博士、新たなドナーを求む
ここはとある異世界。
その異世界の僻地、キャリー村。
勇者パーティーを無理矢理脱退した聖女はキャリー村に居る。
本来なら神殿女子棟で暮らすべきだが、聖女の部屋は乱交部屋にされてしまい、見るのも嫌な状態。てなことでキャリー村に居る。
ついでにキャリーと聖女は元の姿に戻った。もう勇者パーティー館に行くこともないから。
聖女の脱退。
それは国に変化、いや激動を起こした。勇者パーティーから脱退者が大量に出たのだ。一軍の男2人に二軍の20人中11人が脱退。職員も半分辞めた。聖女ファンでもあったし。
更に勇者の影響もある。
エロ青姦勇者に誰がついていけよう。一人二人の脱退なら見せしめに処罰して封じ込めして隊を維持するのだが、これでは割れた花瓶のように漏れが止まらない。国王は頭を抱えるだけだった。
そしてある日。
ぴこーん!
聖女のカードが鳴った。
【ダロスさんの送別会のご案内】
「どうしたんですか?」
「キャリー、ダロスさんが軍を辞めるみたい。送別会するからって出欠聞かれたんだけど」
「あー、ダロスさんね。イイトコのご子息なのに辞めれるんだ。よく辞めるの許して貰えたわね」
「キャリー、ダロスさん知ってるの?」
「ダロスさんね。聖女様は興味無かったろうけれど、女子に人気の優良物件よ。家柄よし、顔よし、性格よし、仕事も出来るナイスガイよ。家柄良すぎて私には関係無かったけど。どうするの? 行くの?」
「うーん、会場は外の店だからいいんだけど。飲んで騒ぐのは聖女としてはまずいし、挨拶だけしようかな。それと、勇者パーティーと顔合わせたくないなあ。ちょっと聞いてみよう」カタカタ
ぴこーん!
「うわあ・・・・」
「どうしたんですか?」
「現メンバーは絶対呼ばないって言ってる。なになに? げ、なにそれヒドイ!」
「何?」
「キャリー、知ってた? ダロスさんと第一皇女様は実は恋仲だったって! 二人で親を説得しようと誓った翌日勇者に勇者パーティー入りさせられたって!」
「最悪! これってやっぱり」
「寝取り・・よね。博士の言うとおりなのね」
そう。
勇者パーティーへ第一皇女が入ったのは皇女の意思ではない。国王の意思でもない。勇者からの要請だ。勇者から提案を受けて国王はメリットとデメリットを天秤に掛け、メリットだと踏んで勇者パーティー入りを選んだが、大失敗だった。今や勇者パーティーはガタガタ、軍の士気は落ち、第一皇女は大衆の前で姦通を披露させられるという事にもなった。
しかも、勇者は多少の犯罪は許される。皇女側から和姦宣言出てるので皇女との公開姦は無罪だ。
「でも、勇者とするのってそんなにいいもんかなー」
自分専用塩せんべい抱えた素子ちゃんが現れる。
因みに芋載せせんべいは絶賛大売り出し中で大人気。お菓子やさんの前には毎日行列が出来ている。作りたてが店に並ぶお昼と夕方は大混雑だ。
会長と店長はこのまま二号店を出したいところだが、米の量が限られてるので米の増産を待ってる状態。
因みに素子ちゃんは芋載せせんべいは食べないので自分専用塩せんべいを作ってもらって確保してる。
「あ!取るな!」
聖女とキャリーが素子ちゃんのせんべいを摘まむ。
「あんたたち、芋せんべいがいいって言ってたじゃない!」
「いや、これはこれで」
「目の前にあればねー」
そういうことらしい。
「あんな粗チンのどこがいいのかな。勇者が女にがっつく理由はなんとなく分かったけど、女も喜んでるんだよねー不思議だわー。ヤってるとこ見てもイマイチ上手そうでもないしわかんないなー。アノ子達あんなんでも満足してるんだー」
その発言に聖女とキャリーがぴしりと固まる。処女二人にわかるわけがない。
素子ちゃんは恋愛経験すっとばしで経験100人以上(数えてない)。ゴブリンやオークとも経験がある強者。セックスしてあげるのがめんどくさいから彼氏要らないと豪語する女。
「このこのこの!」
「このこのこの!」
「ぎゃ!」
