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ロリコン勇者の再就職  作者: 音無 奏
旅立ち編
14/40

捜査開始

 机に置かれた巨大な紙。

 それは、王都を正確に測量した地図であった。


 フィリアはただ優秀であった。

 この地図を始め、土地台帳、区画整備など、王都の正確な統治は、彼女が内政に腕を振るうようになって格段に向上した。

 使途不明金となって、横領されていた資金を手作業で割り出し、宝物庫の片隅で眠っていた貴金属を売り払い、福利厚生に当て、国民の生活を豊かにして見せた。


 反発する貴族の大半は、不正を働いていることが多く、正面きって向かってきた貴族達は裏を取られ、お縄頂戴の後資産の没収、たった数年の改革で、出資の回収が行えているのだから、素直に帽子を脱いで敬礼する他ない。


 まあ、ともあれ、今はこの地図が大活躍である。

 誤差の少ない正確な地図で、襲撃地点を俺は見ていた。


「王都北東、リイングラッドのつり橋を渡った後、か。ここで襲撃された、と。襲撃の際魔法での戦闘は確認されましたか?」


「近衛の遺体には、損傷の激しいものもありました、明らかに魔法の行使をした証拠でしょう」


 そんなセラの言葉を受けて俺は安堵した。


(辿れると思うか、イリス?)


《余裕です、多分ですけど……》


 余裕なのか、多分なのか、はっきりして欲しいが、まあ可能性があるならば行って見てから考えればいい。


「よかった、なら多分大丈夫です」

 

 一番の心配は痕跡が何も残っていないこと。

 だが、フィリアが多くの人材を護衛に当ててくれたおかげで、戦闘が行われたに違いない。

 セラとフィリアは困惑しているが、そろそろ俺も動きたい。

 そして、それなりにいい所を見せたい。


 せっかく先輩がお膳立てしてくれて、活躍の舞台を与えてくれたので、これを逃すわけにはいけないのだ。


(イリス――第六の書、魔道の書グリモワール起動)


《はい、なのですよ、主様――》

  

「何を!?」


 湧き零れた魔力の波動を警戒して、セラがフィリアを庇いながら、そう言った。


「じゃあ、行って来ますね」


 第九階梯特殊魔法――空間跳躍テレポーテーション


 刹那の燐光。

 やがて、消失。

 眼前にいたはずの人影は、何の痕跡もなく消えていた。


「高位魔法――それも特殊能力指定の……あれって、初代勇者と同じ……どうして、彼が……?」


 そんなフィリアの呟きだけが、取り残された。








 目を見開けば、そこは荒れ崩れた街道だった。

 道に敷き詰められた石が焼け、周辺の建物に傷がついている。

 崩れた木箱に染み入る血痕、飛び散った金属片は、篭手か何かを固定していたものだろうか。

 激しい戦闘があったことは一目瞭然だろう。 


「うぉおおえぇ、やっぱこれ、中々に気持ち悪いな……」


 空間跳躍は、慣れない者がやると酔う。

 脳ミソの中がシェイクされ、視界がぐにゃぐにゃと曲る。

 乗り物酔いとは比較にならないほどの嘔吐感、禁書の中に記されていた空間酔いという奴である。


 イリスと出会い、便利そうな呪文はこれでもかというほど練習した。その中で最もハードルが高かったと呼べるものが、この空間魔法である。

 最初の方は――短距離転移ショートジャンプにて練習をしていたのだが、滅茶苦茶吐いた。

 胃袋の中が空になって、胃液で喉を焼かれる感覚を幾度も味わいながら、必死こいて戦闘の邪魔にならない程度の副作用まで、慣らしていったのだ。


 まあ、それでも気持ち悪いものは気持ち悪い。

 慣れたとはいえ、それはあくまで短距離転移に限ってで、今のように中距離の転移は中々に堪える。

 

「どうだ、イリス?」


 俺の横には一冊の本が浮いていた。


 十三ある禁書創造の領域のうち、第六の領域を埋める魔導書。

 イリスの持つ知識と、禁書庫の魔法を統合し、生み出された禁書。


 その力の強大さは、能力を扱っている俺自身が理解できていない部分が多々ある。

 それを全てやってくれる、便利な奴隷あいぼうがいるので、何の問題もないわけだけれど。


「問題ないです、魔力探査に痕跡がばっちりと。追えば、お姫様の居場所へと案内してくれますよ」


 ――第七階梯特殊魔法、魔力探査。


 非常に地味な魔法だが、この国で扱える人間は多分一人いるかいないかだろう。

 この世界には魔力という謎万能エネルギーがあって、それによって魔法が扱える。

 そこには、第一から第十までの深度があり、一から三を低位、四から六を中位、七から九を高位、十を最高位魔法と区別している。

 その中で、地、水、火、風、氷、雷、光、闇、などの属性魔法を通常魔法、属性を全く持たない魔法を特殊魔法と分類している。


 特殊魔法の多くは、英雄や勇者が残した魔法であり、中には禁書指定のものも多くあった。

 魔力探査もその一つだが、これは比較的安全な魔法だった。 

 今俺の目には、濃い青色の魔力痕が見えている。

 それは、兵士が焼かれたであろう地面から、色濃く湧き出ていた。


「あっちか」

 俺は、分かれ道の多い路地を見据える。

 建物の隅に、ほんの微かにだけれど、魔力の後が見えた。

 

