10話 賞金
森にまた 戻って来た零は、さっそく見付けたゴブリンを木の陰に隠れて観察していた。
前回見付けた時と同じ様に3体で行動している。
これだけ完成度の高いゲームのモンスター達が、プレイヤーに遭遇しない時にどんな行動をとっているのか興味が湧いた零は、物陰に身を隠しながら彼らの行動を見守ることにした。
3体(ABC)で顔を見合わせながらギャアギャアと会話していたゴブリン達は、結論が出たのか森の奥の方へと縦並びで歩き出した。
零も細心の注意を払いながら、木から木へと隠れながらゴブリン達の後ろについていく。
少しの間その繰り返しだったのだが、急に先頭を歩いていたゴブリンが立ち止まって、手で他のゴブリンに制止の合図を出した。
(何かあったのか?)
ゴブリン達の目線の先に何が居るのかを知りたくなった零は、ゴブリン達の横を通り抜ける。
彼らから見えない位置で木の陰に隠れ、少し顔を出してゴブリン達の目線の先へと視線を注いだ。
(ホーンラビットが2匹か)
2匹のホーンラビット(AとB) が、地面に生えている草を食べている姿が目に入ってきた。
ホーンラビットが食べることに夢中になっている隙に、ゴブリン達が勢いよく斜め後ろから飛び出して来る。
3体(ABC)で一斉にホーンラビット1匹(A)を、その手に持っている棍棒で叩きつけ始めた。
隣にいたホーンラビット(B)が仲間を助けようと、その尖った角で手前にいたゴブリン(A)の足へと突進する。
近くに居たため助走がほとんど出来なかったからか、浅くしかゴブリン(A)の足には刺さらなかった。
足を刺されたゴブリン(A)は激昂し、狙いを刺してきたホーンラビット(B)へと移す。
足を刺していたホーンラビット(B)は、既に角を引き抜いて距離を取っていた。
一直線に突進してくるホーンラビット(B)に、ゴブリン(A)は棍棒を真っ直ぐ振り下ろす。
角が棍棒に突き刺さる形になり、ホーンラビット(B)が身動きが取れなくなった。
すると先程まで奇襲に成功し、ホーンラビットを叩きつけていた2体のゴブリン(BC)達が 、棍棒に 突き刺さっているホーンラビット(B)の左右に移動する。
後は身動きの取れない ホーンラビット(B)を三体が叩きつけるだけだった。
(見ていて気分の良いものでは無いな……)
木の陰から観察していた零は、顔を顰めながらも最後まで見届ける。
(リアルでも弱肉強食だし、人間だって大して変わらないことをしているか……)
リアルの世界でも当然と言える、自然の摂理である弱肉強食をゲームの中でも再現している。
全てのモンスターたちが自発的に、草を食べ、獲物をかり、生活している。
零は改めてこのゲームの凄さを実感していた。
零が物思いに耽っている間に、ゴブリン達は息絶えたホーンラビット達を担ぎ上げていた。
そのまま、また3体でギャアギャアと騒ぎながら森の奥へと歩き出す。
零も直ぐさまゴブリン達の後を追うように移動し始めた。
そしてゴブリン達の後ろを長い間つけていると、木々の無い開いた場所が見えてくる。
ゴブリン達の拠点なのだろう。
藁で作った簡易な家が建ち並んでいる。
奥には崖が壁になっていて行き止まりになっているが、 片面が 他のモンスターから襲われないと考えれば、 良い場所だ。
何体ものゴブリン達がギャアギャアと騒いでいるところを見れば、ゴブリン達の拠点であることは一目瞭然だ。
あの頭の悪そうなゴブリン達が、敵に襲われ難いからここを拠点にしたとは、俄かには考え難かったが、実際ここに拠点を作っているのだから、頭の良い個体がいると考えた方が無難だ。
(隠れながら偵察してみるか)
ゴブリン達のボスのような存在がいないか確認するために、家の陰に隠れながら行動することにした。
取り敢えずホーンラビットを担いでいるゴブリン達をつけていると、何も担いでいない1体が、1番大きな藁の家に入って行った。
少し待っていると、中から先程入って行ったゴブリンと一緒に、赤い肌をしたゴブリンが出てくる。
(あからさまだな)
明らかにボスだと一目で分かるゴブリンの登場に、運が良いとほくそ笑む。
観察していると、赤いゴブリンが他の緑のゴブリン達の背中をバンバンと叩きだす。
憶測であるが、褒めているのだろう。
ギャッギャッギャッと笑い声を上げている様を見ていると、とても気分が良さそうに見える。
赤いゴブリンは、指を地面に指しながら指示を出して、自分は藁の家に帰って行った。
(これはチャンスだな)
家の中なら1対1に持ち込める可能性が上がり、奇襲もし易くなった。
このチャンスを逃すまいと、何処かに走って行った3体のゴブリン達を尻目に、零はさっそく赤いゴブリンが入って行った藁の家に移動する。
細心の注意を払い扉のない入り口へと近づいて、中を覗き込む。
(やはり1体だけか)
丁度しゃがみ込んで石を手に取ろうとしている赤いゴブリンを見て、すかさず中に侵入する。
(隙だらけだ!)
