようとしているのだろうか……

「おはよー葵ちゃん!」

 今朝も最初に挨拶してくれたのは咲喜だった。

 今日の咲喜の服装は胸元が開いて、下はミニの肌面積の多い衣装だ。

 だが、昨日のフリフリを乗り越えた俺に最早怖いものはない。

「おはよう咲喜。……綾香は?」

 いつも客席や休憩スペースにいるはずの綾香の姿が見えない。そもそも、煙草の匂いがしない。

 アイツ、ついに店外に出てサボるようになったか。

「ああ、綾香は今日休みだよ。新しい子が来るからいて欲しかったんだけど、外せない用があるって」

 お袋が言った。なるほど、こないだ言っていた新しいキャストか。

「おはよーございまーす」

 そんなことを話していると、後ろから聞き慣れない声が聞こえてきた。この子か。

 振り返るとそこには──

「ちっちゃっ⁉」

 小学生くらいの背丈の女の子がリュックを背負って立っていた。

「お袋、いくら人手不足でも小学生を雇うのは……」

 恐る恐るお袋に言うと、

「誰が小学生か! アタシはれっきとした成人ですよ!」

 胸元に下げた大学の学生証を見せて女の子は言った。見ると確かに二年生、誕生日的にもハタチだ。

「名前は……佐々木 佳奈?」

「そうです! 今日から一緒に働かせてもらいます! よろしくお願いします!」

 元気というよりは怒りに任せてといった風な口調で佳奈は言った。

「おう、よろしく。じゃ、俺着替えるから」

 いつも通り男子更衣室に入ろうとすると、

「そっち違いますよ?」

 と佳奈。

「あー……ちょっと事情があってな。その辺はお袋に聞いてくれ」

 説明するのも面倒で俺は男子更衣室へ入った。

「えっ、女体化薬……? そんなのあり得ないですよ! アタシ、こう見えて薬学科ですよ? そんな薬、あり得ません」

 部屋の外で佳奈の大きな声が聞こえてくる。

 どうも説明に難儀しているらしい。

 そんな声を聞きながら着替えを済ませた。

「おっす雄二、着替え終わったぞ」

 部屋から出て出勤した雄二に声をかけた。

「サンキュ、葵っち。しっかしまあ……葵っちがその衣装着るとその……すごいね」

 大きく開いた胸元から目を逸らして雄二は頬を掻いた。

「まあな……」

 望んでこうなったワケではないのでため息をついた答えた。

「今のパッドってすごいリアルなんですね……」

 未だに女体化薬に納得していないのか、佳奈はしげしげと俺の胸を見た。

「自前だよ。それよかさっさと着替えてこい。仕事だぞ、ハタチ」

 佳奈の背中を押して女子更衣室へ促した。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


「さてと、仕事だ仕事」

 新人に仕事を教えるのは咲喜に任せてホールは主に俺が回すことになった。

 開店準備をして、店のシャッターを上げた。

 一人でも平日くらいの客足ならなんとかなる。それに、そう広くない店だ。満席でも咲喜がヘルプに来てくれれば店は回る。

「おかえりなさいませご主人様──って次郎⁉ お前、仕事は⁉」

 最初に来店したのは次郎だった。

 今日は金曜日。次郎は仕事の時間のはずだ。

「いやあ、店の内装工事が入ってですなあ。一ヶ月程休みになったでござる」

 いつもの席に座って次郎は言った。

「なるほど……もしかしてお前……」

「もちろん、毎日エンジェルに入り浸る所存!」

「そうか……」

 親友に毎日コロコロ変わる衣装でメイドとして接客するのは気が重い。

「それではとりあえずオムライスをオーダーするでござる!」

 いつも通りのオーダーをする次郎。

「了解」

 俺はキッチンに向かいオーダーを伝えた。雄二の手際の良さでオムライスはすぐに出来上がった。

「あなたのハートに萌え萌えキュン! ……これでいいか、次郎」

 にこやかにケチャップでハートを描き決め台詞を言った。

 俺は昨日の営業を経て大分接客に順応した。心を無にすれば人間なんでもできる。

「葵氏、順応してきたでござるな……」

 次郎は若干引いた様子だ。

「……悪いかよ」

 親友にこういう反応されるのが一番心に来る。

「いい事ではあるとは思うのでござるが……拙者としては一昨日のような感じの方が好みでござるなあ」

「それはお前が特殊過ぎるんだよ」

 あんな雑な接客で喜ぶのはコイツくらいだ。

「ところで綾香嬢は今日はお休みでござるか? それとも裏でサボタージュしているでござるか?」

 次郎がホールを見回して言った。

「いいや、今日はアイツは休みだ。外せない用があるらしい」

「見慣れない子がいるでござるな……エンジェルはついに小学生を雇い始めたのでござるか?」

 佳奈の姿を見た次郎が呟くように言うと、彼女はドタバタとこちらへ走ってきて、

「アタシはハタチです!」

 と名前の部分を隠した学生証を見せた。

「おお、地獄耳でござるなあ。可愛らしい見た目のそなたは新しいユーザーを発掘しそうでござるな。好きな店が賑わうのはファンとして嬉しい限りでござる」

 にこやかに次郎は告げた。

「可愛らしいって……えへへ……」

 佳奈ははにかんで後頭部を掻いた。

 ……チョロいな、コイツ。

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