第六百八十話
レースがはじまった。
エディはエンジョイ勢。
俺も笑顔で手を振るだけの役。
だけどさー、俺がコケたってはそういうことだったのね。
西条くんが俺たちに言う。
「パーシオン軍輸送機が航路を外れ接近。警告を無視」
「撃墜せよ」
嫁ちゃんが冷徹に切り捨てた。
まー、しゃーない。
観客の安全第一。
「撃墜されると思わなかった」なんて言わせない。
「撃墜。ドローンをばら撒きました!」
「ケビン! 待機しておるか!?」
「今日はドローン役だね!」
「すまんな。医師としても期待しておるぞ」
「了解」
ケビンのドローンがいるなら俺の出番ないや。
『カミシロのエディ選手がトップに躍り出ました!』
あん?
こっちはこっちで大活躍。
「エディ大丈夫なん?」
「大丈夫じゃろ。そもそも乗用車の運転技能が一番高いのはエディじゃ」
「イソノの野郎じゃないの!?」
「あれはコレクターじゃ。大型特殊車両なら婿殿が一番なのじゃ」
へへん!
大型車両ならまかせておけ!
それにしてもずいぶん攻めてるな……。
大丈夫か?
『鬼神国軍チーム車クラッシュ!』
上位争いしてるチームから操作ミスによる石垣に突っ込むクラッシュが出た。
そのまま石垣を乗りこえ空を飛び一回転して地面に叩きつけられた。
ぎゃあああああああああああああッ!
死人出したくない!
「あわてるな婿殿! 鬼神国人じゃ!」
クラッシュした車のドアを蹴破ってドライビングスーツ姿の鬼神国人が出てくる。
レプシトール人くらいでかい。
しかもムキムキ。
あんれー?
なんか見たことある人だなぁ?
「前大王おおおおおおおおおおおおおおッ!」
もーやだー!
サリアパパじゃねえか!
「おおう、名前を偽って参加してたか!」
「なんでチェック漏れしてるのおおおおおお!?」
「おおかた運営に内通者がいるのじゃろな。警備は海賊と鬼神国人が多いしの」
アマダ警備いいいいいいいいい!
ガバガバすぎる!
「ふむ、楽しかったぞ! がーはっはっはっはっは!」
サリアパパが手を振る。
殴りたい……この満足げな顔。
『なんと中身は鬼神国前陛下ぁーッ! 楽しそうに手を振っておられます!』
もう言葉もねえよ。
サリアパパ……やめてぇ……。
「あー、レオくん。サリアくんから連絡」
「サリア、あれどういうこと!?」
「その……本当に申し訳なく……」
「ああ、うん怒ってないから……」
サリアきゅん……。ズッ友だよ……。
なんて言ってたら後続もクラッシュ。
でも初心者コース、さすがに前大王みたいな派手なのはない。
剛性の低い部品が壊れて走行不能ってくらいだ。
「やはり少し難しかったかの?」
「でもこのくらいじゃないと銀河帝国と勝負が成立しなくなるし」
「だよなー」
とにかくレース用自動車の開発が間に合ってない。
こちらもある程度の資料、レースカー業界じゃ常識くらいまでの情報は出したけどね……。
まー、難しいよね。
そもそもお遊びの域を出てない。今のところね。
そもそもだ。
参加企業や団体ども、乗員の安全度外視をやらかそうとしたのでそこはルールで縛った。
そこはすでに我々が通過した場所なのだよ。
エディはぶっちぎりとしてレプシトールがやや優勢。
レプシトールのドライバーはラターニア人系で身長も俺たちとあまり変わらない。
二番手はバトルドームの民間自動車メーカー。
鬼神国関係ない方。
こっちもドライバーはラターニア人。
もしかしてラターニア人ってモータースポーツ得意かも。
そうか、人型戦闘より航空機や車両が発展してるのか。
これ次回大会から無双し始める予感。
「嫁ちゃん……聞いて。ぼくドリフトしないレースでよかったと本当に思う」
「じゃよなー。あっちだったら確実に死人出てたわ……」
本気でやめてよかった。
コース選定いい感じで本当によかった!
「ドローンすべて撃墜!」
「ケビンよくやった!」
「ヴェロニカちゃん。レオを狙うにしては生ぬるくない?」
ケビンの疑問はもっともだった。
俺を本気で殺すには戦力が少なすぎる。
「命を懸けるほども価値もないだろう。輸送機パイロットは?」
「脱出したところを捕縛したよ」
「じゃろうな。おそらくのー、これのー、察してちゃんじゃ」
「なにそれー!?」
「不満や文句の一つもあるのじゃろうが。言わぬのじゃ。まさに家畜化された民よの」
「勘弁してよ~」
わかんないから言って欲しい。
「なんで言わないのよ!?」
「責任問題になるからじゃろ。輸送機のパイロットどもは上司に命令されたと言い張り、その上司も軍からの命令、そして捜査していくと命令を出したものが失踪したり……殺されてたりじゃ」
「嫌すぎる……」
「そこをどうにかせんとなー。な、クレア。聞いてたな」
クレアと通信回線開いてたようだ。
「うん。了解。責任っていうものを叩き込むわ」
クレア様、満面の笑顔である。
怖!
ちなみにこのレースの映像はドローンで撮影しまくって配信してる。
とんでもない視聴者数で、参加企業の車が飛ぶように売れてる。
本当に「飛ぶように」売れてる。
サーバー落ちるのは当たり前。
直通通信回線にお問い合わせAIまでダウンした。
各メーカーは今後の製造計画を考えて膝がガクガク震えてることだろう。
なぜ知ってるかって?
俺のところにも「たしゅけてー!」ってカミシログループからメッセージが来てるからさ……。
「おっとエディがゴールしたぞ!」
エディが一番。
でもそれはわかってた。
もう視聴者の興味はラターニア人どうしの激しいデッドヒートである。
車両の性能はだいたい同じ。
とてもいい勝負である。
「あれは……欲しくなるな……」
「どこの会社もデザインいいもんね……」
あ、また、「助けてー! 会社のサーバー帯域はゼロよ!」ってのが来た。
がんばって耐えてほしい。
「うーん……バイクレースの異常な盛り上がりから多少こうなるかもとは思ってたが……予想以上じゃ」
こうしてパーシオンくんの察してアクションは忘れられ、命令は下書きのまま放置プレーされるのだった。
だってしかたないじゃん!
忙しかったんだもん!
だから直接言えと!
そしてイソノのラリーの番なのである。
不安しかない。
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