シルス救出大作戦!
「二人とも疲れたろ?ハラ減ってないか?これ、食べてみ。元気でるから。もうひと頑張りしないとだしな!」
ファイスが取り出したのは、クルミより少し大きい黒い団子状の携帯食。
「へー、ファイスにしては気が効くじゃん。香ばしい匂いだね」
「あ、おいしい……」
「外はサクサク、中はモチモチでおいひーね、これ。名前は?」
モグモグと食べながら聞くシュレス。ファルナルークもおいしそうに三個目を食べている。
「クマコーガン。親父直伝の一品!即効性あるんだぜっ」
「ふうん。材料は?なにでできてるの?」
「名前の通りだよ。熊のタマキン」
「「ぶはっ!!」」
シュレスとファルナルーク、二人が同時に吹き出した。
「なんってモノ食べさせるのよっ!!」
「なんだよ、ファル、おいしいって言ったじゃん。香草と練って焼いてあるから臭みとかないだろ?しかも赤角のタマキンだよ?赤角熊のタマキンだよ?」
「タマキンタマキン連呼しないでっ!最初に聞いてたら食べなかったわよっ!タマキン飲み込んじゃったよ!」
「おいしかったけど、最初に言ってよー。びっくりするから!ファルの口からタマキンなんて言葉飛び出すくらいにさっ♪」
「まあいーじゃん!元気出たろ!?」
「やっ、よくないっ忘れてっ!私はなにも言ってないっ!言ってないからっ」
「はいはい、ファルはカワイーねえ♪」
「ううう~」
シュレスは軽く受け流したが、ファルナルークは一人で赤面中。
「……それって、保存食なの?この旅の間ずっと持ってたんだよね?」
と、ファルナルーク。
「長期保存食だよ。1年は余裕で大丈夫。赤角の肉だからちょっとだけ魔力アップするんだけど……ファルのスキルもう見れないのはちょい残念だなー。なんだっけ、必殺追跡魔王光弾弐式だっけ?」
「えっ?」
「必殺追跡魔王光弾弐式」
「えっ?」
「必殺追跡魔王光弾弐式」
「……えっ?」
「ファル……自分のスキルネームはカッコいいって言ってたじゃん」
「シラナイ、スキル、ワタシ、シラナイ」
「……なんでカタコトなんだよ」
エルフの呪いが解けた事により喋り方が普段通りに戻ったのは良かったが、自分で名付けた『イタイ』スキルネームは無かったことにしたいと願うファルナルークなのであった。
「さて、行こうか!シルスちゃんが待ってるよ!」
「おう!」
ファイスは久し振りにワクワクしていた。
「さらわれたお姫様救出!みたいな感じでさ。『血沸き肉踊り食い』ってな!」
「『血沸き肉踊る』でしょ」
「そう、それ!」
不機嫌にツン、と答えるファルナルークの視線が冷たいがファイスは気にしない。
「シルスのタイムリミットは明日の夜明けだったよな……絶対に間に合わせる!シルス救出大作戦!いくぞっ!おー!」
ファイスの元気な掛け声に二人は無反応。
「おいっ!二人ともっ!?」
◇
すっかり日は落ちて空には星が瞬いている。月はまだ出ていないが、東の空は月の出の明かりで白み始める。
花火大会が始まった。
アールズの花火大会は『音有の部』と『音無の部』の二部構成となっており、先ほどからドン、ドンと大小様々な音が一定の間隔で聞こえてくる。
『音有の部』は、火薬を使って造られた音のする昔ながらの花火が打ち上げられ、『音無の部』は、魔法で造られた無音無害の花火が打ち上げられる。
アールズの街の一大イベントとして数年前から始まった夏の催し物の一つであり、その見事な魔法花火は口コミで広まり年々、観光客を増やしつつあった。
メレディスの魔力補給は見事に成功し、シュレスの探索スキルによって、シルスの居場所の検討はついた。
単純明快、テュアルが所属するライトブレード隊員の寄宿舎である。
予備隊員を含め30名程度のライトブレード隊がいかに優遇されているのかが伺い知れる、寄宿舎という割には大きな6階建ての建物。
4階と5階は隊員、2階と3階はそのパートナー達の居住スペースとなっている。その他に訓練施設、リラクゼーション施設、屋内プール施設が隣接し、敷地内だけでも相当な広さを誇る。
周囲は高い塀で囲われ、手入れの行き届いた庭園には大きな木や植え込みが見映えよく配置されいる。
この何処かにシルスはいる筈だ。
「なーるほどなー、『木を隠すなら森の奥』って言うからなっ」
「『森の中』でしょ」
また、ツンと答えるファルナルーク。
「そう、それ!ん?似たようなもんじゃん?」
「森の奥に隠した方が見つけにくいかもねー」
とシュレス。
それもそうかも。とは思ってはみるものの口にはしないファルナルークであった。
「シルスが騒ぎもせずに大人しく捕まってるとは思えないけどなー……意外と静かにしてるかな?」
「普通、見張りくらいいるだろうねー」
