第七百八十話
俺が現実から目を背けてると状況報告が来る。
「こいちらイソノ隊。ジャミング効果あったぞ! それと……誰だ! レオみたいなやつと俺をモデルにしたやつの同人誌描いたやつ! しかも調べたら人気出すぎてASMR付きボイスストーリー出したとかてめえマジでぶち殺すぞ! リコちてめえ!」
「わ、私じゃないよ! 私だったらレオくん題材にしないもん!」
リコちが言い訳しはじめた。
「でもお前の関係者だろが!」
「関係者だろうけどもうわからないよ! クロノスだけで何万人いると思ってんの!」
「え……なん……まん?」
俺も予想してなかった。
「うん、BL描きだけで万。声優はまだ食べられないから少ないけどそれでも多いし」
「は?」
「小説とか普通の漫画になるともうわからないよ!」
「なん……で?」
「なんでって、在宅でできていまならそこそこ稼げるもん。増えるの当たり前だよ! それに私はクロノスから依頼されて広報誌に軍モノ描いてるだけだし!」
「プロじゃねえか!」
「だから末端の事情は知らないの!」
たしかにしばらく放置してた俺も悪い。
いまだに一●さんやってた時代で認識が止まってるもの。
いやそういや最近やたら美形キャラが描かれた広告見るなーとは思ってたのよ。
「お、おう……レオ、どうにかならんか?」
「ならん。俺は表現に文句つけない主義」
「……お前ならそう言うと思ったよ! クソ!」
クリエーターを弾圧したら末代まで敵扱い。
永遠にネタとして消費される。
嫌なら徹底的な弾圧をして正史にまで傷をつける覚悟が必要だ。
当方にその覚悟はない。
数百年後もフィクションとして総受けされてる方がマシだ。
イソノが「このクソ夫婦! 憶えとけよ!」と残念な悪党みたいなセリフを吐く。
ざまぁ。
俺もダメージ入ってるけど、コンテンツを見なければ傷は広がらない。
なんて、鬱展開のなさそうなやりとりをしてると、真打ちから通信。
「こちらケビン! 病院船ベッドが足りないよ! 他の船も用意して!」
キレ散らかしたケビンから通信が来た。
そうなのである。
本当は我が陣営最強のドローンオペレーター。
戦闘員として出したい。
だけど本業の医師を優先させた。
だって、並の男より力強い、超優秀なドローンオペレーターだからマシンを使った手術が銀河最高レベルで上手い。
看護師として戦争も経験済み。
責任感も強くありながら圧倒的にタフ。
こんなの育てたくなるだろ!
というわけでいまやケビン先生は新人をまかせられる立場になったのである。
俺たちの仲でも実力一本ででのし上がった逸材だ。
俺らはなるべく逆らわないようにしてる。
「了解。状況は!」
「パーシオン軍に死者多数! なんでこんな無謀なことしたの!」
「あいつら死に所を探してたんだ! 止められねえよ!」
「シーユンは!」
「自殺特攻作戦する寸前でワンオーワンが止めた!」
「レオはシーユンちゃんの精神サポートお願いね!」
「やってたつもりなんだけど!」
「シーユンは顔に出さないでため込むのわかってたでしょが!」
「野球でストレス発散してると思ってたのよ~!」
「あー、もう! これだから男は!」
「お前だって元男じゃん……わかってよぉ……」
「あ?」
なんでそこでキレるのー!
イソノはニヤニヤしてる。
「なんだイソノこの野郎!」
「いやよー、よその夫婦喧嘩楽しいなあって」
「夫婦じゃない!」
ケビンがキレた。
「レオのバカ! とにかく船と機械手配して!」
なんでぇ……。
とりあえず病院船の手配はする。
他の国にも呼びかける。
なんかパーシオンくんの被害がわかるにつれて声が枯れてくる。
おかしいな。
人型戦闘機の中って温度湿度一定でヘルメットは空気清浄フィルターついてるのに……。
ヘルメットのシールド上げて、まずいキャンディーをもう一個口に入れる。
……ふむ。
……今なら誰も監視してないな。
個人用のストレージから市販のアメを出す。
家系的に糖尿病の傾向があるから持ち込み禁止にされてるんだけど……バレなきゃいいんだよ!
バレなきゃ!
どれにしようかなあ。
コーラ味に黒糖にフルーツに……。
イチゴキャラメル味のにしよう。
咳止めの大根飴とプロポリスキャンディーはスルー。
……君らまずいのよ。
本格的に風邪引いたら効果ないし。
その点イチゴキャラメル味は幸せになる味。
なめてた不味い方の飴は歯で砕いて飲み込む。
お前は許さない。
口の中にガソリン臭が広がる。
不味くするためだけにわざとガソリン臭つけたやつ。憶えてろ。
俺は貴様を許さない。
「イチゴキャラメル飴うまーッ!」
元気になった。
シーユンのところに向かう。
太極国はパーシオンの失敗とワンオーワンの説得で思いとどまり、被害は軽微。
シーユンに回線をつなぐとワンオーワンがシーユンにひっついてた。
「ワンオーワン……なにやってるの?」
「自分がシーユンを守るであります!」
うん、まあいいや。
「そのままシーユンを守ってね!」
「はいであります!」
「待ってくださいレオ様!」
「シーユンも冷静になりなさい。敵討ちはまだいくらでもチャンスあるから」
「で、ですが!」
「今やってるのは陣取りゲームなのよ。陣を取っていって……それに耐えられなくなったら総攻撃してくるはず。そのときは頼むぜ!」
「……わかりました」
「お兄ちゃんもちゃんと止めて!」
後ろにいた禁軍のシーユン兄ちゃんにも釘刺しとく。
そりゃさー家臣なんだけど、一緒に育ったお兄ちゃんなんだから!
妹が無茶しようとしたら止めてよ!
「頭に血が上り……申し訳なく……」
さーて、俺はこの辺で待機。
大王とカトリ先生たちが弱った屍食鬼を引っかき回してる。
数を減らしてるわけじゃない。
引っかき回してる。
数が多けりゃ有利なのは戦略の原則。
だけど今回の俺たちや、かつてのトマス遠征の公爵会みたいに足手まといを量産するのも兵法である。
俺は戦術面ではカスの極みだが、泥沼は俺のフィールドだ。
相手を倒さずに戦力だけ落として行く。
さあ、大量の足手まといを立て直すことができるかなあ。
俺たちは立て直した。
次はお前らの番だ。
ほらやってみろよ!
陣取りゲームは続く、だが攻守は入れ替えだ。




