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ロリコン勇者の再就職  作者: 音無 奏
村おこし編
40/40

身売り少女メメ

金貨一枚の価値を約百万円から十万円程度に変更しました。十二話での金貨の枚数を訂正しています。

「――私を買って貰えませんか……?」

 呆気にとられ気が動転していたのはほんの一瞬だと思う。

 俺は少女の瞳を真っ直ぐと見つめた。

 恥ずかしそうで、辛そうで、泣きそうで、今にも逃げ出しそうな脅えがありありと見える。

 だが、それ以上に覚悟の篭った瞳だ。

 少女のオドオドとした態度からも決して、手馴れているとは思えない。

 一度声をかけ、俺が承諾すれば自分がどんな扱いをされるのか、十歳程度の彼女が理解した上でそう言ったのだ。


「止めておいたほうがいいですよ、そう言ったことがしたいのでしたら、知り合いのお店を紹介いたしますので――」

 俺の沈黙を誤解したロベルトが、おそらくは親切心から耳元でそう言ってきた。

 残念ながらそれは勘違いである。

 ただ、真剣な少女の覚悟にどう対応すべきか考えていただけなのだ。

 声をかけられたのは俺で、せっかくご指名して下さったのだから、俺も真正面から向き合うべきだろう。


「残念だが、君を買えるほどの手持ちを俺は持っていない」


「そんなっ! その、私、銀貨なんて言いませんから……その、銅貨七枚、いえ、五枚で、いいですから、その――」

 そもそも、少女に値段など存在しない。

 たとえ手持ちに金貨が百枚あろうが千枚あろうが、お金は足りてなどいないのだ。

 だからと言って、現実を否定したいわけではない。

 未成熟な体を売ってまで、彼女はその日の糧を得ようとしているのだから。

 ニアが、どうすんだよ、とそんな瞳を向けてきた。

 決まっている。

 俺は手の届く範囲で、少女を救うと決めているのだから。


「よし、じゃあ、君を買おう」


「はぁ!? おまっ! リリーの前で、何を――」

 ニアの頭に手を置いて、後ろに引っ込めてから少女を見る。


「あ、ありがとう、ございます……」

 決して、喜びを表しているようには思えない。

 当然だろう。

 初対面の相手に、それも俺のような普通で平凡な顔つきの男に初めてかどうかは分からないが、体を捧げるのは、普通の女の子なら嫌でしかないはずだ。自分で言っていて悲しくなるが、現実はそんなものだ。

 まして彼女はまだ、心も体もきちんと成熟していない子供なのだから、はした金でトラウマを抱えさせるわけにはいかない。


「リリー、さっきの串焼き、ニアと一緒にこの子の分も買ってきてくれる?」


「ん、リリ、行ってくる! お姉ちゃん、いこっ!」


「なぁ、おいっ! 話はまだ――」


「ほら、いくよー!」

 リリーに引っ張られたニアを見送り、そっと少女に向き直る。


「君の名前は?」


「メメ――メメ・ヴァン、それが私の名前です」

 ストレートの二つ結び、そんなおさげの少女は可愛らしいさと同時に真面目な印象を与えてくる。

 今は体も少し細く、肌の張りも、血色もよくないが、十分な栄養が体に巡ればきっと美少女と言えるだろう。

 少し赤みがかかった茶髪の毛色はどこかニアと似ていて、きっと二人並んで歩くと絵になるだろうな、などと妄想が捗る。


「それじゃあメメ、改めて君を買おう。だが、俺には君の体を買う金がない――だから代わりに、君の時間を買わせて欲しい」

 そんな俺の言葉に、メメは小首を傾げた。

「時間、ですか……?」


「そ、時間。俺は数日はここに留まる予定だからね。街の案内とかしてくれると嬉しいな」

 本来はニアとリリーと一緒のデートだったが、減るのは困るが増える分には構わない。むしろ大手を振って歓迎しよう。


「は? へ、でも、私はこの体で――その、Hなことする、つもりなんですけど、その、でないとお金が、お父さんが……」


「まあ、色々と事情がありそうなことは分かった。でも、それは、後回しだ。まずは――」

 

