第八百十八話
スペース・レイダース。
銀河帝国宇宙海兵隊特殊部隊の一つ。
その教官を務めるのが俺。
ヒューマである。
心の底からどうしてこうなった?
宇宙海兵隊から選抜された兵士の最強チーム……のはずだった。
もちろんレオ・カミシロ・クロノス陛下は別だ。
あれは人外。
そもそも士官学校の時点でスペース・レイダースよりも上位のパイロットチームに配属予定……ってあーた。
十年に一度の大型ルーキーだ。
……実物はもっと化け物なんだな……これが。
あんな宇宙怪獣と比べたら俺らはまだマシだ。
人間側だ。
そんな我らは落ち込んでいた。
先日の神によるカチコミ事件。
我らは第五陣に組み込まれていた。
要するに他に手がない場合のバックアップ要員。
負傷者の救助をしたら部屋ごと爆破。
それが作戦だった。
つまり最初から期待されてなかったのだ。
そりゃ相手は神だ。
いや書類上は『神を名乗る上位存在』か。
対抗手段が乏しいのは我らも理解してる。
それでもなお、元相撲取りが活躍し、野球応援団が無双した。
俺たちはただ廊下で突っ立っていた。
この状況はさすがにプライドをへし折られた。
自分たちの中でなにかが折れた音がした。
何度も言うが、現状は正しく理解してる。
先行したレオ陛下の近衛騎士団、レオ陛下のニンジャ部隊、アーマードリキシ部隊が壊滅。
俺たちも同じ状態になっただろう。
彼らは死亡者こそいなかったが、いまだ入院してるもの多数。
それでも廊下で待機していただけ。
あの屈辱は我らをひどく傷つけた。
意図は理解してる。
最終的に爆破するしかない。
この時点で我らは時間稼ぎでしかない。
敗北なのである。
それでもなお、プライドが許せないのだ。
だとしたら心が折れた我らは軍を去るのだろうか?
それは違う。
我らはスペース・レイダースなのだ。
悩みが消えるまで体をいじめ抜くのみ。
たとえ脳筋と後ろ指を指されようともそれが我らの生き様である。
……とここまでいい。
問題が発生した。
我らの任務は常に死と隣り合わせ。
当然のように験を担ぐものが多い。
最終的には運が生死を分けるのだ。
そして我らに人気の神様と言えばレオ陛下命名の座敷童様である。
船の守り神。つまり我らの守り神だ。
というわけでクロノスに作った社に足繁く通い、祈りを捧げた。
あるものは無事に帰還することを願い。
あるものは家族の安全を願う。
あるものはスポーツギャンブルでの勝利を願い……。これが大半な。
ごく少数のものが銀河帝国の勝利を願った。
……戦争の勝利は俺たちが勝たせればいいだけだからな。
とにかく我らはお菓子やジュースや賽銭を貢ぎまくってたわけだ。
目に見える存在で喜んでくれるからな。
そんな存在が……。
え?
不思議生物じゃなくて本当に神様?
え?
いまや存在を忘れられた太陽神?
え?
それに神籬様が本物の世界樹?
え?
そういや学校の帝国史で神話を習ったな。
あのコロコロ書いてあることが変わる帝国史。
出太陽系だっけ?
たしか俺の時代は環境汚染で住めなくなったって教わったな。
お嬢の頃は戦争。
ニーナお嬢さんの頃は資源枯渇。
現在は理由は不明ってなってるはずだ。
時勢でコロコロ表記が変わるから嫌われてるんだよ!
ヴェロニカ様の代になってからようやく学術的に正確な記述になった。
それだってレオ陛下のノーガード戦法の影響が大きい。
だから皇帝陛下夫妻は人気があるわけでな。
……よく考えるとあの宇宙怪獣……近年の銀河帝国での重要な決断すべてに関わってやがる。
あれか……前皇帝の暗殺にも関与してるって噂だぞ。
怖くて聞けねえけど。
やりかねないんだよな……あいつ。
基本は話し合うんだが、切るときはスパッと切るタイプだ。
判断力が野生動物なんだよ!
あいつが排除せねばと判断し、そのチャンスがあったらやらないはずがない。
実行犯のサイラス殿下だってシャーアンバーと名前を変えてしれっと貴族になった。
怖ッ!
王族怖ッ!
すべてあいつの手の内とすると……内政も謀略も怪獣じゃねえか!
確実に歴史の残る偉人だな……。
レオ・カミシロと縁を持ったのが運の尽き、いや大恩……大きな借りのある御仁だ。
お嬢を救い、俺の人生も取り戻してくれた。
クソ、化け物に借りを作っちまった。逃げられねえ。
だがこのままじゃ俺たちは役立たずだ。
次に神が来ても対抗できる手段がない。
部屋を爆破して時間を稼ぐ程度しか思いつかない。
これが俺たちが落ち込んでる理由である。
「しかたないか……」
俺はあるところに連絡した。
クロノス大相撲協会だ。
いや俺もおかしいと思ってる。
わかってる。
わかってるのだが……。
現在判明してる対抗手段はレオ陛下の刀と聖女タチアナの聖歌、そして相撲。
……応援団はなぜ効果があったのか誰にもわからないので考えないものとする。
応援団に入れ?
そこまでスポーツへの熱意はない。
相撲の方がマシだ。
タンク親方に連絡して道場に行く。
俺も参加する。
道場にはアーマードリキシたちがいた。
彼らもプライドをひどく傷つけられたようだ。
いつもふざけてるレプシトール人だが目つきが違った。
タンク親方がやって来る。
なぜか縄でぐるぐる巻きにされたレオ陛下を持って。
「うおおおおおおおおおおおおおッ! はなせ! はなせええええええええええッ!」
「うるせえな! 皇帝陛下の命令なんだよ!」
すでに絵面が異常だ。
「はい、皆さんには怪獣カワゴンと対戦してもらいます」
「は?」
「怪獣カワゴンは国家機密級の事実を食堂で大声で話しました。そのお仕置きです」
「だってぇ~! 口から出ちゃったんだもん!」
「言い訳してもダメ! はい陛下、稽古しなさい!」
「ふえええええええええん!」
俺は手を上げる。
「タンク親方……猛獣と戦えと?」
素手でグリズリーと戦えって言ってるのと変わらんぞ。
そこの類人猿、人類最強だからな。
「相撲ですから。皆さんなら大丈夫でしょう……たぶん……」
「自信がない……だと……」
「『膀胱炎と胃潰瘍は治した。運動不足を解消せよ』との皇帝陛下のご下命です」
レプシトール忍法だろうか。
当の本人はいつのまにか縄を抜けてまわしを着けてる。
少しイラッとした。
「おしゃー来いやー!」
宇宙怪獣カワゴンがヤケになって叫ぶ。
あいつは小型だが戦車と考えた方がいい。
「てめえらぶち殺せ! わかったな!」
俺は仲間たちに活を入れた。




