(28)ヒムロとダイマール公爵(3)
この状態、公爵家嫡男ともあろう俺様が平民ごときに恐れをなしていると言う状況が続いて、今は大人しいジニアスが今以上調子に乗っても困るが、王族にまで今の状態を知られるのは更にまずい。
今後の我がダイマール家の沽券、いや他の三家、レグザとビルマスの所も同じだが、公爵家としての品格に係わるからな。
数日の間相変わらず学園では大人しく生活していると、再び執事が俺の部屋に現れた。
「ヒムロ様、ユルハン様がお呼びでございます」
「わかった」
これは、俺が頼んでいた操作系統の能力を持つ者か、魔物か、または両方が見つかった吉報に間違いないだろうな。
流石はヨルダン帝国最強の貴族であるダイマール公爵家だ。
期待に胸を膨らませながら、数日前と同様に俺は父上の部屋に入る。
「ヒムロよ、かなり調査してみたのだが……あの魔物レベルを従えられる能力者と言うと、私の知る限りではヒューレットを始めとした人外の連中しかいない」
「えっ?あの冒険者、レベル9のヒューレット様ですか?」
軽く頷く父上……おいおい、とんだ大物が出てきたぞ。
ヒューレット様と言えば、泣く子も黙る世界最強パーティーの一員!
そのパーティー全員がレベル9と言う、はっきり言って超常の力を持っている一行のメンバーの一人だ。
あのお方のパーティーの事であれば、誰でも知っているはずだ。
そんなお方を引き合いに出す程にあの魔物は……強いのだろうな。
父上の事だから、更に情報収集をした上で判断されたのだろう。
そうなると、あの平民ジニアスの協力者も相当な強者と言う事になる。
ヒューレット様本人が裏にいるとは到底考えられないが、同格と言っても良い存在がいる可能性が高い以上、無暗に手を出すのは今後控えるべきか?
あの平民が使っている魔物と同等の魔物を俺が従える事ができたとしても、あいつの裏には未だ姿を見せていないヒューレット様と同等……とまでは想像できないが、そこそこ近い力を持っている者がいるはずだからな。
何をするにも慎重に行動するべきだろう。
「それで、あいつらは間もなくヨルダン帝国に入国するそうだ。とりあえずここに来るように呼んでおいたので、お前もその時には同席しろ」
「承知しました。ありがとうございます」
良い方向に話が進んできた。
この俺様、ヒムロ様の後ろ盾があの伝説とも言われている冒険者パーティーの一員であるヒューレット様になれば、ますます俺の立場は上がってくる。
慎重に行動する事は必要だが、力を手に入れさえすればあの平民が今まで通りデカイ面をしているのを、指を咥えて見ている事は無くなる。
「父上、あの平民ジニアスの協力者については……」
「いや、今の所は何も情報を得られていない。あいつは、学園に通い帰宅するだけ。家には母親が一人。その母親も怪しい行動は一切見られないし、大した力も持っていない。鑑定の結果はLv2だそうだ。それにあの平民は卵を手に入れたにもかかわらず、しぶとくまだ学園に残るようだぞ」
そこまで調べて頂いているのであれば、これ以上は何も言う事は無い。
あいつが学園に残る事は、卑しくも担任に卵を要求していたから知っているしな。
「ありがとうございました。では、ヒューレット様一行が到着した時には、お声がけください」
こうして俺は新たな力を得られる可能性に胸を膨らませつつ、父上の私室を後にした。
見ていろよ、ジニアス!お前程度がさんざん俺を、いや、俺達をコケにした報いは必ず受けさせてやるからな。
それも、最悪の状況でな……ハハハハハ!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ヒムロが退室した後、ダイマール公爵家当主ユルハンの私室。
「旦那様、ヒューレット様一行の到着は何時頃になりそうでしょうか?」
「ああ、二日後には到着するそうだ。あの四人に会うのも久しぶりだな。歓待の準備をしておけよ」
「承知いたしました」
こうして執事が下がった後、黒装束の一人が現れてダイマール公爵に跪く。
「シャウランか。何か新たな情報でも手に入ったか?」
「あのジニアスの母であるレンファの調査中に、本人が面白い事を口にしておりました」
このシャウランと呼ばれている男はダイマール公爵家当主に仕える暗部の内の一人であり、補助系統の能力を持つレベル7の人物だ。
補助系統で使える隠密術を使用して、暗部として日々活動している。
「ヒムロ様が仰っていた男の魔物以外にも、ジニアスと言う男は女の魔物も従えているようです。何やらジニアスとその母の二人で会話をしている時に姿を現しており、かなりの美少女であったとも言っておりました」
「で、力の方はどうだ?」
「申し訳ございません。今回の調査は、レンファの話から新たな魔物の存在を把握しただけですので……ですが、一体があれほどの強さであれば、もう一体も相当な力を持っていると考えるべきでしょう」
「その通りだな。わかった。また新たな情報があれば教えろ。例の件もだ」
会話が終わると、シャウランは再び音もなくこの私室を後にした。




