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ロリコン勇者の再就職  作者: 音無 奏
旅立ち編
21/40

悪魔召喚

 王城には、草木の調和が鮮やかな円形の広場が設けられている。色とりどりの花々が、花壇に植えられていて目を楽しませる。噴水が見せる水の輝きと木々の緑、それらと調和した花々は、思わず足を止めてでもみてしまうことだろう。

 基本的に一定の身分を持ったものは、ここに立ち入ることができる。その辺のベンチに座って眺めているだけで、心が落ち着いてくることは間違いないのだろう。

 

 だけど、本来この庭園はテラスから見下ろすように設計されていた。

 王族が、休憩もかねて、外を見渡すときにこの自然を眺められるようにしているのだ。


「ジン様っ! ジン様ぁーー!」


 とこっちを呼ぶ声がして、俺は声のするほうを見上げた。

 すると、フィリアの執務室に備えられたテラスから、ユーリカが手を振っていた。

 その横では、フィリアがカップを手に威圧的な視線を向けてくる。

 相変わらずのシスコンっぷりである。


 俺はフィリアに負けじと魔法を起動して、テラスへと跳んだ。

 俺が来るのがユーリカは分かっていたのか、ひょいっと傍に寄って来る。


「よしよーしー、ユーリカは可愛いなー」


「えへへー」

 うん、天使。

 はにかむユーリカ超可愛い。


「ちっ! ユーリカ、あんまりその汚らわしい男に触れないほうが――」


「姉様めっ! ジン様を悪く言っちゃ駄目っ!」

 

「なっ! ユーリカ、違うの、違うのよ――」

 はははははははは、残念だったな。

 ユーリカはこちらの味方のようだ。

 俺は悔しがるフィリアをドヤ顔で見据える。

 ユーリカは俺にナデナデされると心底嬉しそうに微笑むんだぞ。


「――あ、そうだわ。ほら、ユーリカ、さっき料理長に焼かせたマカロンがあるの、おいで、食べさせてあげるわ」


「ほんとっ!」

 甘いものを手に持ったフィリアに釣られて、俺の手の中を離れて駆け出したユーリカ。

 カムバック、幼女ー。


「はい、あーん」

 とフィリアがマカロンを手に持って差し出す。ドヤ顔でこっちを見てきて超うざい。

「ん、あーん」

 ぐぬぬぬぬぬ。

 駄目だよ、ユーリカ。

 悪い大人に騙されたら!

 そのお姉さんは妹を偏愛する危険な奴なんだよ!


「ジン様、できれば来られる時は扉から入ってきて欲しいのですが?」

 と、俺の分の紅茶を用意してくれたセラさんが言う。


「いやー、ユーリカが可愛かったもので、つい……」


「貴方の能力、暗殺とかに便利そうね……」

 と、フィリアは言う。

 まあ空間跳躍は基本的な警備ではどうしようもない。最高レベルの結界でも存在しない限り、何処へでも大体一瞬でいける。まあ、慣れるまでは地獄だけどな。

「んな、物騒なことしませんから、安心して下さい」


「そう、ですか」

 と、慎重にこちらを見てくるフィリア。

 そんなに警戒しなくても、

「ユーリカを悲しませるようなことを俺がするわけないじゃないですか」

 それだけで、フィリアに八つ当たりをする理由はなくなる。


「まあ、私のエンジェルは誰にも渡しませんけどね」

 そう言って、ユーリカをぎゅっと抱きしめるフィリア。

「ねーさま、苦しいょ」

 ユーリカは胸に顔を埋め、足をパタパタさせている。クソ、解放してやれよ、苦しそうだぞ、全く。


「このシスコンめ」


「はっ、黙りなさいロリコン」


「むー、ジン様も姉様も仲良くしないとめーっ!」

 胸の合間から顔を出したユーリカが叫ぶ。


「「はい」」

 俺は反射的に返事をしてしまった。フィリアもきっと同じだろう。

 似たもの同士ですね、とセラが言った気がする。

 失礼な、こんなシスコンと同じにしないで欲しい、全く。 


「っと、そうだ。ユーリカ、おいで、プレゼントをあげよう」


「んー、ジン様、なになに?」

 と、近寄ってくるユーリカに、俺は腕輪を手渡した。

 白く青いそれは、夜空に照らされた氷の結晶のような意匠と、中央に飾られた藍色の宝玉が、静かに調和して輝いていた。

 

「ジン様、綺麗! 姉様見てみてー!」

 とはしゃぐユーリカを、俺は見て満足した。

 ついでにフィリアへのドヤ顔も忘れない。


「ありがと、ジン様!」

 と、笑うユーリカに、俺も笑う。


「さて、んじゃ、俺はそろそろ失礼するよ。またな、ユーリカ」


「ん、またねー、ジン様!」


 俺は精一杯格好をつけて、空間跳躍にて、この場を後にした。









 夜、自室にて、誰も部屋に入れるぬようメイドさんに命令してから、俺は一冊の本を顕現していた。

 現状、俺が持っている三冊の禁書のうち、まだ使ったことのないそれを、俺は闇の中にそっと浮かべた。


「遂にやっちゃいますか、私ドキがムネムネしちゃいます」

 随分と懐かしい死語を口ずさむイリスが、そっと禁書に触れる。

 魔道の書グリモワールともまた違う、それが纏う気配は一層に禍々しい。

 魔法陣が重なって、明滅しては消えていく魔道の書グリモワールのような神秘的な美しさは一切ない。まるで全てを飲み込んで奈落へと誘うかのような、深い闇の気配だけが本の傍にあった。