足音を最小限に抑えて、一気に接近する。
気付かれることなく距離を詰め、後ろから赤いゴブリンの首を跳ねるようにスラッシュを使った。
(堅い!?)
僅かにかすり傷を付けることしか出来なかったことに、驚き目を見開く。
直ぐ様バックステップで距離をとり、零は剣を構え直した。
赤いゴブリンは、その隙に石の 直ぐ横にあった棍棒を手に取って、こちらを振り向く際に 棍棒を振り払って牽制してくる。
(眼球なら攻撃が通るだろ!!)
相手の弱点を突くために、地面に落ちていた小石を掴みながら思いっきり左目に投げつける。
身体を沈めながら地面すれすれを下から上に投げるその投げ方は、野球で言うところのアンダースロー、サブマリン投法と呼ばれる投げ方である。
赤いゴブリンはギャアと叫びながら間一髪で小石を目からは逸らすが、頬を掠めてしまう。
その隙にすかさず零が踏み込んで 、左目から脳を剣で突き刺したため、断末魔を上げながら仰向けに地面に倒れた。
(不味いな……)
最後の断末魔で他のゴブリン達が異変に気付いたと感じた零は、取り敢えず掲示板に張ってあった依頼書で見た、ゴブリンの討伐の証になる左右の耳を剥ぎ取る。
そして直ぐさま外に出るが、入口周りは既にゴブリン達で囲まれてしまっていた。
「――まったく……」
ついつい溜め息混じりの声が出てしまうが、気を取り直して剣を構え直す。
(20体はいるな……)
左右を見渡して冷静に数を数える。
こちらが動かないのを見ると、ゴブリン達が叫びながら一斉に突撃してきた。
(まずは家の中に逃げ込む!! )
入り口から2体が同時に入って来ようとするのを、目線に剣を合わせてスラッシュで斬ることで動きを止める。
さらに1体ずつ心臓を一突きにして絶命させる。
やはり緑ゴブリンは頭が悪いのだろう。
10体まで同じように侵入しようとして来て、同じように零に殺られていく。
しかしここでアクシデントが発生する。
2体のゴブリンの目をスラッシュで斬るまでは良かったが、心臓に向かって剣を突き立てると、心臓まで到達する前に剣が止まってしまったのだ。
「おいおいマジかよ」
悪態をつきながら再び剣を突き刺して片方は仕留めるが、隣のゴブリンが当てずっぽうに振り回した棍棒が当たりそうになり、バックステップ で避けてしまった。
それが仇となり何体か中に侵入してくる。
とにかく目を斬ることを最優先していき、ゴブリン達の視界を奪っていく。
視力を失ったゴブリンを上手く盾にしながら、直ぐに自身の所までは来れないようにして、その間に心臓に向かって剣を二突きして絶命させていく。
時には眼球から脳まで突き刺して一撃で倒し、時には首を二度斬り裂いて 跳ね飛ばす。
「漸く終わったか……」
侵入してくるゴブリンが居なくなったのを確認して、一息つく。
念のため慎重に入り口から外を確認して、他にゴブリンが居ないかを確かめる。
「剥ぎ取っていくか……」
またゴブリンが帰って来る可能性があるのでのんびりはしていられない。
零が素早く両耳を剥ぎ取っていると、メールとメッセージが届いたことを知らせる着信音が鳴り始めた。
メニュー画面を開くとメッセージが何件かと、メールボックスに受信メールが来ている。
「何のメッセージだ?」
頭に浮かんだ 疑問を声に出しながらメッセージボタンを押すと、
『スキル【生態系調査】を手に入れました』
『スキル【隠密】を手に入れました』
『スキル【不意討ち】を手に入れました』
『スキル【投擲】を手に入れました』
『スキル【剥ぎ取り】を手に入れました』
と表示された。
「スキルが手に入る条件を満たしたのか」
思い当たる節が幾つもあったが、そこで疑問が生じる。
「何故今頃?」
タイミング的に剥ぎ取りが完璧なサイズで行われた事で、【剥ぎ取り】のスキルを手に入れたから着信音が鳴ったのだろうと想像したが、そう考えると他のスキルはもっと前に獲得していたと考えるべきだ。
――なら何故その時に鳴らなかったのか。
(戦闘中だったから、または敵が近くに居たからと考えるのが妥当か)
戦闘中や敵が近くに居るときに鳴ったら気が散るし、はっきり言って邪魔だ。
そう考えると納得できる。
(メールは?)
