(77)留学生とダンジョン(2)
三人の公爵家嫡男とドノロバが身を挺して自分達を守ってくれていると思っている三人は、間もなく到着するのであろう四人が来る方向に視線を固定しつつも疲れた体を休めていた。
「おっ、いるな。無事みてーだな」
その視線の先に、悠々と歩いてくるドノロバとヒムロ達三人。
「流石はレベル9。あの程度では動じねーか」
留学生の一人イリスが、ドノロバ達の態度を見て間違いなく魔獣か魔物を始末してからこの場に来たのだろうと褒めるのだが……ドノロバはこう返した。
「そうだな。動じる必要がねーからな。姫さん達には恨みはねーが、これも仕事なんでよ。悪く思うなよ」
全く会話が成り立っていない事を訝しむソフィア達。
そもそも自分達の立場は秘匿されていると聞いているのに、何故姫と呼ばれるのか……理解できない事が多いのだが、少なくとも目の前の四人からは良い雰囲気は感じない為に応戦できる姿勢は取るのだが……四人が一向にこの空間に入ろうとして来ないのだ。
熟練の冒険者レベル9を前にしては、勝てる可能性は低い……逆に言うと、何故余裕で勝てるはずのドノロバは自分達を攻撃してこないのかが分からないまま、ドノロバが血液の付着した短剣をソフィアの方向に投げ捨てる。
攻撃のために投げたのではなく、不要な品を投げ捨てる感覚だ。
「不思議そうな顔すんな。足元を見てみろよ」
ドノロバの指摘で初めて気が付く、見え辛く砂で隠されていた下に辛うじて見えている魔法陣。
「こ、これは!!」
「そう。転送の魔法陣だ。俺達ですら経験した事の無い深層に行ける事は間違いない。きっとそこで熱望していた黄金、ひょっとしたら虹色の卵が見られるかもしれねーな。っと、姫さんよ、その魔術無効の魔道具は使わねー方が良いぞ。ひょっとしたら一回は転送をレジスト出来るかもしれねーが、この魔法陣はそんなにやわじゃねーんだよ。血液を感知したが最後、魔法陣内に侵入した者を全て飛ばすまで連続起動する。そうなると、残りの二人とは別の場所に飛ばされる事になるぜ?」
「貴方達、何のためにこのような事を!!」
「恥を知りなさい」
「ぶち殺すぞ!始末して~なら直接来い!この〇無しが!!
考えられるだけの暴言を吐いている三人は、ドノロバ達の目の前から消えた。
「フン。最後まで威勢が良い所だけは立派だぜ。おい、行くぞ」
「「「はい」」」
ドノロバの後をついて行く、ヒムロ、レグザ、ビルマス。
「これで俺達の依頼は達成だ。テメーらが証人だからな。依頼主にキッチリとそう伝えておいてくれや」
ダンジョンから出ると既に他のクラスメイトと冒険者達は揃っており、ヒムロ達が最後の帰還になっていた。
ビルマスの一言に頷いた後に、次の行動に移るヒムロ達。
「せ、先生!大変です」
慌てて担任であるロンドルに駆け寄るヒムロ、レグザ、ビルマス。
これも打ち合わせ通りではあるが、同行しているはずの三人の留学生がいなくなった理由をわざと周囲に聞こえるように説明する。
「あの三人、卵を初めて見て興奮したのか、ドノロバさんの指示に従わずに勝手に奥に向かってしまいました。慌てて追いかけたのですが、途中に魔獣が現れて対処をしている間に見失ってしまったのです!」
「二次災害を危惧して戻ってきましたが……」
「かなり時間も経っているので」
即座に学園長、そして留学の責任者であるダイマール公爵、皇帝シノバル、最終的には隣国の国王であるジェイドに伝わった。
今回の原因は三人が勝手に指示を無視して暴走したことが原因である事、予定にはないダンジョンの見学だが三人共に自ら希望した事、最後にヨルダン帝国、チャリト学園としてもレベル9の冒険者と言う破格の力を持つ護衛をつけていた事から、国家間の紛争にはならなかった。
しかし、死亡したと決める事ができない隣国のシラバス王国としては諦めるわけには行かず、ジェイド国王や近衛騎士まで派遣する騒動に発展している。
ここまでがダンジョン侵入の日の夜までの出来事であり、ゆったりと過ごしているジニアス達には事情は伝わっていなかったのだが、深夜になってアズロン男爵領に領主と共に滞在しているヒューレットの眷属の一体、鳥型の魔獣にたたき起こされたジニアス。
慌てて中身を読むと、深夜にもかかわらずスミナの部屋になだれ込む。
「スミナ、大変だ!」
「え?どうしたのかしら?ジニアス君。はっ、まさか夜這い!ちょっと待って、心の準備が……いえ、嫌と言う訳じゃないの。でも、突然……」
アタフタするスミナだが、残された時間はあまりないと分かっているジニアスは受け取った手紙を強制的にスミナに渡す。
真っ赤な顔をしながらもジニアスから手紙を受け取り読み進めると、赤い顔が青くなり始めた。




