灰色のキャンパス
少年の視界に広がる風景。
灰色な街並み、人並み。そして、無音。
少年に聞こえるのは、自分の息遣いや心臓音だけ。
「どうなっておる。さっきまでの街とは違うようだが」
辺りを見渡して歩き出す。一際目立つ建物へと近付いていく。建物の敷地に入っていった少年の視界に飛び込んで来たのは、精巧に作られた人形のように微動だにしない人間だった。
「すまぬ! 話を訊きたい!」
少年の呼び掛けに答える様子はない
そーっと触れてみる少年。それでも眉ひとつ動かない。諦めずに声を掛けてみるが応答はなかった。
「このままでは先程のように……」
「だ、誰」
「誰、じゃと。お主こそ何者でじゃ?」
「じゃ!?」
睨み合う二人。
少年の持つ刀に恐れて動けない青年。
一方、少年は脇を締めて隙を見せないでいる。
「何をしているの?」
「来ちゃ駄目だよ!」
「誰なんですか!」
「そちらこそ誰じゃ?」
「わたしは星季大学の紅 破耶。二年です」
「破耶殿でござるか。で、お主は?」
「お、同じく二年、飯沼 夏郷。君は?」
「すまぬ。拙者、記憶が無いでござるよ。どこで生まれて育ったのはおろか、自分の名前すら思い出せずにいるでござる」
「「記憶が無い!?」」
少年の発言に驚く二人。
二人の様子に刀を緩めると、この街のことについて訊き出した。先程までいた街と状況が似ていると感じた。
「何の前触れもなかったでござるか?」
「何にもなかったわ。一瞬で灰色に変わったの。人も止まり……時間も止まり。どうすることも出来なくて」
「僕達だけみたいなんだ、動けるの。そこに現れたのが、君なんだ」
「そうでござったか。しかしこのままでは……」
「どうしたの?」
「破耶殿、夏郷殿。落ち着いて聞いてほしいのじゃが」
先程の出来事を二人に話す少年。
少年の話を聞いた二人の顔は強張る。
「壊れる!?」
「黒い穴……亀裂って!?」
「拙者が居た街がどうなったかは分からぬ。この街と雰囲気が違うみたいじゃし」
「その声は〝世界〟と言っていたのよね? それってつまり、異世界かしら」
「異世界、か。彼等を思い浮かべるよ」
「夏郷殿、彼等とは?」
「別の世界の僕と破耶だよ。僕等と彼等の意識が入れ替わった出来事があったんだ」
「そうでござったか」
そうこう話をしていると、上空に黒い穴が出現した。先程の街と同様に。
「破壊する! 全ての世界を!」
「またお主か! どうして世界を破壊しようとするのじゃ!」
「小賢しい! 邪魔をするのなら!」
穴からの声に反応するように、謎の物体が三人の前に現れた。全身を黒い影で覆っている為、物体の判別は困難であった。
「二人共。武術や剣の心得は?」
「僕も破耶もないよ。ごめん」
「仕方ないでござるよ。ここは、拙者がなんとかするでござる!」
腰に提げた刀に手を掛ける少年。鋭く物体を捉え、地面を滑るかの如く俊足をみせる。指揮棒を振るかの如く走らせた刀は、物体に対し紙を切るように舞った。
「どうやら、拙者は刀を心得ているみたいでござる」
刀を鞘に納めると同時に、物体は息を絶えた。




