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21話 その男、生徒会長

―――サクア達の捕獲は完了した。


 その言葉は、颯太に最初届いた時こそ無機質なただの言葉だったが、時間が経つにつれ徐々に温度を持ち始め、数秒後には颯太が持て余すほどに熱を持った凶器と化していた。


 「う、うそだ」

 思わず、颯太から本音が漏れる。


 「嘘じゃあ、ない」

 白鳥と名乗った男は真っ直ぐ相手を捉えている。発せられる言葉は重く真っ直ぐで、疑う気持ちすら起きない。


 颯太は行動に出る。向かう先は今入ってきたばかりの入り口の扉。白鳥に背中を向け、小走りに扉へと手を伸ばす。

 その時、颯太には今生徒会室から飛び出して、何ができるかなんて明確な考えなど持っていなかった。ただ、サクアたちの元へ直ぐにでも向かわなくてはいけない、それだけを思っていた。


 しかし、目の前の無駄に重厚な扉は颯太の行く手を阻む。入った時には勝手に開いた扉だったが、今はビクともしない。鍵がかかっているとはまた違う感触だった。まるで扉そのものが石のように固まってしまったかのように、押しても引いても全くといって手応えがない。2、3度取っ手を揺さぶれば、それが無駄な努力ということが分かる。颯太は全身の力が抜けるのを感じていた。

 サクアの存在が颯太にとってどれほどのものかはまだわからないが、現時点で颯太にとって大きな支えの一つになっていたのは認めざる を得なかった。彼女との繋がりがブチリと切断された時に感じたものは、颯太自身が思っていた以上の大きな喪失感だった。


 「せっかくここまで来たんだ、ゆっくりしていけばいい」

 颯太の背中に向けて、穏やに言葉を浴びせる主は、言わずもがな生徒会長と自ら名乗る白鳥という男だ。


 観念して颯太は向き直ると、当然、白鳥のにこやかな視線とぶつかる。力強い目元、外人のように高い鼻、その顔もまた全てが高いレベルのバランスで成り立っている。思わず、颯太は目をそらしそうになった。どうも、度の超えたイケメンには気負ってしまう。

 しかし、ここで弱腰になったらいけないと颯太は思う。どうやら、サクアの言った通りこの状況は”罠”のど真ん中と考えていいのかもしれない。そして、その首謀者は目の前の男の可能性も高い。嫌でも警戒心が厚くなる。


 「サクアさん達は無事、なんですか」

 「ああ、それは安心していいよ、彼女たちに無駄な抵抗はなかったみたいだからね。すんなり捕まってくれたみたいだ」

 サクアとの通信が不通になってほんの数秒しか経っていなかったような気がした。抵抗がなかったというのは、あのサクアのことだ、抵抗しても無駄と思ったのだろうか。一体、だとすると、彼女たちに襲い かかったのはどんなチカラだったのだろうか。

 「僕はここから出してもらえないんですか」

 「僕らの目的はあくまで事態の収拾だ。それが達成されれば、喜んで解放するから」

 「事態の、収拾?」

 「まあ、それも殆ど終わているけどね。そうだな、まずはそこから話そうか」

 気がつけば、白鳥の言葉は力強い硬いものから、柔軟な柔らかなものに変わっているような気がした。隙を見せればたちまち心に入り込む水のような柔軟性だ。


 とにかく、サクア達が無事ということを聞かされて安心したのか、この場所に少しずつ慣れてきているのか颯太は、ようやく少し落ち着いて周りを見ることができるようになる。


 白鳥が立っている長机を中心に周りには幾つも棚があり、そこには沢山の本やら書類やらが整理されている。一見すれば颯太の通っていた中学の生徒会室と何ら変わりのないものだった。扉の立派な重厚さが肩すかしを食らうほどだ。

 そんな中で、一点目に付くものがある。この教室の一番奥に一つの旗が見える、所謂校旗というものだろう。校旗ならどこの学校にもあるものだから気になるはずもないのだが、この場所にあるそれは、”普通”ではない。

 その校旗は周囲に薄っすらと光を纏っているのだ。光はボンヤリと揺らめいているように見えた。


 「それが気になるかい?」

 そんな颯太を見透かすように白鳥が言う。

 「 あ、いや」

 「僕らには普通の校旗にしか見えないが、君には違うように映っているのかな」

 言葉は颯太の核心をつく。表情は相変わらず和かな笑顔を貼り付けてはいるが、目は笑っていない。その眼光は返す言葉を失っている聡太の瞳の奥を抉るように捉えている。この白鳥という男の言葉を颯太は掴みかねていた。探るように白鳥の出方を伺うが、その警戒を裏切るかのように、話は構わず先に進む。


 「たしかに、その校旗は特別だ。なんせこれのために君たちは貴重な高校生活を賭けてのたうち回らないといけないのだからな」

 「どういうことですか」

 「まあ、くだらないゲームだよ、強制参加のね。取って取られての旗とりゲームをやってもらうんだ、他校も巻き込んでのね」

 白鳥の話は、冗談なのか、本気なのか、まずそこからよくわからない。いきなり何を言い出すのだろうか、と思う。そんな颯太の言いたいことを察したのか、白鳥は困ったように笑う。