「パーパ、買ってきたよ!」

 リリーの買ってきた串焼きを、ありがと、と言って受け取り、メメに差し出した。


「――食べな、お腹空いてるんだろ?」

 返事は可愛らしいお腹の音だ。

 恥ずかしそうにする必要はない。人間生きていればお腹くらいは鳴るものだ。

「ふぇ、でも――ふぐぅ、あつ――」

 俺は持っていたお肉を少女の口に押し込んで、手を放す。

 肉を咥えたメメも中々に可愛い。

「いいから、熱々がおいしいんだから」


「あぐ、いえ、私は、そのお金が、むしゃ、欲しくて、もぐ――」


「事情はちゃんと聞くから、食べてから喋りなよ……あ、ロベルトさん、女の子の服って扱ってますか? なければ、どこか服屋さん教えてくれるとありがたいんですけど」

 俺が言うと、何故か微笑ましそうにこっちを見てくるロベルトが言った。


「ええ、勿論ありますよ。ロベルト商会は武器、防具に加え服も揃っておりますとも。鉄鋼だけが取り柄ではありませんぞ!」


「んじゃあ、取り合えずはこの子の分だけ、また後日にリリーたちの服も買いに行きますね」


「おお、是非とも。では店のほうにおいでくださいませ。ついでに私どもの営業範囲に、よい宿屋がありますので、そちらも紹介させていただきますぞ」


「そいつは助かります」


「いえいえ、私も商売ですから――」


「わ、わはひの話を、聞いてくださーい!」

 口にお肉を咥えた少女の声が、空しく響き渡った。




 


 

 ロベルトの店はバカみたいにでかかった。

 何台もの馬車を見て、色々やって、儲けてんだろーな、ってことは十分に理解できていたが、これほどとは。夜になってもなお客足は途切れることがなく、武具、防具、衣服、さらには金物、日用品に至るまで、広く商売を行っていることが分かる。勿論、精錬した鉄鋼、魔鋼がメインなのは、大掛かりな施設に向かった馬車を見れば明らかなのだけれど。

 そこで何着が服を買った後、俺は彼の紹介状を持って、この街でもトップ5には入りそうな豪奢な宿を訪れていた。

 丁寧な対応をされ、バカでかい大部屋に通された俺は、気持ちのいいソファーに腰掛けながら、そっと視線をニアとリリーに向けた。

 最初は二人してふかふかベットに興奮し、ピョンピョン飛び跳ねていたが、旅の疲れも溜まっていたのか、数分も経たない内にぐっすりと眠っていた。


「ん――」

 くすぐったそうに吐息を漏らしたリリーに毛布を被せる。


「おねぇちゃん、に……まかせ、な……さい……」

 どんな夢をみているのか、容易に想像できそうな寝言を漏らすニアにも布団をかける。

 初めての旅、走る熊さん、入り口でのトラブルに、身売り少女、問題が起こらないように気を張っていたニアも相当疲労があったのだろう。 

 肉体的な疲労は多分俺が一番だが、精神的疲労はニアが一番だろ。

 

「お疲れ様、お姉ちゃん」


 寝室から出ると、もう一人の少女と顔を合わせた。

 浴室で体を拭ってきたのか、メメも綺麗な肌と女の子らしいいい香りが漂った。近くによると微かな炭と鉄の香りが混ざりこんだ。それは生活臭とも呼べる肌に染みついた匂いだった。


「さっぱりした?」


「は、はい! そ、その、綺麗になりましたです!」


「そっか、じゃあ――」


「はぃ、いつでも準備できてます!」


「いや、そうじゃなくて――! それと、服脱がなくていいから!」

 慌てて俺は自らの服に手をかけたメメの手を止める。


「ふぇ、でも、私はお金が必要なんです!」

 メメの顔は真剣だった。

 決して、ただ贅沢をするためとか、欲しい物があるとか、そういう曖昧な感情で口を開いたわけではない。

 最初からあった覚悟の光だ。


「それは、食べるため、生きていくために仕方なくか?」


「――そ、それも、理由の一つです。教養のない私が一人で生きていくには、女の体を使うしかないから」

 別に俺は彼女が選んだ選択を馬鹿にしない。

 まして、身売りや娼婦として生きている人間を馬鹿にする気はない。誰もが生きていることに必死なだけで、過酷な現実で生きている証なのだ。

 だが、それは大人に許された道だ。

 子供はただ、食べて、遊んで、眠ればいい、そんな俺の心情からすれば、子供が身を削ることは気分がよくない。


「お父さんのため、か」


「何で、それを?」

 不思議そうな顔をするメメだが、俺は彼女の口からそれを聞いている。

「いや、自分で言ってたろ……」


「あ、あれ? いつの間に……でも、はい、その通りです。お父さんが病気で……生活費を潰しても、お薬も買えなくて……そのためのお金が私には必要なんです! だから、抱いて下さい! 私は、私は……これ以上無力でいたくない、です……」


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