鮮やかなキャンパス
少年の刀さばきを見ていた夏郷と破耶。二人以外に動くものはなく、灰色の光景は変わらないでいた。
「よくも!」
「姿を現すのじゃ! 〝世界を壊す〟、〝生まれ変わる〟とはなんじゃ!」
「破壊なくして創造はない! 破壊をしなければ創造出来ない。その為の破壊だ。何故邪魔をする!」
「何の為の破壊じゃ? 何の為の想造じゃ? お主の真意が見えんでござるよ」
「抜かせ。邪魔な存在を破壊することに、小賢しい理由など不要!」
「お主の価値観一つで、世界の有無を決めていいわけがなかろう!」
「勝手に生まれてきて偉そうに。たかが人間の分際がほざくな! 破壊を邪魔するのなら、容易く殺しはせん。なぶり殺してやろう」
「姿を見せるのじゃ。拙者がお主を止めるでござる」
「いいだろう」
空にあった黒い穴が小さくなっていくのと比例して、地上に黒い影が現れる。少年が斬った物体よりも大きく、より禍々しい影を纏っていた。
「影に隠れるとは。腰抜けと見えるでござるよ」
「強者は姿を見せぬとも、その強さを見せれるものだ。残念だが、お前からはそれが見られぬ」
「試してみるか?」
「くだらぬ。わざわざ直々に相手をするまでもない。こやつで充分だ」
物体は新たな物体を呼び出した。これまでと違い、影を纏ってはいなかった。それでも異質さは表れていた。見るからに血の通ったものではないのは一目瞭然だったからだ。
「石、だと?」
「只の石ではない。世界を破壊する石だ。この世界と運命を共にするがいい」
「待つのじゃ! お主の名は何じゃ!」
「冥土の土産に教えてやろう。オーマ、だ」
オーマが消えると、比例して黒い穴が再び現れた。その黒い穴も小さくなっていく。ガラスに亀裂が入るかのように、街に亀裂が入っていく。
「夏郷君!?」
「大丈夫だよ。絶対に離さないから」
夏郷と破耶が手を繋いで恐怖と戦っていた。
それを見た少年は、意を決したように刀を抜いた。
「夏郷殿、破耶殿。すまぬが、拙者に命を預けてはくれぬか? この石を斬るでござるよ」
「石を斬るって……そんなの無茶だわ!?」
「僕達はもとより、君にも万が一が!」
「どのみち、このままでは駄目でござる。一か八か……この刀に委ねてみるでござる」
「……分かった。君に託すよ、命」
「ありがとうでござる」
少年は目を閉じる。手に力が入るのを自覚しつつ、肩の力を抜いて脇を締める。呼吸を整え、そのまま刀を踊らせた。
「「あっ!」」
夏郷と破耶の声に目を開く。
少年の視界に映るのは、綺麗に斬られた石の姿だった。虹色に輝く石は光を放つ。
「色が戻っていく」
「綺麗です」
灰色の風景が色を取り戻していく。止まっていた人も、時間も全て。街が、世界が元に戻ったのだ。
「ありがとう! 君のお陰で助かった!」
「感謝してもしきれないわ!」
「よかったでござるな。この世界は救われたようじゃ」
「他の世界は、まだ?」
「あやつ……オーマと名乗った者の様子からして、破壊されようとしている世界はあるでござるよ」
「行くの?」
「ああ。拙者の記憶喪失にも関係しているかもしれぬ。行くでござるよ」
「あ、あの! お礼にはならないけれど、名前をつけてあげる! ……ナナシ……どう?」
「名無しでナナシでござるか? 破耶殿は可愛いでござるな。でも嬉しいでござる。名前、戴くでござるよ」
ナナシは空に飛び上がる。ナナシを迎えるように穴が開き、吸い込まれるように飛び込んでいった。
「大丈夫かな? ナナシ君」
「破耶が名前をつけたんだから大丈夫だよ。僕達が信じてあげなくちゃ!」
夏郷が破耶を抱き寄せる。
色を取り戻したキャンパスに、夢を追う大学生の声が響くのだった。




