博士、慰安旅行に行く
ここはとある異世界。
右舷に広がる大宇宙。
左舷に広がる大宇宙。
宇宙の海は◯の海!
話は少し遡る。
お菓子屋さんの客間は暗かった。
避けられなかった少年の悲劇。
何もできなかった。悔しい、悲しい。
だが勇者は二人の恋人を作っただけだ。犯罪ではない。
「あんなやつ殺しちゃってよ博士ええ!」
素子ちゃんが吠えまくった。
確かに博士ならサクッっと勇者を殺せる。なんなら細胞一つも残さずに消せる。
だがもう少年は心に大きな傷がついてしまった。
博士と素子ちゃんは知っていた。
次はバズー君が強くなる。おそらくは勇者を超える存在になる。これはお約束だ。
だが、それが幸せな訳じゃない。
きっと、いや間違いなくバズー君と勇者は敵対する。それは元彼女と妹と戦うということ、憎まれること。愛し合って永遠の愛を誓った筈のジータと愛しい妹と憎しみあう。
強くなることとワンセットで悲しみがついてくる。
お約束の味方女性陣は既に有る。素子ちゃんにキャリーと聖女。待てばもっと増えるかもしれない。
そしてこちらには圧倒的チートの博士が居る。
ファンクラブ会員の情報で妹がジータの荷物持ちの座に納まったと報告があった。
「聖女(キ)君、君は勇者の魅了に掛からなかったかね?」
「ええ、平気でした。まあ今は勇者の情けない姿の印象しかないですし、向こうも誘ってきませんでしたし」
「キャリー(聖)君はどうかね?」
「以前なら喜んで勇者の元に行ったでしょうが相手にされてないですし、今は私が勇者を嫌いです」
「そうか。それなら良いが、勇者パーティーには『恋人の聖女』が定番じゃ。油断するでないぞ」
「はい」
「はい」
「ほんとーに気をつけてよ」
素子ちゃんまで心配して居る。
とうるるるるるる!
普段鳴らない博士のスマホ(仮)が音を立てる。たった一人のかける人物素子ちゃんはここに居る。
じゃあ誰?
「おっ、久しぶりじゃのう。いやいや、こちらこそ。うんうん、そうですか良かったですなあ。はははははーーーーーーーーーーー」
電話は続く。うるさいので博士はちょっと廊下に移動した。
「素子さん、あれ誰と話してるんですか?」←聖女(キ)
「わかんない。誰だろ?」
「喋れるカードってすごいですね!」←キャリー(聖)
「う〜ん、私たちの世界では当たり前だったし」
そして博士がこちらに向いた。
「素子君、日本に戻りたいかね?」
一同が博士と素子ちゃんに注目した。
なにを思ったかは分かる。今となっては別れは嫌だ。
「ええっと、もうちょっとこっちに居たいかな・・・」
数名がホッとした。
博士の言葉が続く。
「バズー君。異世界に興味はあるかね? 今なら君を異世界転移することもできる。国も家族も仲間とも別れてたった一人で全てをやり直す。まったくのゼロからのスタートじゃ」
「博士、まさか電話の相手って!!」
「うむ。『とある方』じゃ。今、久しぶりに一つの旅が終わってゆっくりして居るところだそうだ」
「素子さん、『とある方』って?」←キャリー(聖)
「ええっと、私と博士をここに連れて来た人で、ええっとなんていうか、博士より凄い人」
そしてバズー君が真っ青な顔をして居る。
自分の今後は敗北者で過ごす、或いは復讐をする。だがここで新たな道が出来た。
『異世界への旅立ち』
新たな人生の選択。
そうすればかつての恋人や妹に顔を見せられ見せることもないし、関わり合いがすっぱり切れる。
博士が異世界人でこの世界とは無関係でそれでも生きていけると言うことは聞いた。
「どうしたらいいかわかりません・・・」
「やはりか・・・分かった。今回は流そう」
そう言って博士はまた電話を再開する。
「うむ、すまん。本人がその気がイマイチ無いようじゃ。すまんかったな。いやいやこちらこそーーーーーー」
そしてまた廊下で長電話再開。
そして電話を終えた博士が戻って来た。
「よし、ここの皆で慰安旅行に行くぞ。嫌なこと全て忘れてゆっくり休もうではないか。今何人じゃ? 6人か。会長だけでは男一人で寂しそうじゃから菓子屋のとーちゃんと聖女護衛二人も来なされ。どうせ男部屋が余る。ほれ、すぐ書き置きかきなされ」
あれ?バズー君は女扱い?
結局、菓子屋さんが仕事があるからと辞退して、書き置きは菓子屋店長に託された。
「では私の周りに集まりなされ、もっと近くじゃ。ほれ会長、チャンスだから聖女にくっつかんかい」
その聖女の中身はキャリーだけど。
博士を中心に素子ちゃん、聖女(キ)、キャリー(聖)、会長、バズー君、護衛1、護衛2が集まった。
ぴろろろろ!
「ああ、準備できた。頼む」
そして8人は赤い光に包まれた。
そして光が消えると8人は知らない土地にいた。
どこまでも真っ平らな固い地面に巨大なモノが佇んで居る。転移だけでも驚くに充分だが、来たところはもっと驚く所。どう見ても異様。博士と素子ちゃん以外は驚きを隠せなくて騒ぎ立てる。
そもそもあちらの世界では転移どころか瞬間移動すら出来ない。驚くのは当たり前だ。
そして、目の前に白色のボディでなんか模様が付いていて、人生で見た中で一番大きい乗り物がある。美しく不思議な乗り物と思われるもの。
博士以外の一同呆然。
それでも素子ちゃんだけは察した。絶対にアレに違いない。
「博士、これってもしや」
素子ちゃんも初めて見る存在。乗った事など無い。
知識で想像はできる。だが・・・
「うむ、彼の方が今回貸してくれる宇宙船じゃ。しばらく使わないから使っていいとな。古いがしっかりしてるから安心していい。鍵は脚の下に隠してあると言ってたな、おお、あったあった」
ぽかんと上ばっかり見ながら歩く一同。
「ほれ、ちゃんと前みて歩かんかい」
乗り物の丸い入口が開く。こんな入口見たこと無い。
「日本って、凄いんですねえ」←聖女(キ)
「あたしの知ってる日本とちょっと違う・・・・」




