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そら音のイデア  作者: 金田悠真
第1章 慣れていく非日常編
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第15話 現実的な巨人

 



 起き上がって逃げた男性の下敷きになっていた荷馬車。

 所々が折れて木の破片になったソレらを見ながら、赤髪の女性は地面に膝をつき、なにやら物を探していた。



「あ、あの……大丈夫ですかっ?」


 瑠奈が心配そうに駆け寄って声をかけると、女性は太陽のように快活に笑いながら木箱を探し当てて持ち上げた。


「おぉ、オネーさん優しいなぁ?……ウチの大事な荷物は平気やったから大丈夫やで」


 中身も大丈夫や、と大切そうに開けた彼女はニヤニヤと瑠奈に顔を寄せた。


「でも、荷馬車はレンタルやったんよー。……あそこで暴れてんのはオネーさんの連れなんやろ??」



「あ、はい……そうです、すみません」



 恥ずかしそうに赤くなった瑠奈は赤髪の女性と同じように地面に膝をついてゆっくりと頭を下げた。


 だがしかし、改めてそう告げた瑠奈と違って、赤髪の女性は大きく手を振って笑っていた。



「かまへんかまへん!……でも荷馬車分はフォローしてくれへんかなぁ」


「も、もちろんです!……あの、今は手持ちがなくて……明日であればFLATのアジトまで」


「お金なんか要らへんよぉ〜」


 ニヤニヤと笑いながら赤髪の女性は静かに身体を寄せて瑠奈へと寄り添った。


「今晩、ウチのお酌の相手してくれるだけでいいんよぉ〜………ぐえっ」


「なんだこの痴女」


 いつのまにか未来を振り切って逃げてきた空は、瑠奈に手を伸ばしていた赤髪の女性を後ろから踏みつけていた。


 潰されて蛙のような声を上げた彼女は、曲芸師のようにぐるりと身体を回して飛び上がった。


「いきなり何すんねん!……って、イケメンさんやないの……!せやったらもっと踏んでもええで?」


 瑠奈にしたように鼻息を荒くさせ、手を擦り合わせながら身体を寄せる女性。

 香織はそこで初めて心からめんどくさそうな顔をしている空を見ることが出来た。



 初めてこの世界に来た時にも似たようなことがあった気がするが、残念ながら香織はその時に今ほど余裕もなくて。記憶に残っているのは朧げな事実だけであった。




「ほんと変態が多いな、この街は……」


 辟易したように呟いた空の声。なぜかその言葉に嬉しそうな顔をした女性が食いついた。



「そうなんっ!?……変態さんって事は楽しい人が多いって事やろっ?……この街は当たりやなぁ!」


 わっはっは、と酒臭くはないのにオーバーに笑う女性。瑠奈と空が目を合わせて苦笑いを浮かべて居たが、香織はそんな事よりも言葉に引っかかりを覚えてしまう。



「この街っていうのは?」


 いつのまにかメモを広げてペンを片手に近づいた香織を見て、女性はまた楽しそうに笑顔を濃くした。


「女子高生ちゃんやぁ……!……ええなぁ、背徳的な感じが好みやで」


 そそ、と腰を触ってきた彼女の手は、またしても空の脚によって弾かれた。


 涙目になりながら「痛いわぁ」と手をさする彼女だったが、香織は好奇心たっぷりのキラキラとした顔に染まって居た。



「街っていうのは、イヤリス以外から来たんですかっ!?」



「おぉ?せやでー?ウチはアルシャットから来たんよ」



「ある、しゃっと?」



 香織には聞いた覚えのない単語。

 当然のように話す彼女の様子からしてそれは常識的なものなのだろう。



 騒動が落ち着いて日常へと帰っていく北地区の人達の中、香織は恨めしそうな視線を空へと向けて居た。



「アルシャット知らんのっ?」


 変わった子やなぁ、と続けた女性の肩を、空がそっと叩いた。






「アンタ、ちょっと食事でも付き合ってくれないか?」



 急な話の展開とナンパのような口調に、香織は大きく口を開けた。

 自身の言いたいことすら無視したかのように自然にそう告げた彼は、なぜか満足げに笑って居た。



「おぉー、ナンパされてもうた!……えぇよー、ウチカッコいい人も可愛い人も大好きなんよ」


