ドラゴンスレイヤー!?
この作品は『ノベルアップ+』にも掲載しています。
ナルミの後に連れ立って宿泊所の一室に向かう四人。
普段はなかなかお目見え出来ない騎士に会える事にワクワクしている者が一名。
折角の遊びの時間を削られて不機嫌な者が一名。
何が何だかわからない者が一名。
その者にぴったりと寄り添う者が一名。
「くれぐれも!失礼のないようにね。アルシーア!」
「名指しであたしっすか!?」
「オマエが一番やらかしそうだ」
「んーなコト無いっすよもー。信用ないなあ」
ぶつぶつと文句を言うアルシーアを無視してナルミがドアをノックする。
「どうぞ」
と、よく通る低い声。
ドアを開け四人を並ばせて揃って一礼。
騎士は備え付けの椅子に座らずに待っていたようだ。
短く刈られた金髪がよく似合う青年。
目付きは鋭いが、深い藍色の瞳からは不思議と威圧感を感じない。
鍛え上げられた体躯、太い二の腕と太ももは日々の鍛練の激しさを如実に現している。
胸にアールズを象徴する白い薔薇の紋章が装飾された軽甲冑を纏い、腰には長剣を装備。
手に持っている黒い筒にマティルの言っていた令状が入っているのだろう。
背筋を伸ばし直立不動の姿勢は、いかにも『騎士然』としている。
ナルミはもう少し年配の人物が来訪しているかと予想し、多少なりとも緊張していたのだが少々肩すかしをくらった感じだ。
だが若者とは言え相手は騎士である。
無礼な態度はご法度。大人の対応で騎士に向き合う。
「お待たせいたしました、騎士殿。私は劇団『焔』の座長を務めております、ナルミ=リフロスと申します。こちらが御呼び立てを申し受けました、アルシーア、ルーフェリカ、ルーフェルメ、シルスの四名です」
礼節をわきまえ、慎みを込めた丁寧なナルミの挨拶に騎士が返答する。
「アールズ騎士団所属副隊長補佐のディロンである!!」
――声でかっ!
皆、思うだけで口には出さない。
が、アルシーアだけは違った。
「である、ってなんだよ。いかにもアタマ固そうな喋り方だなっ。もうちょっと静かに喋れないのか?」
アルシーアは全く臆する事無く騎士ディロンの目を見据え、敬意を払うどころか半ばケンカ腰である。
「男前だわー♡カッコいい!」
「そうねー男前だねースゴーイ」
ルーフェリカは前のめりになりそうな勢いでディロンに興味津々のようだが、ルーフェルメはそうでもない。
むしろ冷めている。
「男前でも出前でもなんでもいーや。で?下っ端よりちょい上のアンタがなんの用?」
「こらアルシーアっ!失礼だよっ!」
「クチわるいよ、シア。ぷっ」
「下っ端さんよりちょい上なのぉ?」
「副隊長ならまだエライかもしんないけど副隊長『補佐』なんだろ?そーゆーのって、誰でもいーんじゃないのか?わかんないけど」
初対面の相手に対して失礼極まりないアルシーアの態度。
若さ故の暴走以前に人としてダメだ、とナルミはつくづく思う。
――まったく、このバカはどこまで怖いもの知らずなんだか……
「……雑だな、キミは。舞踏歌劇団『焔』所属『熾炫』の三名、アルシーア、ルーフェリカ、ルーフェルメで間違いないな?」
「だったらなんだよ、おっさん」
――シアさん……クチ悪いなあ……ファルナルークさんと大違いだよ……ホントにファルナルークさんのおばあちゃんなのかなー?
