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いつかそれすらも神話になる日  作者: 干支ピリカ


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22/26

第四章 【隣人】 1.

 翌日は快晴で、まさに式典日和だった。

 懇親会に使われる予定だったテラスには、周囲に植えられた木々の間から、柔らかく温かい秋の日差しが差し込んでいる。

 設えられた椅子に腰を下ろし、オレはこの日の為に整えられた景色に目を細めた。

「勿体なかったですね」

 今朝こちらに着いた生島が、オレの隣に立ち、どこか間延びした声を出した。

「仕方ない。お偉いさん並べて、永遠に来ない相手を待たせるのもうっとおしいだろう?」

「オレらの溜飲は下がりそうですが……」

ぶつぶつとつぶやき、生島は眠気を覚ますように頭を左右に振った。

「ろくに寝てないんだろ? 中で休んでてもいいぞ。取りあえず急いですることもないしな」

 話を聞いて、昨夜慌てて首府を出てきた生島は、車の中でも眠らずにあちらこちらへ連絡を取っていたはずだ。

「いえ、大丈夫です」

 結局、会場の一部が損壊したことを理由にして式典は延期となった。昨日の視察団がそれらしい情報を持って帰っていたので、受け入られやすかったようである。

 中止でなく延期とした理由は、関係者に公開できる情報がまだ少ないからに他ならない。今頃鴻上司令は、参謀本部及び政府の代表と一緒に、『境界線』近くにあるという石背の研究所を訪れているはずである。

 中央本部では、軍の実力者であり周芳系に当たる第一隊の福原司令が、石背系の第三、第七隊の司令を会議と言う名目で一室に籠めている。

「昨晩、打てるだけの手を打ちましたが、あまりにも摩擦がなさ過ぎて怖いくらいですよ」

「政府の援助は初めから当てにしていたが、石背側の抵抗の薄さが意外だったな」

「えぇ。最悪、第二隊がクーデター起こすぐらいの覚悟はしたんですけどね」

「まぁ、第二隊の礒辺大佐は既に捕まってるし……身内でも、涌井元帥の『姿』の話は怖かったのかもな」

 生島は眉を顰めて頷いた。

 任意出頭を求めて、涌井邸を訪れた第四隊の久米大尉を迎えたのは、慌てふためく家人と、屋敷の中から漂ってくるツンとくるような消毒液の匂いだった。

 逃亡のために有毒ガスをバラ撒かれたと思った久米大尉は、携帯しているマスクで鼻と喉を覆い、連れてきた数人の兵士と共に強引に屋敷の内部に踏み込んだ。

 ひときわ異臭のする部屋に入った久米大尉は、家人の狼狽する姿が自分たちの来訪によって引き起こされたものでないことを知った。

「……一度、死んだ身体だったそうですね」

「毎回運んできて、ひと月くらいは保っていたらしい。駄目になるとまた新しい死体を調達して、記憶チップを移植……正気の沙汰じゃないな」

 そんな身体の交換が、半年続いていたらしい。

 そろそろ身体の限界が近付いているのに、いつも新しい身体を調達してくる礒辺大佐とは連絡が取れない。おまけに訪ねてきたのは、礒辺大佐率いる第二隊の人間ではなく、周芳系の人間だ。家人の恐慌具合は想像できる。

 明け方、久米大尉の下にいる松本軍曹が、げっそりとした口調で無線を入れてきた。

 松本は一部始終を語った後、『充分、軍法会議に回せます。書類その他は気にしなくていいです』と告げた。

『あんな明らかな証拠があったら、誰も言い逃れできやしないでしょう……。それと、意外なんですが、久米中隊長、あぁいう無惨な死体や気味の悪い話は全く意に介さない性格だったらしくて、現場の混乱は少なく済みました。助かりましたよ』

 しみじみとした口調に、「良かったな。ご苦労さん」とねぎらって、オレは無線を切った。

「元帥は、その……死体なのに、動いていたって、本当ですか?」

 好奇心が恐怖心を上回った様子の生島が尋ねてきた。視線は遠くの山の上である。

「さあな。松本は見ていないって言うし、家人も今となっては、夢だったか現実だったか分からないと言っているらしい」

「『境界線』を越えていたっていう、石背かれらの実験体とも連絡が取れないみたいですしね」

 全部夢だった――それで片付けられたら、どんなにか楽だろう。

 涌井元帥のおぞましい姿も、印波の血なまぐさい事件も、存在しない『隣人』からの連絡も、親父を失った顛末さえも――だが、今こうしてオレが座っている、見晴らしの良すぎるこの場所には、以前確かに故郷があった。それさえも夢にはできなかった。


