表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/40

ナナシの切札

 身軽な身体を用いた剣術を容赦なく披露する魔悪邪。二本の影で出来た剣は意外に重く、片腕で振れているのが不思議なぐらいだ。

 速さなら自信があったナナシだが、それを軽く上回る魔悪邪の動きに、動揺を隠せずにいた。


「っ! ……!?」


「これまでの我は全開じゃなかった! はーはっはっ!」


(想像以上の速さ! 拙者が、一方的に押されているでござる!)


「切札は最後までとっておくんだったな!」


「……まだ拙者は……使ってないでござるよ……」


「そんなハッタリ、我には通じんぞ!」


 重い剣の、重い一振り。刀で受け止めるものの、地面に足が埋まっていく。地面に足を捕られ動けないナナシを、これでもかという程、鬼の形相で追い詰めていく魔悪邪。


「ハッタリではないでござる。拙者には、とっておきの切札があるでござるよ!」


※ ※ ※


 上空に浮く、影の剣。それは激しく震えだし、空気を震わせていく。次第に風が強くなる。天変地異の前触れのように。


「あれが……災いの種か。目障りな厄介者だ。問答無用で斬り捨てる!」


 和を纏いし華。後ろに束ねた髪を揺らし、刀を抜いて発つ。その目を閉じて雑を除き、空気から伝わる邪を捉える。


「秘刀・早姫乱れ流。破邪一閃」


 横に一筋入れ、刀を鞘に納める。斬った影が消えていくのを確認すると、早姫は身形を整えた。


※ ※ ※


「頑張れセリオ! さっさとやっちゃいなさい!」


「うん。ああいうものは、無いに越したことはない」


 ミカノの指輪の力で武装を纏うセリオ。自身や任意のものを瞬時に移動させる能力によって、核を移動させようとしていた。


「ナナシだって戦ってんだ。オレ達だって戦ってやろう」


「実際に相手をするのはセリオだ。そっちが威張ってどうする」


「気分の問題だ! オレ達なのには変わらない」


「こんな時にふざけないで! セリオが集中出来ないじゃない!」


「「ご、ごめん」」


(こんな時でも変わらない。ムロもカズマもミカノも)


「セリオが笑ってるぅ~」


(アンも変わらない。だからこそ、冷静になれる)