シルスは静かに大人しく『ワタシハカンケイナイデスヨ』と、目線を下に落としてじっとしていた。
「時間が惜しい故、率直に言わせていただく」
ディロンはそう言うと、手にした筒から書状を出した。
両腕を前に突きだし床と平行に。足は肩幅に開き、書面は目の高さに合わせ書状を読み上げる。
「アールズ騎士団所属、副隊長補佐ディロンがアールズ国王陛下からの令を申し上げる!!」
「またかよ声でかっ!」
アルシーアの言葉を無視するようにディロンが続けた。
「一同に竜退治を命じる!これは王直々の命令である!一切の質問は受け付けないものとする!以上!!」
命令状を掲げながら大きな声でディロンが告げると真っ先に反論したのはアルシーアだった。
「は?ナニ言ってんのアンタ。竜退治!?出来る訳ないじゃん!」
「先日の公演、見事であった、との王のお言葉である。その際、オマエ達は何も無い空間からハーフエルフを呼び出したではないか。あれは失われし『幻の召喚魔法』ではなかったのか?」
「見れば分かるだろ?アタシら、ただの踊り娘だよ。アンタの目にはアタシらが魔法使いとかドラゴンスレイヤーとかに見えるのか?」
アルシーアがもっともな事を言うが、ディロンにそれは通用しない。
「君達が踊り娘なのは判っている。大事なのは召喚魔法を発導させたという事実だ。私もこの目で見させてもらったが、舞台の仕掛けや小細工では無かったように思える」
「王様、あの公演観に来てたんだねー。お忍びだったのかねー」
「お忍びって響きはステキよねえ」
他人事のようにのんびりと言う双子に少しイラッとするアルシーア。
「食いつくのはそこじゃねえっ。とにかく、竜退治なんてムリ!おとといきやがれってんだ!」
「では、仕方がない。無理矢理にでも来てもらおう。悪く思うな。命令だからな」
「は?行かねーし」
「言っただろう。無理矢理にでも連れて行くと」
ディロンが書状を懐に納めアルシーアの元に近づいていく。
「へっ、やれるもんならやってみなよ。あたしは流転空三段だっ」
「武術の有段者か。それは凄いと思うが……とんだじゃじゃ馬だな、キミは」
「アルシーアだ!覚えとけ!」
「では、アルシーア。行こうか」
ディロンの動きは至極自然だった。
床に落ちた物を拾う程度のありふれた動作だった。
「行かねーって……アレ!?」
「キミ達はおとなしくついてきてくれるだろう?」
「しかたないかなあ」
「担がれたくないもんねー」
アルシーアは『流転空』で対抗する間もなく、いつの間にかディロンの右肩に担がれていた。
アルシーアの上半身はディロンの背中側に。
必然的にアルシーアのお尻がディロンの顔の真横にくる。
足をばたつかせようにも、太い腕でがっちりと膝の裏から少し下をホールドされ動かす事も出来ない。
「なにすんだっ!降ろせっ!スケベっ!ケツ触るなヘンタイ!淫行罪で捕まれ!ハゲろっ!」
「やかましい小娘だが、元気なことは良い事だ。でかい尻は子沢山に恵まれるというからな。喜べ」
ペチ!と左手でアルシーアの尻をはたくディロン。完全に子供扱いである。
「ケツでかいって言われて喜ぶバカがいるかっ!気にしてるコト言うなっ!触るなっ!降ーろーせー!」
両手でディロンの背中をバシバシと叩くがびくともしない。軽甲冑を着用しているから尚更である。
「子沢山……だっけ?安産型、じゃなかったっけ?シアシア、お尻おっきいの気にしてたんだぁ♪」
「なんで嬉しそうなんだよルメっ!」
シルスは、騎士に担がれるアルシーアを助けようにも立ち向かえる筈もなく。
ディロンに担がれるアルシーアのお尻を見てふと思う。
――シアさん、意外におしりおっきいんだ……そういえばファルナルークさんもおっきかったかも……ちょっとだけ。
ん?
んん?
と言うことはっ……遺伝!?もしかして巨尻の家系っ?でも、かーさんはそんなにおっきくない……あ!隔世遺伝!?
え、じゃあ……わたしの番ってことになるのではっ!?
えっ!?今はちっこいけど、成長したらっ……
「巨尻っ!?巨尻はイヤですよぉっ!オシャレなパンツがのびのびになっちゃうじゃないですかぁっ!」
「誰が巨尻だっ!シルスっ!オマエは後で絶対シメるからなっ!絶対の絶対にだっ!」
「巨尻っ!巨大なお尻っ!いいねシルスちゃん!初めて聞いたよー!あっははー!」
「食いつくのはそこじゃねえっ!見てないで助けろっ!リカ!ルメ!」
「えー?人にモノを頼む時は、ねえ、ルメ?」
「それなりの態度がぁ、ねえ、リカ?」
「こんな時だけ息合わせやがってっ。わーかったよ!助けて下さいお願いしまあすっ!」
「「よくできましたあ」」
練習でもしていたかのように、見事に声を揃えてパチパチと拍手するルーフェリカとルーフェルメ。
「でも、やっぱり無理かなー」
「副隊長補佐だもんねえ」
「補佐だもんねえ」
「補佐だしねえ」
「補佐、って。ぷっ」
「地味に傷つくから止めてくれ、君達。どのみち、君達にも同行してもらう。勿論、君もだよ、シルス」
「なんだよっ助け無しかよっ!アタシのお願いしますを返せっ」
ディロンがアルシーアを担いだままドアに向かうと……
「ちょっと騎士様!いくら何でも強引すぎやしませんか!?」