メールボックスから受信ボックスを開いて確認すると、そこには運営からの重要メッセージだと書かれていた。
(何だ?)
何か悪いことをしたかと一瞬不安になるが、特に心当たりもないのでメールを開く。
『この度は、エリアボス討伐おめでとうございます。
今回貴方が初めてのレッドゴブリン討伐者として、賞金10万円が振り込まれます。
なお、貴方の名前をレッドゴブリン最初の討伐者として、全プレイヤーに公開することが出来ますが、如何なさいますか?
ご返信お願い致します。
1日経っても返信が無かった場合は非公開とさせていただきます。』
「賞金10万円? 全プレイヤーに公開? こんなの説明書に記載されて無かったぞ?」
取り敢えずメールの返信で、非公開にしてくださいと送っておく。
すると直ぐに返信が返ってきた。
『かしこまりました。
それでは非公開にさせていただきます。
間違っていた場合は3分以内にご返信をお願い致します』
そのままで良いので放置して、残りのゴブリンの耳を剥ぎ取っていく。
するとまた着信音が鳴った。
「今度は何だ?」
受信ボックスをまた開く。
【※重要 全プレイヤーの皆様へ】
『この度はスキル・メイク・オンラインをご利用頂きまして、誠にありがとうございます。
今回初めてのエリアボス討伐者が現れましたので、ご報告いたします。
名前はプレイヤーの希望により非公開にさせて頂きますが、レッドゴブリンを討伐されました。
そのため賞金10万円が授与されます。
なお、エリアボス討伐は最初の1000名様まで賞金、または1カ月のゲーム無料券と引き換えにさせて頂きます。
討伐が早いほど賞金は高いです 。
討伐者以外も、プレイヤーが鍛冶 で作った武器や防具で討伐された場合は、武器、防具の製作者プレイヤー全員に5割の賞金が入ります。
討伐者の賞金から差し引かれるわけではなく、別に支払われるので、ご安心ください。
無料券だった場合は、無料券が手に入ります。
パーティーでの討伐の場合は、例えば1番最初に4人パーティーがエリアボスを倒した場合は、1~4番目までの賞金を足し、4で割って平等に支払われます。
ボスによって賞金が違います。
エリアボスは、1つのエリアに複数いることも多々あります。
ご注意ください。
以上でお知らせを終わります。
分からないことがございましたら、お問い合わせボックスにメールをお願い致します』
「――そう来たか」
難易度の高さ、デスペナの厳しさは、簡単にはボスを討伐できないようにするため。
一度死ぬだけで自らの力の多くが失われるのは、トッププレイヤーが落ちていくことで、誰にでもチャンスが生まれるから。
身体能力は全プレイヤーが一律、違うのはスキルと防具や武器。
「トッププレイヤーの新陳代謝を活発にする為のシステムだったんだな……」
どんなに廃人プレイをしても、死ねば一気に転げ落ちる。
慎重に行きたいが、遅いと賞金が手に入らない。
「――面白い」
零は嬉しそうに呟いて、不敵に笑った。
メニュー画面に表示されているリアルの世界の時間を確認すると、もうすぐ12時になりそうだった。
「腹も減ってきたし始まりの町に戻ってログアウトするか」
他のプレイヤー達が今のメールで焦っているのが脳裏に浮かぶが、零はあくまでマイペースに町へ向かって歩き出した。