 降魔の書ディアボロスと銘打たれた、その本は、地底の無アンダーグラウンドから悪魔を降誕させるための書物である。


「うーむ。勇者っていうより、明らかに魔王の力だよな、これ」


「気にしたら負けです。それに主様は、どう考えても勇者より魔王のほうが向いてますよね」

 そしてイリスは少し考えて、

「命が惜しければ、幼女を置いてけー、とか言いそうです」

 なんていう。


「そりゃ、盗賊の台詞だろ」


「つべこべ言わずに起動するのですよ」


 と、言われて、俺は改めて、漆黒の書物へと魔力を注いだ。

 すると、歪なほど、黒く本が輝く。

 

 悪魔、についての情報は、そう多くない。

 俺が知っているのは、全ての悪魔は、この世界の内側、地底の無アンダーグラウンドと呼ばれる場所に存在していること。下位の固体から上位の固体まで、すべての悪魔が凄まじい力を持っていること。

 魔王の一柱ひとりが元悪魔であること。

 そして、魔力によって契約、及び支配が行えること。

 

 これくらいだ。

 

 この力を使うことを躊躇った理由は二つある。一つは単純に、魔力の充填が必要で、溜まりきっていなかったこと。もう一つは、悪魔の性格上、弱者には従うことがないということ。

 つまり、危険なので、びびって使わなかったそれだけだ。

 

 だが、自重していて死にましたじゃ笑えない。

 前回の戦闘でも、俺が戦っている間ユーリカを預けられる存在がいれば、瞬間移動での回避が可能だったはずなのだ。つまり、そろそろ味方が欲しい、とそう言う理由で、今回召喚に踏み切った。


 悪魔の仲間とは、また勇者のイメージが崩れそうだが、贅沢は言うまい。


「んじゃ、イリス――降魔の書、起動」


「はいなのです。さあ、さあ、強大な悪魔さん、めっちゃくちゃ力ある悪魔さん、出てきて主様の奴隷になるのです、なるのですよー!」

 随分適当な文言である。

 それでも魔法陣は光っているからまともに起動しているらしい。

 こんな召喚に呼び出された悪魔はご愁傷様である。


 黒い光はやがて収束して、地に魔法陣を刻んだ。

 空間がぐんにゃりと歪んで、光が爆発した。

 天に伸びるような真っ黒の柱、その中から現れた二人の人影。


「クフフフフフフフ、愚かな人間が、僕等を呼んだみたいだよ、姉さん」


「アハハハハハハハ、愚かな人間が、私達を呼んだみたいだね、弟よ」


 うーむ、見事なまでの悪魔っぷりである。

 喋り方もなんかそれっぽい。エコーでもかかっているんじゃないかと思うほど反響している。

 

 姉の方は黒い翼に、病的なほど白い肌、服の代りに黒い靄のようなものが体の大事な部分を覆っている。左頭部には天を貫く一本の角。手の甲と、胸元には何か蠢く文様のようなものがあった。


 弟の方は姉よりは少し背が低い。それに姉と並ぶと左右対称に見える。角とかが得に。体付きは細く、中性的な顔立ちをしていて、瞳が碧い。


 一人召喚するつもりだったのが、二人になった。

 彼らは、愉快そうに笑って、こちらを見下している。

 ふむ、その余裕が何時まで持つか楽しみだ。俺は悪魔染みた笑みを口元に浮かべる。


「うわー、主様が悪そうな顔してます。ご愁傷様なのですよ、いや、マジで、ほんとに……」


「失礼な、イリス。俺はちゃんと、お願いするさ。契約は双務的でないと公平じゃない」


「とかいって、禁書で召喚された時点で手遅れなのに、暢気ですよね、あの二人? はずれを引いたかも知れませんよ?」


「「なっ」」

 そんな、イリスの言葉に、二人は不服そうに顔を歪めた。


「愚かな羽虫め。人に飼われた精霊如きが僕等に口出しするな」


「ほらやっぱり、馬鹿ですよ、主様」

 とイリスが笑う。

 こいつが笑うとムカつくんだよな、実際。


「貴様ぁあああああああああっ!」


 思わず、弟悪魔が黒々とした爪で襲い掛かるが、


「戒めろ、降魔の書ディアボロス

 と、イリスが言うと、輝きを放った禁書から漆黒の鎖が絡みつき、悪魔の自由を奪い取った。


「無知とは悲しいものですね。ま、主様の能力は知らないのが当然なのですけれど」

 放せ、放せよ、と喚く悪魔がイリスの手のひらで遊ばれている。

 どっちが悪魔だ、全く。


 その様子を見て、姉のほうは立場を理解したのか、大人しくなっている。


「さ、契約を始めましょう、なのです」


 この場は既に、イリスの独壇場だった。

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