ナルミは堪らず、アルシーアを担いで連れ去ろうとするディロンの前に立ち塞がった。
「これは。失礼をいたしました。ナルミ殿」
ディロンは床に片膝を付き、空いた左手でナルミの右手を取った。
女性に対する騎士の礼儀作法の一つに過ぎないのだが。
「……はいっ?」
生気溢れる、血気盛んな若い男性の深く低い良い声と予期せぬ行動に一瞬たじろぐ。
「ナルミさんっ!言ってやって下さいよっ!カワイイ四人に手を出すなハゲろ!って!」
「大変、お見苦しい場面をお見せしてしまいました。後日、改めてお伺いしたく思う所存でありますが……よろしいでしょうか?」
――うわー、めっちゃイケボ……
ディロンの声にはきっと魔力が込められている、とシルスは思う。
ナルミの表情がどことなく、いや確実にとろけているからだ。
つい先程膝を付き合わせて『無言のお説教』をしていた者と同一人物とは思えないほどに。
「ルメルメっ!後日改めて、ってデートのお誘いだよねっ!」
「きっと玉の輿よねぇ、リカリカっ!」
ひそひそと、しかしディロンにしっかり聞こえるように双子が言う。
「公演も終わった事ですし時間はいつでも取れますっ。大丈夫ですっ」
「貴女のような美しい方とお会い出来て光栄に思います」
男前騎士ディロンの顔の真横にあるアルシーアの尻が邪魔だと思いつつ、ナルミの胸がとくん、と高鳴った。
――この感じ、久々かも……っ
「それでは、失礼いたします。ナルミ殿」
すいっと立ち上がり再びドアに向かう。
「はいっ。お気をつけてっ」
「ナルミさん……顔がフニャフニャっす。あたしらにさえ見せてくれない顔っすよ、それ」
ディロンがドアに向かうとナルミとアルシーアの目線が等しくなり、担がれたままのアルシーアが不満そうにぼやいた。
「アルシーア、失礼のないようにね」
いつになく優しい声でディロンとアルシーアを送り出し、パタン、とドアが閉じられた。
「行っちゃったね」
「連れて行かれちゃったねぇ」
「わたしは無罪放免ってコトでいいのかなっ?」
と、ドアの向こうからわあわあとアルシーアの騒ぎ立てる声が聞こえてきた。
ルーフェリカ、ルーフェルメ、シルスの名を呼びながら。
「行かなきゃダメかー」
「シアシアうるさいなぁ。ねえシルスちゃん」
「さすがにちょっとかわいそうかも……ちょっとだけ」
「まあ、あんた達も気をつけてね。気まぐれな王様だから竜退治なんて本気で言ってるとは思えないし」
突然、劇団員が三人連行される事態になったと言うのに、ナルミは落ち着いているように見えた。
それには理由があったのだと、シルスは後で知る事になる。
「じゃあ、行ってきますね、ナルミさん!」
と、ルーフェリカ。
「行ってきますぅ!」
と、ルーフェルメ。
「あっ、行ってきます!」
と、シルス。
三人がパタパタと部屋を出ると廊下の少し先にアルシーアを担いだディロンの姿があった。
「なんっでついて来ないんだよさみしーだろっ!一人にすんなっ!」
「やっぱりぃ。そーゆートコはカワイイねぇ」
「普段はツンケンだからねー」
「うっさいわっ!カワイーってゆーな!」
五人が表に出ると二頭立ての馬車が待っていた。御者は一人。ディロンと同じくアールズ騎士団の紋章入りの軽甲冑を身に着けている。
「待たせた、ラズラット」
もう一人の騎士、ラズラットと呼ばれた青年が四人に一礼をした。一人はディロンの肩の上だったが。
ディロンと同じく短く刈られた銀髪。
瞳の色は鳶色。浅く日焼けした肌。
がっしりした体躯と身長はディロンを上回っている。
結局、馬車に乗せられるまでアルシーアはディロンの肩に担がれたままであった。
ディロンが肩からアルシーアを下ろすと、ラズラットが畏まったように馬車のドアを開けた。
「こちらへどうぞ、お嬢様方」
「うひょー!お嬢様だって!初めて言われたよー!この人も男前だねー!」
ルーフェリカが嬉しそうに跳び跳ねる勢いで馬車に乗り込んだ。
「馬車なんてお姫様みたいだねぇ」
「立派な馬車ですねー」
ルーフェルメ、シルスが後に続く。
「足元にご注意下さい。お嬢様」
「このくらい紳士的じゃないとなー、デロンデロンさんよー」
一番最後に乗り込む際にアルシーアが振り返り、ディロンに挑発的な言葉を投げかけた。
「ディロンだ。人の名を伸びきったタイツみたいに言うものではないぞアルシーア」
「ふん!」
バタン!と不機嫌を隠そうともせずに大きな音を立ててドアを閉める。
「……年頃の娘を無理矢理担ぐものではないですよ、ディロン様」
「やむを得ずだよ。跳ね馬じゃじゃ馬はああでもしないと」
「あたしはウマじゃねえっ!早く出発しろっ!あたしらは用事あるんだっ!さっさと済ませて遊びに行くんだっ!」
ドアの小窓から顔を出し文句を言うアルシーア。
用事が遊びとばらしてしまっては、なんとも締まりがない。
「……元気なお嬢様ですね」
「これ以上機嫌を損ねるのはよろしくなさそうだな。行こうか」
いきなりのムチャ振り『竜退治』!
踊り子三人特技無しのハーフエルフが一人のポンコツパーティーでどうしろと!?
次話『アールズの王様』
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