処女二人が素子ちゃんをボコボコ叩いた。
ーーーーーーーーーー
午後の山の中で走るバズー君。
ここのところ毎日午前中の野良仕事が終わると走り込みや、筋トレをしている。
『強くなりたい』というのも有るが本音は『何も考えたくない』だ。
自分を追い込んでいる間は何も考えなくていい。ジータのことも妹のことも。
それを見守るミリア。
アンドロイドは鍛える必要はない。見ているだけ。
「ミリア君、バズー君を鍛えるのかね?」
ミリアは後ろの博士に向いた。そして少しの無言の後、また前を向いて静かに答えた。
「主がそれを求めれば。ですが、私は戦闘用ではなく戦争用です。この国での戦闘ならキャリーさんの方が講師として適任かも知れません。ですが、教えるにしてもまだベースの身体が足りません」
バズー君は弱い。
そもそも勇者に勝てる訳もないが、手で払われただけで無様に転がされるだけの存在。筋トレしたくらいではどうにもならない。
ようやくバズー君が戻って来た。トレーニングがてら山で木を伐って来た。筋トレ兼材木と薪の採取。幹は材木、枝は薪にする。
博士がバズー君に向かう。
「君は強くなりたいのかね」
「わかりません」
「何か目的があるのかね?」
「・・・・」
バズー君が言葉を詰まらせる。
そして無言で見ているだけのミリア。
「まあ、鍛えたところで勇者には届かんだろう」
「・・・・」
バズー君は勇者という単語に胸を詰まらせる。
「もし、強くなる方法があるならなりたいかね?」
「え・・いや・・その・・」
はっきりしない。
「勇者を殺すのが目的なら私に頼めばいい。一瞬で消してやるぞ」
ミリアが驚いて博士を見る。その驚きはバズー君以上。
「いろいろ考えておいてくれたまえ。少しミリア君を借りるぞ。良いな?」
「・・はい」
ーーーーーーーーーー
村の隅の休憩処に博士が居る。
周りにはミリア、聖女、キャリー、素子ちゃん。
「ミリア君。君の目にバズー君はどう見えるかね? 何を求めているか。そして彼は強くなれるかね?」
皆の目がミリアに集まる。
「主は何も決めていません。がむしゃらに身体を追い込んでいるだけです。主も鍛えたところで勇者には敵わないことは理解してます」
「そうか。なら聖女君。この国で魔力が一番強い男は誰かね?」
「え? それは当然勇者です」
「では、二番目は誰かね?」
「博士、まさかあれやるの? バズー君のケツに?」
素子ちゃんは気が付いた。
聖女のケツからふっとい内視鏡突っ込んで細胞サンプル採取してキャリーに移植した手術。遺伝子採取のドナーを探すというのだろう。
そして『ケツ』というキーワードで聖女とキャリーも理解した。
こめかみをおさえらがら聖女が答える。あれは思い出したくない。
「それなら大剣士ゴンです。あまり会いたくは無いですが」
「聖女君、それは何故かね?」
「いえその、私も彼も勇者パーティーを辞めたんですけど、私が勇者と絶縁宣言したんで最近メッセージがしつこいんです」
「あー」←キャリー
聖女は別名でアカウント使っていたが、何処からか聖女であることがバレた。今はもう隠していない。まあ、しつこいメッセージしてくるのは大剣士ゴンだけではないけれど。
「ううーむ、後は誰が居るかね?」
「ダロスさんか・・な」
「あーダロスさんねー」
「あ、魔力が強いというだけなら別格なのが居ます」
「誰かねそれは」
「御隠居様です」
「あ! 御隠居様は!」
聖女とキャリーは御隠居様のことを知っているようだ。でも、他の者はわからずぽかんとしている。
「聖女君、その御隠居様とはどんな存在なのじゃ」
「御隠居様、先代の国王ですが、とてつもない豪傑でした。戦争、紛争があれば自身で戦場に飛び込む鬼神でした」
「でもねー」
「そう、今は病に臥せって寝たきりです。私のヒールも効きません。まだ55歳なのに」
「若いではないか」
「ええ、ですから今の国王に代替わりしたんです」
「なんの病気なのかね?」
