scene3『勇者への第一歩!!』
「も、戻れないってなんで!?」
「わからな……待って、運営からメールだ。」
ナツナはメールを開いて運営から来た内容を早速見てみる。
「一時的にシステム上でトラブルがあり、ログアウトができません。復旧次第御報告致します、リアルへの保護者さまには通知してありますので安心してください。」
ユキカはナツナのモニターを横から覗き見る。
「あー、でも一時的ならすぐに直るよ。それまで適当にやってようよ!それに報酬もすごかったし、武器とか防具見たいし!」
ユキカはリュピをモフモフしながら呟く。
「まぁ確かに、んじゃどこか良い鍛冶屋に行ってみましょ。それなりにお金もあるし。」
「そんなに膨らんだお金袋始めてみたよ………」
あのユグドラシルを倒した追加報酬だ、結構な金額だ。
二人は街を巡っていると細い路地の奥に鍛冶屋を見つけた。
「こんなところに鍛冶屋が出来てたのね」
「NPCじゃないの?」
「違うわね、ちゃんとしたプレイヤーが商売してるみたいだよ、入ってみようよ。」
ナツナは先に歩き出す。ユキカはまだ歩かずに細い路地の奥を眺めていた。
「武器、私片手剣ばかりだから何かあるか気になる。ムフン!待ってなっちゃぁん!!」
ユキカはダッシュでナツナの元へ、中に入ると独特な香りが漂っていた。他に客は居ないみたいだ、というより。
「店員さんいなくない?留守かな」
「わからないけど、見させてもらいましょ。」
ナツナは展示されている大剣を見ている。ユキカも片手剣以外に刀や聖剣を見てみる。
「ふぉ!見てみて!じゃきん!」
「あ、ちょっと!ダメじゃない!戻しなさい!」
ユキカは聖剣と聖楯を構える。いま所持している片手剣より少しリーチが長い片手持ちの聖剣、ユキカはブンブン振る。
「これっすっごい軽い!すごいや!あははっ!」
「いい加減にしないと帰ってきて見られたら――」
しかし時は既に遅かった。入口に立っていた少女が二人を見て
「コォラァァァァァァァァ!!売り物んで遊ぶとはええ度胸しとるなあんたら!」
叫んできた方を見るユキカとナツナ。ビクッとするもとりあえず振り向く
「あ、すごい、金髪のお人形さんみたい!」
「やかましぃい!!それ!高いんやから買ってや!」
ユキカは自分の持っている聖剣セットを見せて、これ?と首を傾げる。
「せや!それ、こんくらいはするんやからな!」
関西?っぽい喋り方の見た目英国の金髪少女は手をパーにする
「なんと!5000sz?買えるよ!!」
「二桁足らんやないかいっ!!!」
ハリセンでパシンッ!と突っ込まれたユキカ。痛いよーっと言いながらナツナにヨシヨシしてもらう。
「すみません、私達武器や防具を見に来たんですが店員さんが居なくて。」
「あー、そういうことね。なんなら早よ言うてや、あー自己紹介が遅れたわ。ウチは『シャオロット』っちゅーうんや。贔屓にな?」
金髪少女はカウンターに入ると、エプロンに着替えると二人を見ながら
「で?何を探してるん?」
「あ、武器を新調したいんです。今あるお金で足りるかなぁ」
シャオロットはカウンターでユキカから渡されたお金袋の中身を出して数える。
「10万ってとこやな。スキルとか付けるなら足らんな。」
お金袋を返された、ユキカは受け取る。
「何とかできませんか?」
「あー無理無理、ウチ安くしたりせーへんよ」
シャオロットは椅子に深く座る、ユキカはさっき持ってた聖剣セットを見つめる。
「欲しいなぁ。これが一番しっくり来たんだけどなぁ、一目惚れしたのになぁ…………ちら」
「あかんあかん!お金ないなら帰った帰った!」
シャオロットは手でしっしっ!と二人に向けて合図する。ユキカはガクッとする、それを見たナツナは
「うーん、ユキ?少し貸そうか?」
「駄目━拒否━却下━!!借りるのは私の意志に反するもん。仕方ないよ何か安いのに……」
「ダメだよ、武器だけは妥協しちゃ!」
「でもでもっ!」
少しの間やり取りを見ていたシャオロットはカウンターから立ち上がり、工房へ入っていく。しばらくして出てくると何やら地図をモニターに広げた。
「なんだろうこれ」
「なんなら、ウチからの依頼を聞いてくれるか?それを達成したらその聖剣セット。タダでやるわ、二言はない。」
突然の条件に二人ともポカーンとする。ユキカは気を取り戻すとカウンターを両手で叩き、シャオロットに顔を近づける。
「ほ、本当に!?良いんですか!?あの聖剣セット50万でしょ!?」
「た、確かに、そんなものをタダだなんて。」
「まだ条件は話してない。このマップにあるここ、『トゥイルド鉱山』に行ってそこにある『金閃石』を1つ取ってきてもらおか。」
「何その石、初めて聞いたよ?」
金閃石は極希に岩肌に出来る石で、鍛冶屋からすればそれさえ有ればどんな物でも作れる金槌が出来ると言われるほど重要。
「何万分の1の石を取りに行けだなんて。無茶です!」
「ほな、無かった話やな、帰った帰った。」
ナツナが『行くよ』と腕を引っ張るがユキカは動かない。
「わかりました、取りに行きます!金閃石!」
「ちょっと?!話を聞いてた?何万分の1なのよ!?無いにも等しいのよ?!」
ナツナはユキカの肩を掴み訴えるが、ユキカは横に首を振る。
「何万分の1なんでしょ?なら大丈夫だよ、1%も可能性があるんだから行くだけ行こうよ。」
「私は反対!トゥイルド鉱山は危険なモンスターばかりだし、まだユキカのランクで行けるようなとこじゃ!」
ナツナに掴まれた手を握り。カウンターに目を向けて
「その依頼を受けます!」
「っ!?ユキ!」
シャオロットはモニターをクエスト依頼を出して、ユキカはそれを受理した。
「ナツナが行けないなら私は一人でもいくよ。だって勇者になるには強くならないとダメ!確率が低いからって下がるようじゃ、誰も救えないのと同じだもん。」
「……ユキ」
「よし、んじゃ行ってきなよ。タイムリミットは明日朝まで、まぁ、無理やろうけど。」
「必ず持って帰ってきます!行ってきます!」
ユキカは鍛冶屋を出る、ナツナは慌ててユキカを追う。追いつくとまたユキカの肩を掴む。
「ユキお願いだからもうちょっと考えて!」
「私は決めた、決めた事をやっぱやめりだなんて勇者がやることじゃないよ。それはなっちゃんが教えてくれたことじゃない。」
ナツナは俯く、昔からよくナツナが教えてきたことをユキカに言われる日が来るとは思っても見なかった。
「わかった、なら私もいくよ。ユキ一人にはできない。」
「過保護だよー、一人でもいけるよ?」
「だーめーです!ほら、いくよ!」
先に歩き始めるナツナをユキカが慌てて付いて行く、路地から空を見上げるとそこにあるのは
「ローズウッド、必ずてっぺんに行くよ!待ってて!」
ユキカは手をピストルの形にして、パンっと打つ仕草をした。
案内所から転送装置に入り、到着した場所。
「ここがトゥイルド鉱山、なんだか暑い場所だよね。」
「他のプレイヤーも居るみたいだし多分モンスターとは出くわさないかも、警戒はしながら進もう。」
ナツナに先導され、ユキカも歩き出す。鉱山の入口に入るとそこからは闇が続いていた。