(27)ヒムロとダイマール公爵(2)
あれ程の力があれば国家そのものを乗っ取る事も可能かもしれないから、国家として排除する可能性もあると言う父上の判断は妥当なのだろう。
「その場合は、ジニアスと言う平民を魔王と認定して国家規模で排除対象としても良い。国外追放だけは食い止めなければ、こちらが危険に晒される可能性があるから注意は必要になる。だが、今の所は放置で良いだろうな。ところでヒムロ、お前がさんざん騒いでいたアズロン男爵の所の娘、スミナと言う女はどうした?」
良く分からないが、機嫌が直った父上はスミナの事を聞いてくる。
まだクラスがこんな状態になる前は、全てが俺の好みであるスミナの事を良く話していたのだったな。
「以前アズロン男爵家からポーションを購入しろとお前が強く願うからそうしたが、その後は何か動きがあったのか?」
父上はこっちの一件の話は情報を持っていないように見えるが、ここも嘘をつくと後に問題が起こる可能性があるので、正直に伝えておこう。
そう、ジニアスと言う平民と仲が良く、今はクラスの他の誰とも一切口をきいていないと言う状態の事を。
正直に言うと少し前から俺の事を蔑ろにするあの女に対しての躾として、クラス全員に話しかけない事、話しかけられても無視する事を指示していたのだが、ここは敢えて言わなくても良いだろう。
嘘はついていないしな。
「……と言う状態で、スミナはあの平民であるジニアスとしか会話をしていない状況です。私としては、スミナは下級とはいえ同じ貴族ですから、平民のジニアスよりも我らと共に行動してもらいたかった所です」
「成程な。まぁ、子供のする事に態々目くじら立てて親が出る必要もないだろうが、そのジニアスと言う平民に動きがあれば教えろ。あの戦力を放置するわけには行かないからな」
既に情報を持っているのであろう父上ですら警戒しているジニアス。
父上は公爵と言う地位であるが故に、一系統ではあるがLv8の力をお持ちだ。
その父上が警戒するのであれば、やはりあのジニアスは化け物……いや、付き従っていた魔物が化け物なのだろう。
やはりここはあの魔物を従えられる秘密を何としても暴き、俺も同等の獣やら魔物やらを従える事が最善だろう。
俺の系統は攻撃系統だから間違っても魔物を従属させるような魔法は一切使う事ができないが、それは何も系統能力を持っていないジニアスも同じ条件であるはずだ。
まてよ?誰かに魔法を行使させ、俺に従うように指示させれば良いのか?
そうだ、そのはずだ!だとすると、操作系統を持つ強力な仲間がジニアスの陰に隠れている事になるな。
父上に頼んで、操作系統の高レベルの力を借りるか。
フフフフフ、俺はようやくあの平民の強さの秘密を暴いたかもしれない。
なぜここまで知恵が回らなかったのか。今考えれば非常に情けない。
有り得ない強さ、有り得ない現象を目の当たりにして、何かを考えると言う力が衰えていたのだろうか。
だが次期公爵たるこのヒムロ様にかかれば、この秘密を暴く程度は造作もなかったな。
おそらくあの平民ジニアスの強さは第三者の存在、それも相当高レベルの操作系統の力を持つ者のバックアップがあればこそ成り立っているのだ。
そうでなければ、あの異常な魔物を従えられるわけがない。
そうと決まれば、この俺様も同じ方法で強さを得ておけば、二度とジニアス如きに遅れを取る事は無いだろう。
いや、待て、とりあえずはあの魔物と同等以上の魔物を発見しなくては話にならないな。
操作術を持つ者と、魔物、魔獣どちらでも良いが、その発見を同時に行っておこう。
「父上、お願いがあります」
「何だ?言ってみろ」
「私はあの平民の力の秘密が分かったかもしれません。当然ですが、何の系統能力も持たない平民があの魔物を従えられるわけはありません。つまり、相当レベルの高い操作系統を持つ協力者がいるのです。我らも同じ方法で魔物を従えましょう」
「そう……かもしれないな。他の可能性が思い浮かばない以上、その線の可能性は高いだろう。で、お前の望みは、能力者と魔物共の探索か?」
流石は父上、俺の言いたい事はお見通しだ。
「その通りです。お願いできますでしょうか?」
「あの平民以上の力が手に入る可能性があるのであれば、手を貸そう。結果が良ければ平民は脅威でもなんでもなくなるので監視の対象からも外せるし、我がダイマール公爵家も安泰と言うものだ。但しヒムロよ、この件、決して誰にも話すなよ?我らの地位を盤石にするためだ」
「承知しています」
良し、これで俺もあの平民如きに怯えた生活からは、おさらばだ。
そもそも公爵家嫡男たるこの俺様が、あんな平民に怯えて過ごす事自体があってはならないのだからな。