 顔を赤らめながら頷いた彼女の元へ、息を切らせた未来と、眠たそうに目を擦る亜紀を抱っこした花蓮と一行が集まってくる。


「2人きりはまた今度な。……オレ達全員に付き合ってもらう」


 その言葉にも頷いた女性を見て、空は香織へと視線を向けた。


「流石だな、香織。……行くぞ」



 さすが、という言葉の意味が全くわからず、急展開にもついていけなかった香織がペンの行く先に困っていると、空と女性がさっさと歩き始めてしまう。



「ま、大丈夫よ。あたしも何が何だかわかってない」


 香織の隣へと来た花蓮がため息混じりにそう告げた。

 苦笑いしか返すことのできなかった香織だが、取り敢えずは後ろについて歩き始める。


 きっと空の事だ。何か考えがあったのだろう。


 そう信じて。




「ご飯の前にウチの用事だけ済ませてもええかな?」


 先程荷馬車の破片の中から探し出していた木箱をチラッと見せて女性はそう告げた。


「もちろんだ。ところでアンタは何しにイヤリスに?」


「アンタなんて他人行儀イヤやなぁ、ライザって呼んでんか」


 そう返したライザは、少ない布の面積の中に手を入れ、紙切れを1枚取り出した。

 それを空へと渡しながら、香織達にも顔を向ける。



「ウチは所謂行商人やな、いろんな商品をあちこちの街に届けてんねん。イヤリスは初めて来たけどな」


「まぁ、田舎だからな」


 笑いながら返す空の言葉から、やはり他の街が普通にあるのだと言外に教えてもらった香織は、恨めしそうな視線を思い出したように空へとぶつける。


 教えてもらってない、と言いたいところだったが、空の事だ。

 聞いてないだろ、と返されてしまいそうで。


 諦めたようにため息をつきながらついて行く香織と、何かを察したように肩を叩いてくれた瑠奈達はゆっくりとした足取りで空とライザについて行く。




「今回は龍演会って所のリーダーさんからの依頼やねんな。……住所はこの辺やと思うけど」


 歩きながら木箱の外に貼り付けられていた小さな折りたたみ式の地図を広げたライザは、北地区をキョロキョロと見回した。


「龍演会ならあそこだ。一応イヤリス随一の討伐隊だしな」


 空は、北地区に来た時と同じような格好で、その時よりも近づいている城のような見た目をした建物を指差す。


 高さは2階分くらいしかないが、奥行きと面積で考えると、ギルド並みに大きな建物のようだ。

 近づいて行くとその荘厳な雰囲気と、門番として立っている甲冑のメンバーのせいか、香織にとっては異世界らしいもののように感じられた。



「ほわぁー、おっきいなぁ!………ごめんくださーい」


 感嘆の声もつかの間、すぐそばにいる門番に必要以上に大きな声を上げたライザは、木箱を両手で掲げてみせた。


「ライザっちゅうモンです!龍演会さんにお届けモノですよー!」


 その声に反応した門番が少しだけイラついたように足音を立てながら、ライザ達に近づいてくる。だがしかし、その門番が言葉を発する前に、建物正面の巨大な建物の扉が開いた。



 ギィィ、といやな音を立てながら開くその木の板の奥から、何やら巨大なものが蠢いてくる。


 香織は首が痛くなるくらいに見上げ、顎が外れたように大口を開けて見つめていた。



「うるせぇよ……そんな大声出さなくても聞こえてらぁ」


 地響きのような低い声を上げたその巨体は、月明かりの下へとゆっくりと脚を動かした。



「ん?………随分珍しい客が付いて来てるなぁ?……空よ」


「別に来ちゃいけないルールはないだろ?おっさん」


 楽しげに言葉を返し、見上げている空。

 空や香織、ライザの視線の先には、超巨大なオトコが1人、ボロ切れのような服を着て立っていた。


 超巨大とは言っても、巨人というわけではない。

 言うわけではないが、香織にとっては巨人以上にリアリティが無く衝撃的であった。



「………え、おっきい………」


 上を向きすぎて声が絞られてしまってはいるが、香織が言葉を漏らす。


 その言葉に笑ったオトコは、地面を響すように低く大きな笑い声をあげる。



 その姿は、香織の倍近くのサイズ、3メートルはあるだろう。城を囲うようにしてある壁すら彼のお腹あたりまでしか伸びていなかった。



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