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第八百三十八話

 アホ弟がこっちを監視しながら寝言をほざく。


「兄貴は最強なんよ。フェイントからのストレートかフックみたいな選択肢を与えても、必ず正しい答えを選びやがるんのよ。フェイント全部スルーして攻撃ブロックしながら肘打ちでカウンターぶち込んでくる。だから喧嘩で勝てたことがないんだわ」


 なにほざいてやがる。

 最後に喧嘩したのはお前が士官学校に行く前だろが!

 中坊と高校生の喧嘩が成立する方がおかしい。

 最後に喧嘩させろって言いやがって!


「レオ、お前なに言ってんの? そのときの喧嘩で俺の腕ヘシ折られたんだけど!」


 正しい選択肢を選んでも圧倒的パワーの拳で腕折ってくるとかおかしいだろ!

 たった一発食らっただけでガラスが砕けた時みたいな音が体に響いたぞ。


「俺の拳も折れたんだけどね! あとさー、頭突きで鼻の骨折ってきたじゃん。それが原因でノックアウト」


 額に頭突きする余裕はなかった。

 鼻の骨折るしか選択肢がなかっただけだ。

 しかも三発お見舞いしてようやく戦意喪失。

 バケモノすぎんだよ!


「なあ……お主ら、兄弟喧嘩にしてはレベル高すぎないか?」


 皇帝陛下が通信越しに呆れた声を出した。

 俺もそう思う。

 この弟は殺すつもりで殴らないと必ず立ち上がってくるのだ。


「こいつ強すぎるんすよ。お前とは二度と戦わねえからな!」


「あ、ズル! 勝ち逃げするつもりだ!」


「当たり前だろ! お前は職業軍人で銀河帝国最強の剣豪だろが!」


「ウキイイイイイイイイイイィッ!」


「るせーバカ!」


 バイクで様子を見る。

 ヘリが飛んできた。

 ヘリにはチェーンガンが見える。

 おいおい、やめろバカ。

 陸軍も頭に血が上ってやがる。

 人質がいるの忘れてやがる。

 ミサイルじゃねえから、まだいくらか正気なんだろうが……。

 ヘリがチェーンガンをぶっ放す。

 倉庫のコンテナごと敵の姿が見えなくなった。

 夜だというのに煙が見えた。

 馬鹿野郎が。コンテナに人質がいたらどうすんだよ!

 そこで通信が入る。


「私はルナ! レオくんの相棒です。倉庫の事務所に武装してない人がいます!」


 あん?

 ルナ……ルナ? ルナ?

 なんかここ数年でよく聞いた名前だな。


「皇女ルナ!? こないだ追悼やってた!」


「いいから! システムハッキングして照明落とします! 中に入ってやっつけてください!」


「お、おう!」


 バイクをフルスロットル。

 ヒャッハー!

 これこれ! 久しぶりだ!

 ヘリに壊された残骸をジャンプ台にして……。

 窓から飛び込む!


「な、なんだお前は!」


 問答無用で鉄パイプでぶん殴る。

 ぶっ飛んでいく。


「てめえぶっ殺してやる!」


 ツーマンセルってやつか。

 普通にバイクで跳ね飛ばす。バカめ!

 さーて室内じゃバイクは不便だ。

 まずはバイクを置いて、確認っと。

 財布奪ってヘルメット脱がせて……あん?


「ルナちゃん、いる?」


「どこにでもいますよー」


「ビースト種」


「はい?」


「犯人にビースト種がいるわ。外のやつも耳がないだけでビースト種かもしれねえ」


 バイクではねた男は犬耳のビースト種だ。

 ビースト種はレオの嫁の部下だろ?

 どういうことだ?


「レンちゃんに問い合わせします」


 ルナちゃんと通信終了。

 大きな音がしたためか、敵が来る。


「なんだお前は!?」


 ライフルを向けてきたので壁を走って回避。

 そのまま壁を蹴って顔面めがけてローリングソバット。

 もう一人の頭を鉄パイプでフルスイング!

 ヘルメットつけてるから容赦しなくていい。楽だ。

 でも鉄パイプはひん曲がった。

 しかたないグローブ奪うか。

 武器が欲しいが刃物は嫌いだ。

 グローブのナックルの方がまだマシだ。

 ヘルメットを脱がすとこっちもビースト種。


「どういうことだ?」


 かなり厄介な事態に巻き込まれたな。

 ったく、偉くなった弟の尻拭いかよ。

 ま、悪い気分はしねえけどな。


「サムくん、レンちゃんを族長と認めない派閥のようです!」


「は? 反対する意味は?」


「ありません!」


 なんだよ……気分で反対してるだけかよ。


「公爵会残党と組む理由は?」


「逆張り……? いやなにかあるかも!」


 とにかく弟の嫁が頭だと困る連中ってことか。

 それだけわかればいいや。


「劣等種がよくもやりやがったな!」


 一目見て熊とわかるビースト種が出てきた。

 デッカ! 体デカ!


