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トワは日がな一日、優の母親や優を手伝い過ごした。
と言っても、トワは極端に腕力が弱く、力仕事はまるで出来なかった。
代わりに手先が器用で、優の母に教えられた針仕事などは得意であった。
トワはいつの間にか、優たちの本当の家族のようになっていった。
トワは無口だが、よく笑顔を見せた。
声を上げはせぬが、にこりとすると、かわいらしいのだ。
優の母と優はトワのその笑顔が大好きだった。
村に住みだして丁度三年が経つと、トワに今までにない変化が起こった。
トワがある方角を気にし始め、そちらを見つめることが増えた。
「トワ、どうした?」
優が訊くと、トワは「行かないと」と答える。
「行くって、どこに?」
優の問いにトワは首を横に振る。
「分からない」
トワの答えに優は困惑した。
自分が行きたい先が分からないとは、どういうことか?
もしや、自分の生まれ故郷や家族を思い出したのだろうか?