11話 時間帯
零がゲームに戻ると、ゲームの中は夕方になっていた。
(今現実世界の時間だと14時を少し過ぎたくらいのはずだな。)
ゲーム開始から7時間と少し。ゲームの中の1日の長さは現実時間の16時間と説明書に書いてある。
夕日に照らされた始まりの町もなかなか美しい。
もともと煉瓦造りの家が多いからか、ただでさえオレンジ色の町が、さらにオレンジ色に染まりあがる。
それもまた情緒があって良いものだった。
しかしこのゲームに於いての時間の概念は、景色の変化だけではない。
昼にしか出ないモンスター、夕方にしか出ないモンスター、夜にしか出ないモンスター。
時間帯によって変わって行くため プレイヤーもその度に戦い方、準備の仕方を変えていかなければならない。
(戦いに行くのは夜になってからにするか。それまでは素材を預けたり売却しに行こう)
零は即座に決断して行動を開始した。
◆◇◆◇
素材はレッドゴブリンの耳だけを売却し、残りの素材は全て倉庫に預けてしまった。
そして今は薬屋の前に来ていた。
どんな物があるのか確認しようとしていたところで、着信音が鳴り出す。
「何だ?」
メールを開いてみると新たなエリアボス討伐者が現れたようだった。
【全プレイヤーの皆様へ】
『この度新たなエリアボス討伐者が現れました。
エリアボスはレッドラビットです。
3人パーティーでの討伐となっています。
【大樹】
【戦うコックさん】
【正人】
以上の3名です。
彼らには1~3位賞金の合計である9万円の3分の1の金額である、3万円が支払われます。
エリアボス討伐者報告でした。
今後もスキル・メイク・オンラインをお楽しみください』
一通り読み終えた零は新たな討伐者の登場に笑みを浮かべる。
「強いのか。一度戦ってみたいな」
いつの間にか自然と独り言を呟いてしまっていた。
「俺も負けてはいられないな」
零は新たなエリアボスを倒した彼らや、これから現れる討伐者に遅れを取るまいと、気持ちを高ぶらせる。
「まずは準備からだ」
自らの目的を思い出し、また買い物に戻るのだった。
◆◇◆◇
薬にランプ、携帯食糧にホーンラビットの干し肉とコーヒーを持った零は、始まりの森の前まで来ていた。
夜空には満天の星に大きな満月が輝いているため、始まりの草原はまだ明るい。
ここに来るまでのモンスターに変化はなかったので、始まりの草原は昼でも夜でもモンスターが変化しないのかもしれない。
変化しないなら、運営側がこれから来る初心者に配慮したのだろう。
「よし。行くか」
零は軽い口調で言葉を発して、ランプを片手に始まりの森へと足を踏み入れた。
森の中は木々や葉っぱによって光が遮られているため、月や星の光が一切入って来ないと言っても差し支えないほどに、真っ暗だった。
ランプの光が無ければ前はおろか景色など一切見えないだろう。このちっぽけなランプの光が生命線と言える状況だ。
慎重に奥へと進んで行くが、モンスターには遭遇しない状態が続く。
5分ほど歩いたところで前方からうめき声が聞こえてきた。
グルルルと呻るように鳴く声に一瞬気を取られた隙に、横からもう2体の黒い影が飛び出して来る。素早く躱すと、ランプの光にさらされながらチュートリアルで戦ったブルーウルフが3体じりじりと迫ってくる。
「チュートリアルよりもスピードが早いな……」
苦笑いを浮かべる零。
横切ったブルーウルフ(A)が地面に着地 すると同時に、2体(BC)が同じ方向から時間差で飛び掛かって来る。
冷静に状況分析をした零は、着地で隙を見せたブルーウルフ(A)の背中を、踏み台にしながら蹴りを入れる。2体のブルーウルフ(BC)の上でバク宙を決めると、零に飛びかかろうとする2体を剣で斬りつけた。
致命傷を負ったため動けそうにない2体の止めを刺した。
先ほど背中に蹴りを入れられ一時戦闘不能になっていた一体はその衝撃で倒れていたが起き上がると、自らの不利を悟ったようで、こちらを警戒しながら逃げ出して行った。
零は深追いすることは危険と判断して追うことはしなかった。
「本当に頭の良いAIだな」
前方で呻き声を上げて注意を引き、違う場所から襲い掛かる。
しかも失敗した時のための時間差攻撃、それも2体同時での攻撃の2段構え。
「今回は3体だったから良かったが、さらに数が増えると厄介になりそうだ」
左手に持っているランプを見て、さらに溜め息をつく。
片手を封じられてしかもランプという守る対象が増えている。
「今度からはランプを地面に置いて戦ってみるか?」
零は頭の中でイメージトレーニングをしながら、ブルーウルフの剥ぎ取りを始めるのだった。





