(29)スミナとアズロン男爵(1)
「ジニアス君は先日も凄かったです。斑の卵を強制的に押し付けられのですが、落ち込む事なく前を向いて、そんな悪行を働いた者達にもしっかりと立ち向かったのですよ!とっても立派だと思いました」
「そうか。それは良かった。そう言えばスミナはジニアス君の話ばかりだね?よっぽど気に入ったのかな?」
「な、ななな、何を言っていたりしちゃっているのかしら、おお、お父様!」
「フフフ、スミナ、落ち着きなさい。何を言っているのかよく分からないよ」
いつも通りに学園でのジニアス君の話をお父様としていたのですが、突然核心に迫るような事を仰るので、少々慌ててしまいました。
残念ですが、今の私と会話をして下さる友人はジニアス君しかおりませんので、話はジニアス君だけになってしまうのは仕方がないのではないでしょうか。
でも、良く考えてみれば今も昔も変わらず私はジニアス君とばかり話していた気がしますね。
フフフ、昔は私が一方的にお話ししているだけでジニアス君は少し壁を作っているようでしたが、今はジニアス君の方からも話しかけてくれるのです。
つまりですよ!今の私は、とっても良い状態にあるのではないでしょうか?
時折周囲の視線が哀れみを帯びているような気がしない事も無いのですが、残念でした!今の私はとても幸せだったりしています。
それとジニアス君に従っている方ですが、素人の私でもわかります。
はっきり言って強すぎではないでしょうか……って、そもそも複数の熟練冒険者を歯牙にもかけないのですから、強いのは当然ですね。
球技大会の時にLv7のあの三人を軽く手玉に取っていたのも、あの方の力をお借りしていたからなのでしょう。
正直に言って、今のクラスの状態……以前には仲良くお話していた友人なのかな?そんな人達に無視をされるのは少々堪えたけれど、ジニアス君との壁が無くなったから良い方向に転んだに違いありません。
あの様な理不尽極まりない行動をする人達に賛同して陰湿な行動をする人よりも、ジニアス君の方が余程立派だし、尊敬できますからね。
「スミナ、スミナ!」
「はっ、はい、お父様!」
しまった。ジニアス君の事を考えていてお父様のお話を聞いていませんでした。
大失態です。
「フフフ、スミナは本当にジニアス君……いや、今日はかわいそうだから、もうやめておいてあげるよ」
お父様は、恐らく真っ赤になっている私の顔を見て微笑みながらこれ以上の追求をしないと言ってくださいました。
あ~、恥ずかしい!
「でも、そこまでスミナが認める人物なら、是非とも一度会ってみたいな。もしよければ、今度連れてきてもらえないかい?」
「良いのですか?嬉しいです、お父様。早速明日ジニアス君に聞いてみます!ウフフ、ジニアス君と一緒に帰れますね」
本当に嬉しいですが、ジニアス君は我が家に来てくれるのでしょうか?
私達の家は、貴族と言っても男爵。爵位としては下です。
家も庭も一般の家よりは大きくなってはいますが、他の爵位の方と比べると遥かに小さいのです。
ですが、ジニアス君はそんな事は気にしないですよね?
気を取り直して、明日朝一番で誘ってみましょう!
「と言う訳でジニアス君!もしよければ、いいえ、是非とも当家に来ていただけないでしょうか?」
「え、スミナ、どう言う訳?」
あっ、いけない。緊張と期待が入り交ざっているので、理由を話さずに一気に用件を伝えてしまいました。
「ご、ごめんなさい。えっと、実はジニアス君の話を聞いたお父様が、是非ともジニアス君とお会いしたいと言っているので……その、良ければ、一緒に我が家に来てくれると嬉しいな?」
「え?俺、何かした?何か失礼な事をスミナにしちゃったのかな?どうしよう。あっそうだ!話し方がいつの間にか馴れ馴れしくなっていたからか?あ~、なんて事を……本当にごめんなさい!」
突然慌てるジニアス君。フフ、可愛い!