「不治の病ですが原因がよくわかりません」
「ふむ。それじゃわからんのう。聖女君、御隠居には会えるかのう?」
「どうでしょう。私では治せないと烙印を押されましたし。申し入れをすれば或いは」
御隠居様の病気は聖女でも治せなかった。今でも臥せっていると言うことは他の治癒師も治せてはいない。
御隠居様は現役時代はとてつもなく強く、勇者すら恐れない存在だった。この人が勇者では?と言われる程。今の国王の魔力は御隠居様の半分もない。お陰で勇者を野放し。
「聖女君、御隠居様に治療の申し込みをしてくれんか。新たな治癒師を連れていくとな」
「ええ、わかりました」
「ミリア君、バズー君にもう一度強くなりたいか聞いて欲しい。必ずこう付け加えてくれ。辛く苦しい道になるぞと」
「はい」
ーーーーーーーーーー
御隠居様の寝所は南の棟にあった。そこは王宮から唯一軍の訓練場が見下ろせる場所。身体の調子がいい日は訓練する若者を見て目を細めている。
「お久しぶりです」
聖女を先頭に博士とバズー君、ミリアが続く。
「聖女よ久し振りだ。いついらいかな。その者達が新たな医師かね?」
相当弱っているがしゃんとして応対する御隠居様。元国王の威厳。本来なら起きてるのも辛いはず。
「はい。私の知り合った旅の医師です」
「ハカセです」
「バズーです」
「ミリアです」
今日は博士も一般人らしく喋る。名前も博士でなくハカセ。
聖女が御隠居様に尋ねる。
「お体に触って宜しいでしょうか」
「ああ、どうせ治らんが」
「では」
許可は取った。
博士がバズー君に耳打ちする。
「ミリア君を借りるぞ」
「はい」
バズー君の許可でミリアが博士の助手になる。
御隠居様の布団を下ろし博士とミリアで診察をする。流石にケツはいじらない。
その間、御隠居様と聖女は話をしている。話題はやはりアノ話題になってしまう。
「聖女よ、すまなかったのう。私が健在ならあんな勇者野放しにはしないのだが」
「いえ、御隠居様のせいではありません。早く元気になってくださいませ」
「ありがとう聖女よ。だが、私は長くはないのだろう。長く臥せって諦めもついた。生き延びた所でもう歳だ。大したことは出来ん、ただの年寄りになるだけだ」
「そんな、弱気はいけません」
そんな会話の最中に診察は終わった。
病状判断の博士とミリアの会話に皆聞き耳を立てる。
「ガンと感染症ですね」
「君の見立てでは何ヵ所じゃ?」
「全身です。どこが最初と言われれば大腸だと推測します」
「やはりな感染症は?」
「これはガンとは関係なく感染していたのでしょう。免疫が下がって出てきたのかと」
「成る程」
会話は続く。
「左脳にも転移してます。脳機能も低下してきてるでしょう。頭痛もあるはずです」
博士は医療も出来るが、ミリアの診断能力は更に上をいく。身体の外から全てを見通す。
戦闘用でなく戦争用故の性能だ。現場医療も出来る。だが、診察と治療は別だ。
そしてこの世界は医療はヒールとポーション頼み。
いわばこれは免疫や自然治癒の加速。ガン患者にヒールを掛ければ細胞も活性化するがガン細胞も活性化する。細菌やウイルスにもまずい。そして脳へのガン転移。既に影響が出ていただろう。ズルをして博士の技術で細胞再生をしても失われた脳機能は戻らない。
聖女が御隠居様にお願いをする。
「御隠居様、人払いをお願い致します」
護衛と世話役はぎょっとしたが御隠居様が制した。
「下がりなさい」
ドアから出ていく護衛と世話役。
「こんな死にかけの病人、守る価値もないというのに」
本心だろう。
「さて、私の命はあとどのくらいだ? 一年か? 一月か?」
「おっしゃる通り最長で1年です。悪ければ1ヶ月です」
冷たい口調のミリア。
御隠居様は布団に沈んだ。覚悟していても辛い。薄々感じていた。
そして聖女が代わる。
「御隠居様、重要なお話があります」
御隠居様は顔を聖女に向ける。
「この若者に力を授けて貰えませんか」
交渉が始まった。




