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最期の言葉

 四枚の翼を羽ばたかせ上昇。見下ろすことで優位を保とうとするが、その手に握られた剣は折れている。紛れもない屈辱を目の当たりにし、魔悪邪の身体が震え上がる。


「こ、こんなことが……こんなことがっ!」


 こめかみに青筋を立て、目を赤く充血させる。全てを防がれたことへの怒り、全てが通じないことへの苛立ち。運は弟のナナシにばかり憑き、自分に憑くのは不運ばかり。大きな力を手にしても、それすらも跳ね返す存在。


「世界と共に消えてくれれば、こんなことにはっ!」


 四枚の翼や髪も虹色に染まっていく。吐血をしながらも雄叫びをあげ、息を荒くしながら睨む。自分以外の全てを。


「破壊してやる……殺してやる……消してやる……。世界も人間もーっ! 我の邪魔をする存在は全てっ!」


 瞬時に動いてナナシに迫る。剣を捨てた魔悪邪は、己の拳を武器とする。ナナシの刀を捉えた拳は、剣の如く音を立てた。


「我の身体の全てが鋼鉄だ! 刃だ! 触れれば硬く鋭い凶器! 我こそ、最強の矛であり盾なのだ!」


 灰色の世界に亀裂が入る。このままでは破壊されてしまう。虹色の石を壊せばいいのだが、その虹色の石は、他でもない魔悪邪なのである。動かない石ならば楽だが、相手は人間である。自我を持ち、思考を持つ人間である。そう簡単にはいかないのが現状だ。


「ナナシ!? これって?」


「世界の崩壊でござる。もう時間が無い!」


 魔悪邪を迎え撃つ二人。穴を出現させたウルだが、魔悪邪によって掻き消されてしまう。魔悪邪の攻撃を炎で相殺していくものの、炎を吸収されてしまう。


「全て吸収してやる!」


「うっ!?」


 攻撃を受けて吹き飛んだウルの姿が元に戻ってしまう。

 ウルのピンチに駆けていくナナシの刀が音を立てて軋む。刀を掴む腕に力が入り、体重も掛かる。


「どうした? 自慢の刀が通用しないか」


「拙者は諦めない!」


「ほう。しつこい奴は嫌われるということを知らしめるにはどうしたらいいかと考えていたが、お前に有効なのを思いついた」


 虹色の身体を発光させてナナシを睨む魔悪邪。睨みながらも不敵な笑みを浮かべる様子は不気味である。

 ナナシの刀は震えだす。小刻みに音を立てていく。刀を握っているだけで異変を感じる。


(な、なんじゃ!? この感覚……)


 異変と共に音を立てる刀。虚しく地面に叩き付けられたナナシ。握っている刀が軽くなる。希望と共にへし折れた刀を、真っ白な頭で受け止める。


「刀が使えなくなったんだ。諦めるんだ」


「……か……刀が……拙者の……刀が!?」


 真っ白な状態で蹴りを受けて吹き飛ぶ。武器を失ったナナシの脳裏に浮かんだもの、それは死だ。手持ち無沙汰になってしまったことが恐怖となって襲い掛かる。


「刀を失えばあれだ。弱い存在だ」


 ナナシに迫る拳。ナナシには、その拳を受け止める術はなかった。起き上がる気力も出ないでいる。ナナシは魔悪邪を見つめる。弟として、兄を見ようと目を開く。


(これからも、お主は都合が悪くなるたびに破壊をするでござるか? 誰とも向き合わずに生きていくでござるか?)


「死ね!」


(魔悪邪。お主のやり方では世界を作っても繰り返しでござるよ。思い通りの世界になるまでに、お主はどれだけ破壊するのか……お主は……どれだけ命を奪うのか!)


「「ナナシ!!」」


 ナナシを呼ぶ声。男女の声が響き渡る。この世界には居ない人影が駆け付ける。魔悪邪の視界に現れる六人。


「お前達は!?」


「あの剣を壊した途端、黒い穴が出現してさ。なんだか嫌な予感がして。おもいきって突入したらって具合だよ」


 六人を代表して発言した夏郷。鞘に納めた刀を抜く為、腰を低くして構える。すると、鞘が黒く染まり、夏郷の目付きも鋭くなる。


「無駄だ。その刀、へし折れるぞ」


「その言葉、そのまま返すよ」


 抜いた刀を鞘に納める。まさに一瞬の出来事。

 魔悪邪の身体に亀裂が入る。ナナシが攻撃してもビクともしなかった、虹色の身体に。


「うっ……ぐぅぅぅ!?」


「ナナシ君! 彼はもう自我を保てない!」


「夏郷殿?」


「君が決めるんだ。君の手で」


 ふらつく身体を押して夏郷の刀を受け取る。魔悪邪を真っ直ぐ見つめると、渾身の力を込めて斬る。虹色の光が漏れていく。それは即ち、魔悪邪の死を意味していた。


「……甘いぜ……甘過ぎる。その甘さ、どこまで通用するか……み、見物だ……。お別れだ、摩士」


「さよならでござる。拙者、魔悪邪を絶対納得させてみせるでござるよ。死んだことを後悔させてみせる!」


「甘い弟、だ」


 虹色の光と命を解き放ち、死をもって、魔悪邪は破壊という呪縛から解き放たれた。

 世界に色が戻っていく。人や時間が動いていく。そんな世界で顔を会わす八人。太陽は平等に照らす。ナナシの肩で消えていく魔悪邪に対しても。

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