秘刀・早姫乱れ流
ナナシが辿り着いた先は灰色に染まっていた。土による道を歩くナナシは、ひとりの女性と遭遇する。
「話を訊かせてくれぬか!」
「動けている……か。何者かは知らぬが、この灰色と無関係という訳ではないようだ」
「随分と落ち着いておるようじゃが?」
「不可思議なことには慣れておる。ワタシは早姫と申す。お主の名を訊いておきたい」
「拙者はナナシじゃ。宜しくでござる。差し支えなければ、これまでの経緯を話してはくれぬか」
「構わない。ナナシ、お前の経緯も訊かせてくれ」
ナナシと早姫は、お互いに経緯を話した。
お互いに敵ではないと認識し、早姫の案内で連れていかれるナナシ。腰の刀は不思議と、この風景と溶け込んでいた。
※ ※ ※
「楽にするがいい。大丈夫だ」
「ここは?」
「ワタシの家だ。この状況で動けるのは、ワタシとお前と旦那だけだから」
「旦那……早姫殿、嫁さんでござったか!」
「ああ。この間まで戦に身を投じていたのが嘘のようだよ」
「戦? どういう意味でござる?」
「そういう事情だったのさ。そのお陰で、ワタシは旦那と添え遂げた。フフッ、なんだか不思議な気分だ。彼等と会ったときを思い出す」
「彼等?」
「夏郷と破耶と言うんだが」
「夏郷殿と破耶殿!? 拙者も知っておる!」
ナナシが話をするものの、早姫は首を傾げる。
早姫もナナシに話をするが、ナナシは首を傾げる。しかし、ナナシには心当たりがあった。
「ああ! 確かに聞いたことがある。ワタシが剣術をつけてやっていた時に言っていた筈だ」
「拙者が会った二人には、剣や武術の心得はなかった。早姫殿に剣術をつけてもらったというのは別の二人ということのようじゃ」
「折角だ。その腰の刀に偽りなしなら、ワタシと手合わせしてはくれないか?」
「早姫殿でさえ良ければ!」
「では見せてやろう。ワタシの〈秘刀・早姫乱れ流〉を」
 