 「困惑するのも無理はないよ、まあ、詳しい説明は後でされるだろうから。今重要なのはこの旗の所有者が僕で、そしてこれがここにあるということだ」

 「はあ」

 「簡単に言うと、この旗を所有しているということはこの学園の主権を握っていると同義なんだよ。だから普段は誰の目にも触れない場所に厳重に保管しているんだが、厄介なことに今日みたいな式典には表に出さないといけないという、ルールがあってね。ま、そういう時にこういった騒動が起きるってわけだ。毎年大なり小なり何かしら起きてはいるが、今回のは特に酷かった」

 白鳥がわざとらしくヤレヤレといった感じに両手を広げる。彼の話で、教室の奥に立ててある校旗が特別なもので、それが原因で白鳥達の周りでも何かが起こった、という事は理解できた。問題はここからだ。

 「僕たちは朝集まった教室で、強い光に襲われたような気がするんです。でも、これと言って直接的な被害はありませんでした。騒動というのは一体、何のことを言っているんですか?」

 颯太は、ここは敢えてヒカリのことは伏せておくことにした。ここで当のヒカリは随分大人しいなと、ふと思う。しかし、今は怪しまれないように視線を彼女に向けることはよしておく。

 「どうやら、君たちのいた場所ではそれほど影響は無かったらしいね。チカラを遮るとか、そういう能力者がいたのかもね」

 雛乃のチカラの事だろう。彼女のチカラはラインオーバーを防ぐ壁を造る、といったものだった。なぜかその後ヒカリに入れ替わっていたわけだが。

 「……僕にはよくわかりません。もしかしたら、そういう人もいたのかもしれませんね」

 「もし、そうだったらその人も無事ではないだろうね。チカラを遮るということは直にチカラを浴びるってことだ、危険だよ」

 「え」

 ”しまった”と思ってももう遅い。”無事ではない”という言葉につい偽り様のない驚きの表情を出してしまっていた。教室から出る時も、結局雛乃の安否を確認できなかったから余計だ。つくづく颯太はこういった駆け引きは出来ないと、自分を責めるのだった。

 「ふふ、その人は知り合いだったのかな? 安心していい、それは生命に対しての危険ではないからね」

 白鳥は自分の顎を摩りながらの余裕の表情だ、憎たらしいほどに。

 「では、無事ではないというのは……」

 「うん、その前にもう一度聞いていいかな? その強い光というのはどういう風に襲ってきたのかな」

 その問の意味は理解できなかったが、取り敢えず感じたままに答えてみる。

 「はい、まるで強い爆発に巻き込まれたように感じました。ただ、それは気のせいだったみたいですけどね」

 颯太の答えに白鳥はやはり大袈裟に頷く。

 「なるほどな、それは気のせいでは無いんだよ。確かに爆発は起こっていた」

 「で、でも、爆発の跡なんてどこにもありませんでしたよ」

 もちろん教室から見えていた幻影のことは伏せておく。

 「ああ、起こったのはラインオーバーの爆発だ。物理的な被害は起こっていない」

 「ラインオーバーの爆発って……つまりどういうことなんですか」


 「それに巻き込まれた者の大半がラインオーバーのチカラを失っていたんだ。もう、やれやれだよ」

 白鳥は溜息と共に言葉を吐く。颯太は辛うじてその意味は何とか理解できた。


 「つまり、雛乃さんはもうラインオーバーのチカラがないということなんですか」

 「名前は雛乃くんて言うのか。調べて見ないと解らないが、失っている可能性は高いね。それでも被害は驚くほど抑えられたと思っていい。こっちなんてもう目を覆いたくなるような被害数なんだから」

 つい、雛乃の名前を出してしまうという失態にも気づかないほど颯太は動揺していた。ただ、その動揺の中身はイマイチ理解出来ていなかった。ラインオーバーのチカラを失うということは本人にとってどれ程の影響を与えるものなのか、今さっきチカラを自覚したばかりの颯太には考えもつかなかった。


 「そこで、事態の収拾の話に戻るわけだ」

 白鳥はそういうとパチンと手を叩く。颯太は否が応にも意識を向かされる。


 「こちらとしては、当然その原因となった”能力の主”を捕まえなくてはいけないわけだ」

 話の中身はハッキリとは見えないが、ただ強い嫌な予感だけは感じていた。


 「そこで、颯太くん、君にここへ来て貰ったわけだな」

 もはや、なぜ自分の名を知っているかという疑問も起こらなかった。


 「原因をここまで連れてきてくれて有難う。いるんだろ?そこに」

 白鳥の表情に変化はない。まるで当然のことだろ?と言うかのように至って普通に言葉を発していた。


 その時、颯太は自分の制服の端を誰かがキュッと握る感触に気付く。それはヒカリに違いなかった。颯太は、自然と握っている拳に力が入るのを感じるのだった。




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