 魔力にはそれぞれ波長が合って、その波長の種類は人によって千差万別である。故に、分け与えるのことにも才能が必要であるし、近い波長、つまり種族が近しい必要がある。どうしてもという場合は契約が必要なのだが、今はそれはどうでもいい。 

 重要なのは、魔力には波長が合って、それを見分け、辿ることが魔法によってできることだ。

 気分は指紋鑑定をする捜査官である。

 

 人間は無意識のうちに微かな魔力を発していて、それが大気に充満している魔素マナとは違う色を持っている。それは、時間が経てば一体化し見えなくなるが、物質に沁み込んでいれば、数日は残る。

 俺は魔術師の身体強化の残滓を追って、歩を進めた。


「見つけた」

 瞳に映る青の軌跡。

 その終着点。

 そこは恐らく、元奴隷商の荷物置き場、か。

 野ざらしにされた鉄格子の檻。古ぼけた建物に、地下牢へと続く道。

 

 商人の所有地なら、まあ基本的には入りにくいか。

 黒幕は商人ともコネがある、まあ貴族だし当然か。それに調査はフィリアの仕事で、俺の目的じゃない。


「さあ、悪人の住処です。大規模魔法で焼き払っちまいましょう」

 調子づく馬鹿を小突く。

 姫様燃やしてどうするつもりだ。

 目的はあくまで救助、戦闘はできれば避けたいところなのだ。


「――探査サーチ

 

 第二階梯魔法、探査サーチは薄い魔力の波動を放って、周囲の人間の数を調べる魔法である。一般的な攻撃魔法と違って想像イメージが難しいらしいが、魔道の書グリモワールに魔力を注ぐだけの俺は余り気にしない。


 数は十二。

 一番小さい反応で、地下に一人いるのがロリ姫だろう。


「二人ほど、こちらに気づいたようなのですよ」


 探査は使い勝手のいい魔法だが、習得に時間がかかる上、一流の魔法使いならばその波動を捕え、感知されたことに気づかれるというデメリットもある。

 現に、急速にこちらに向かう奴と、仲間に知らせているであろうもう一人には気づかれたのであろう。


「ちっ! 予想はしてたが、流石に精鋭だな」

 近衛騎士をうち破ったのだから当然ともいえる。


「うぇえええ、ちょ、はやっ! 主様、全力警戒ですよ!」


 先ほどまで、建物の奥にいた人影は、いつの間にか建物の屋根へと移動していた。

 その人物は全身黒ずくめで、性別すら分かりづらい。日本にいた忍者を髣髴とさせるそいつは、短刀を片手にこちらを凝視していた。


「貴様はあの女を助けに来たのか?」

 と、声色を聞いて、初めてそいつが女であることが分かった。

 何を今さら、と言いたくなったがそれでも一応答えるのが礼儀だろうか。


「ああ、ロリ姫様は何処にいるんだよ」

 俺はそういいつつも、幾つかの魔法を起動させる準備をしていたのだけれど、


「地下の牢だ、行け」

 と、何故かこいつは俺を止めようとしなかった。


「はぁ? いいのか、それで?」


「うむ、私の目的は既に終わった。こいつ等といる必要も既にない。さらばだ」

 と、そう言った瞬間。

 木の葉が舞い、人影が闇の中へと消えていった。


「んだよ、あいつ……何者だ?」


「追跡、するのです?」

 とイリスが聞くが、その必要はない。

 俺は一直線に、目的地へと向かうだけなのだから、逃げるなら追わない。


「いや、いい――さっさと、飛ぶぞ」


「アイアイさー」


 と何故か海賊の下っ端が如く返事をしたイリスの声を切っ掛けに、備えていた魔法の一つが輝きを放つ。

 

 短距離転移ショートジャンプ


 俺は、予め探査で掴んでおいた居場所に向かって転移を行った。


 薄暗く冷たい地下牢の、ひんやりとした空気が広がって、不気味な風が肌を撫でる。

 荒々しい石畳の床に、囚われた一人の少女が目に映った。

 ボロボロになった赤と白のドレスに、傷塗れの素足。ひどく汚れているにも拘らず、魔光石に照らされた純白の髪は、夜空に浮かぶ月明りの如く輝いていた。 

 音も無く、いつの間にか、現れた俺に彼女は目に見えて狼狽していた。


 そんな彼女の不安を拭うように、


「もう、大丈夫。助けに来たよ――」


 と、俺が言った言葉を反芻するように少女はあー、うー、と何故だかうめき声を上げて。


 ややあって、その小さな口を彼女は開いて、

  

「王子様っ!」


 勢い良く飛びついてくるのだった。


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