「おいおい。ふざけんな。こちとら普通種だぞ」


 俺はひん曲がった鉄パイプを投げつける。

 それを熊の野郎はぺしっと払った。


「なにが普通種だ。てめえもビースト種だろが! 壁走ってんの見たぞ! どうせヤモリのビースト種だろ!? わかってんだよ!」


「いや人間だが。まあ、いいや、あんた強そうだから名乗ってやる。サム・カミシロ、農家だ」


「おいおい、クロノス王の兄貴かよ! 大物が引っかかったじゃねえか!」


「そ、普通の兄貴だ」


 熊野郎が手を振り上げる。

 大きな爪が見えた。


「ガハハハハ! 死ぬなよ!」


「うっざ」


 熊野郎はその体格からは想像できないスピードで手を振り下ろしてくる。

 ウィービングで回避しながら懐に入って拳をねじ込む。

 おっと、硬てえ!

 だが連打。


「ふははははははは! 効かねえよ! 人間の小さな拳なんぞよう!」


「てめえの攻撃も当たらねえけどな!」


「そりゃ違いねえ!」


 笑いながら手を振り回してくる。

 蹴りは……無理だな。

 足を止めたら死ぬ。

 とにかくカウンターで殴り続けて相手の足を止めるしかない。


「軽い軽い軽い!」


 そう言いながらも動きが雑になってきた。

 そろそろやるか。

 手を開き、手刀をみぞおちめがけて突き刺す。


「げぶ!」


 貫手だ。

 こういうのはレオの野郎の方が得意だが……。

 ま、俺が教えたんだが。

 熊野郎はひざをついて嘔吐した。

 顔を蹴飛ばしてやってもいいが、俺も休憩タイム。

 息を整える。


「まだやるかい?」


「う、うげえええええええええええ……お、おい! 聞いてねえぞ! てめえなんなんだよ!」


「ただのヤンキーだ」


「死ねえええええええええええ!」


 血走った目で熊野郎がこっちに突っ込んできた。

 よし、予定通り。

 前足を不用意に出した瞬間、そのヒザを全力で踏み潰す。

 ベキベキベキベキと音がした。

 関節蹴りだ。

 熊野郎の足はへし折れてた。


「どうだ? 俺の帝国体術は?」


「こ、こんなの習ってねえ……」


「なんだ正規兵か。教本の最初に書かれてた技だ」


 最初しか憶えてない。

 すると弟から通信が入る。


「ほらな。兄貴強いんだって」


 奥に行くとライオンのビースト種がいてオッサンを盾にしてた。

 他にもビースト種がいたが、俺におびえてるようだ。

 オッサンは頭から血を流してた。

 女の子の父親の男爵だろう。


「き、貴様ぁ! 止まれ! レゾはどうした?」


 熊の獣人のことだろう。


「足へし折ってやった。しばらく動けねえよ」


「ふ、ふざけるなあああああああああああ! 止まれ! こいつがどうなっても……」


「うるせえ!」


 普通にぶん殴った。

 ライオン野郎は後ろの壁まで吹っ飛んだ。


「お前らもやるかい?」


 他のビースト種たちが銃を下に置いた。

 それと陸軍が突入してきたのは、ほぼ同時だった。


「サム閣下! ご無事ですか!?」


「無事無事。ようおっちゃん」


 俺は人質に声をかけた。


「娘さんに頼まれて助けに来たぜ」


 一件落着。

 久しぶりの喧嘩だ。

 とりあえず思うのは、本物の熊の方が強いな。

 人間なら勝てる。

 こうして俺は事件を解決し、銀河最強ヤンキーとか陰で言われるようになったのである。

 最強なんかじゃねえ。

 悪は滅び、俺はなんだかんだでマキとつき合うことになった。

 マキの研究が奪われた件をルナちゃんに言ったら大問題になったらしい。

 で、一番上の兄貴であるが……「ステーキ美味しかった」。

 そうかよかったな。

 なおそれを聞いたお袋は泣いた。

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― 新着の感想 ―
どっちの意味で泣いたんだろうか…どっちの意味でも泣いたんやろなぁ
クマと言ってもクロクマとかツキノワグマクラスじゃなくて シロクマとかヒグマクラスのデカいほうだろ? あれ、人間がステゴロでどうにかできるわけないからな?
サム兄がこんな化け物だと、今の所腹ペコ空気キャラな長兄も怖いんだよ。
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