「黒姫サンの共犯者って事だよな……人数多いと厄介だな……それにしても、人気がない……花火大会で手薄になってるのかな?」
「ライトブレード隊って女ばっかりでしょ?花火大会盛り上げるために賑やかしに行ってるのかも。祭りに華って必要だからねー」
「それだったら、オレ達には好都合なんだけどな。どっかんどっかん大暴れー!って訳にいかないのが残念だなっ」
「へえ。一応、わかってるんだねー」とシュレス。
「でも、ライトブレード隊員の女子達にキャーキャー追っかけられるのも悪くないかもなっ」
「バカなコト言ってないで考えなさいっ!」
ファルナルークは珍しくイラッとした口調でファイスを叱りつけた。
「へーい。怒られちゃった……」
◇
シルスは寄宿舎にいる事は突き止めたが、寄宿舎の何処にいるかまでは離れた場所からは分からない。
もう一度『探索』スキルを使い、ピンポイントでシルスを探すシュレス。
「あ、これ……ギリギリかも……う~ん……シルスちゃん、シルスちゃ~んん……出ておいでぇ~……んんん……いた!5階の一番奥の部屋!」
「へー、そこまで分かっちゃうんだなー」
「ふふーん、スゲーでしょ!でも、もう一回は無理かもしんないなー」
「一秒でも惜しいから早く移動しよう!」
そう率先するのはファルナルークだ。
ファルナルークが先頭になり積極的に行動する。ファイスとシュレスは思わず顔を見合わせて、くすっと笑う。
「なんか嬉しそうじゃん?シュレス」
「ファイスこそっ♪」
建物を取り囲む塀に沿って進む。数名の一般人とすれ違ったがお祭りムードの中、三人に怪しい目を向ける者は誰もいなかった。
「あっ、いた!」
6階建ての建物、その5階に遠目にではあるがシルスの姿を確認出来た。
窓際に立ち花火に見入っているようだが、その表情はちっとも楽しそうではない。
縄で縛られたり、鎖に繋がれたりといった緊縛はされていないようだ。
それだけでも、三人はほっと胸を撫で下ろした。
「向こうからはアタシ達が見えないのかなー……今は一人っぽいね。見張りは……いないみたいだね」
「高いなー。落ちたらただじゃ済まないなこりゃ。黒姫サンの寝室ってコトかー……なんとか忍び込めないかな?」
「ファイスが言うとえっちな目的にしか聞こえないねー。なんで?」
「私に聞かないでっ。今はそれどころじゃないでしょっ」
真面目な顔でシュレスを叱るファルナルーク。
「はーい。怒られちゃった……」
正面口には門番がいると思われる。裏口から侵入しても出るまでに時間がかかる。
最短時間で誰にも見つからずにシルスを救出する方法は……
「忍び込めないとなると、シルスに飛び降りてもらうしかないかな……オレ達がいる事、なんとかシルスに知らせないと。窓に石ころぶつけるか……あんな高いとこまで届かないなー……」
「飛び降りって……簡単に言うけど、いくらなんでもこの高さじゃ三人でも受け止めらんないよ?」
シュレスが至極当然な事を言う。それは誰の目にも明らかで、いくらシルスが軽いからといっても5階からの高さに落下速度が加わると三人では到底受け止めきれない。
「オレのスキル『空動』は、空気を動かすのな。竜巻ほどじゃないけど、けっこう強力な風を巻き起こせる。それでシルスをふわっと受け止める作戦!」
「へー、スカートめくりしか出来ないそよ風スキルなのかと思ってたわー。あ、川魚捕ったコトあったねー」
「あのな。どんだけショボいんだ、オレのスキル。出力加減くらいできるっつーの。大暴れしていいんなら建物吹っ飛ばせるぞっ!」
「建物吹っ飛ばせる時点で竜巻クラスじゃん。スキルで小石飛ばすとか、逆にファイスが風に乗って飛ぶとかって出来ないの?」
「小石じゃ軽すぎてコントロールできないし、大暴れ無しの制限付きの状況じゃあ、オレだと重すぎる。シュレスでも重いくらいだから、ファルだと……」
チラリ、とファルナルークを見るファイス。
「……なにか言いたそうだけど?」
「なんでもないっす」
ファルナルークの威圧のこもった声に殺気を感じ、ファイスはそれ以上は言わなかった。
「ファルは見た目ほど重くないよっ?自信持っていいんだよ!?」
「見た目が重そうなんて、オレは一言も言ってないからなっ」
「二人とも、フォローする気なんてカケラもなしだよねっ……いらないけどっ」
「シルスちゃん、あんな高いトコから飛び降りる勇気あるかなー。でも、ファイスのスキルに期待するよ。カッコいいとこ見せてよね!ファイス!」
「おう!いいとこ見せないとな!惚れるなよ!」
「「それは無い」」
本日二度目。シュレスとファルナルーク、二人の声が見事にハモった。
次話『シルス救出大作戦!2』
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