「テレポート!」


 核は消えた。セリオによって、宇宙の彼方に飛ばされたのだ。


※ ※ ※


「行くのだ! 夏郷ならば問題ないのだ!」


「行け。君の強さを見せてやるのさ」


 破耶と七菜。二つの背中に発破を掛けるさまは指揮官のようである。二人の声程、彼等に力を与えるものはないだろう。


「いけるかい? 緋」


「いつでもどうぞ! 夏郷さん!」


 破耶の指輪の力によって刀を得た夏郷と、変身した緋が飛び上がる。二人の刀は、影の核を確実に捉えていたが、他の世界に飛んでいった物よりも頑丈であった。


「あたしも!」


 木刀を持った女子高生が叫ぶ。夏郷と緋にも劣らない太刀筋で核を捉えた。両腕に伝わる痛みなどなんのその、核を足場にして舞い上がる。身体を捻り、力を木刀に加える。

 それを見た夏郷も同じ動きをする。師から教わった術を、ありったけの力を込めて放つ。


「「気消閃!」」


「紅蓮斬!」


 三人の刀からの攻撃を喰らった核は消滅した。


※ ※ ※


 空を見上げる雁斗。呑気に煎餅をバリバリ食べている。程よい熱さのお茶を飲んで落ち着いていた。


「緑風斬!」


 黒髪で、緑色の風を起こしながら飛んでいる甲多。巨大な手裏剣を核に飛ばしている。それでも破壊には至らない。


「うーん。僕だけじゃ駄目なのかな?」


 雁斗の方を向くが、雁斗は頷くばかり。悪戦苦闘している甲多を信じているだけである。甲多の幼なじみである美加お手製のケーキを黙々と食べるのみ。


「美加のケーキ!? 僕も食べるよ!」


 甲多に湧き上がる力。巨大な手裏剣を渾身の力で投げて破壊すると、ケーキを食べに降りていった。


※ ※ ※


 手も足も出ないということは一大事である。見上げることしか出来ないというのは歯痒いものである。


「どうすんのよアレ! 絶対にヤバい系よ!」


「落ち着いて、落ち着く!」


「そんなこと言われても! あーあ、こんなことなら、ラームドの練習をしとくんだった。自然に使えるようになるだろうって見向きもしなかった」


「……リリ、やる。前みたいに出来るか分からないけど」


「駄目だわ! 戦いから遠ざかれたのに!」


「ちゃんとした想いを込めて戦うから大丈夫。リリ、セイララを守るから!」


 全身に力を込めて深呼吸。銀髪の少女の目が、アイドルから戦士のものへと変わる。勢いよくジャンプをすると、核目掛けて蹴りをする。何度も何度も止めどなく。


「はあ!」


 振りかぶった拳は核を破壊した。リリの正義の為の拳が、悪の為の核に勝ったのだった。


※ ※ ※


「眠いにょん」


「やれやれ。度胸が据わっていると言うべきか。危機感の欠如と言うべきか」


「五月蝿いにょんよ、ライド大尉。これでもにょんちゃん焦ってるにょん」


「元帥の能力ならば、あの物体を始末するなど朝飯前では?」


「にょんちゃんが片付けてもいいにょん?」


「セラテシムンの危機ですからね。国長である元帥が適任であろう。それとも何かご不満かね」


「もう~。にょんちゃん、戦いは嫌いにょん」


「それは同感だ」


 稲妻を発して核を撃ち落とすライド。

 ササッと走り出したにょんちゃんは、影の核を視界に捉えて離さないでいる。影の核が消えていく。何事もなかったかのように消えていくのみ。


「終わったにょん」


「どうも元帥」


「いつも通りでいいにょんよ。にょんちゃんは、にょんちゃんだにょん!」


※ ※ ※


「な、何事だ!?」


 次々に消えていく影の核に驚く魔悪邪。動揺していた隙を突かれて飛ばされる。懸命に気配を探るが、それは無駄な行為である。


「どうやら失敗したようでござるな。思った通りでござるよ」


「なんだと!」


「拙者の切札、それは仲間でござるよ! 皆を信じているから、拙者は心を折らずにいられた」


「仲間? それこそアテにならん。いつかは裏切り、お前を容赦なく狙う!」


「拙者はそれでも構わぬでござる。拙者よりも優先すべき物事は当然あるでござろう。拙者を敵にしなければならない時もあるかもしれぬ。その時は受けて立つ。拙者の覚悟でござるよ」


「甘い……お前は!」


「それでも拙者は、拙者でありたいと思うでござる。そんな拙者を認めてくれる仲間がいるから」


「仲間仲間仲間! そんなに孤独が怖いか!」


「怖いでござるよ? 拙者は臆病でござる。だから仲間を大事に出来るでござるよ。魔悪邪、お主もその筈じゃ。孤独は怖い筈じゃ」


「我が? 戯け!」


 突進する魔悪邪。剣を振るってくるものの、先程とは違う太刀筋になっている。ナナシの言葉に動揺しているのだ。


「裏切られるぐらいなら、最初から拒絶するまで。そんなところでござるか。拒絶が破壊へと繋がってしまったのなら、それほど悲しいことはないでござるな。お主が描く理想の世界……そこには居るでござるか? お主の仲間は」


「弱虫が!」


「強がりは止めるでござるよ。そんな太刀筋では、拙者の刀を折ることは出来ぬでござるよ!」


 迷いのない一振りは、迷える一振りを折るだけの力がある。魔悪邪の剣は衰弱する。仲間の数だけ強くなるナナシに、魔悪邪が勝てる筈はない。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