 建物のドアが開き、こちらに向かって近づいてくる綾部が見えた。

「……数多の軍功を立てているお人だったのに、礒辺大佐も馬鹿ですよねえ」

 同じように綾部を視界に入れて、生島が重々しい息と共に吐き出す。

「茅野少佐を人質にするなんて……」

 オレや綾部が士官学校の時、巷でやばい薬が出回る事件があった。軽はずみに首を突っ込んだオレと、既に一兵卒として勤務していた生島とは、この事件の渦中で知り合った。

 軽はずみに首を突っ込んだオレがかすり傷を負った際、綾部が行った容赦ない報復の一部始終を生島は見ている。

 まだ学生であったことに加えて、親父が裏から手を回したおかげで、事件の報告書からオレと綾部の名は削られたはずだ。軍上層部で知る人間はいないだろう。

 ――にしても、自分で『先祖返り』だと認めていた相手に人質が利くと思うのは、やはり甘い。

「動く死体に魅入られて、危機管理能力が薄れてたんだろうよ」

 同じように『氏族』でも、寿命に対する焦りはオレにはない。

 それとも、今はまだ若いだけで、この先失うものができれば、死者に乗り換えてでも生きたいと思うようになるんだろうか。

「怖いですね」

「全くだ」

 石背の実験結果を見て、周芳ウチの上に狂気が伝染しないで欲しいと切実に願う。

「何かありましたか? 茅野大佐」

 歩いてきた綾部が、書類の挟まったファイルを生島に渡した。オレは「何もない」と手を振った。

「警備の記録と、あと……滝軍曹の報告書です」

 無線だと傍受される恐れがあるので、滝については生島が到着してすぐ説明した。ある意味、生島を急いでこちらへ呼んだのは、滝の件の口裏合わせのようなものだった。

「――気づかないで申し訳ありませんでした、隊長。綾部大尉」

 報告書をめくりながら、生島が苦渋に満ちた口調で告げた。生島は滝を買っていたから、今度の件はかなり堪えただろう。

「仕方ない。ターゲットだったオレが、気づかなかったんだから」

 軽く流すと、綾部もついでのように口を挟んだ。

「それだけ本気で、茅野少佐を害そうと思っていなかったんでしょう」

 それはそうだと思う。滝がその気になっていれば、オレはとっくの昔に土の中だ。

「滝軍曹は、迷っていたんだと思います」

 綾部の声にも、いつもより紙一枚分くらいは優しい響きがあった。

「あぁ。そこに、オレがつけ込む隙があった訳だ」

 生島はファイルを閉じ、少し躊躇していたが結局は笑うことにしたようだ。

「本人が迷っていて助かった稀有な例ですね。そういえば本人は、今?」

 生島の質問に、綾部が「片山曹長のところです」と答えた。

「片山曹長には……?」

「あいつに腹芸は期待できない。だからオレの命令で、滝にはダブルスパイを務めてもらっていたとだけ言った」

 予想通り片山は、『自分には一言あって然るべき』的なことを、ぶつぶつしつこく言ってきた。多少の同情はあったので途中までは黙って聞いていたが、耐え難くなったあたりで、「お前が知っていたらスパイにならん!」と言って黙らせた。

「それが妥当ですね」

 オレは頷く。

「片山の美徳は、上司に文句は言っても疑問は持たないところだな」

 珍しく片山を褒めたのに、綾部も生島もなぜか難しい顔をして黙ってしまった。

 不意に、左耳に掛っているインカムがコール音を出した。

「茅野だ」

『樋口です。隊長、鴻上司令から無線が入っておりますので、回します』

「了解」と応じてすぐに、インカムから入る音がクリアなものから、微かなノイズ入りのものに替わった。

 大して変わらないかとも思ったが、立ち上がりインカムの角度を動かした。

「鴻上司令? 茅野です」

『……骨が出たぞ。あと、体もな』

 いきなりな単語に、オレは素直に驚いた。

「早かったですね!」

『こんな陰気な場所、一分でも長くいたくないと、全員の心が一つになった成果だな。「標本室」とプレートの入った部屋の奥を覗いて、監視に付いてきた石背の政治家が一人倒れた。死体なんぞ見飽きている私でさえ、今は背中が薄ら寒い』

 聞きしに勝る様子に、オレは心から謝罪する。

「……申し訳ありません。オレが行ければ良かったんですが」

『当事者じゃ証人になれん――という理由で、石背にも政府の人間にも確認させた。とりあえず、お前らが礒辺大佐を拘束した理由は認められた。軍法会議の前には首府に戻れよ』

「了解しました。部隊を撤収させる目処が立ち次第戻ります」

『分かった』

 バチッと音がして、音声とノイズが消えた。

 オレは綾部と生島に向き直る。

「撤退だ。資材は置いていく。中央本部の痕跡が分かるものだけ、撤去対象にしてくれ」

この場所は、建物はこのままで地方軍の管轄に入ることになった。六年より前の通りに、だ。実質この六年間は、中央本部の監視下に置かれていた。

 昨日、オレが礒辺大佐と話したあの場所も、この辺を調査するためにと、石背のチームが掘った地下壕だった。

 届け出がされているかどうかも怪しいが、区画的に葉前から外れているので、会見場所用の調査報告から、故意に漏らされていたのだろう。

「了解しました。……大体、三日ってところですね」

 手にした資料を、再びめくりながら、生島が答える。

「もう少し車が調達できれば、一日半でできますが」

「それ程急がなくていい。無理ないスケジュールでやってくれ」

 もう一度「了解しました」と応えて、生島は綾部に二、三の確認を取ると、建物の中に入っていった。

 残った綾部が、オレに尋ねる。

「まだ、ここにいるんですか?」

 それは、オレの台詞だと言いたい。……とはいえ、昨日の今日では綾部はオレを一人にはできないだろう、ということも分かる。

「もう少しくらい、いいだろう」

 オレは再び、白い椅子の一つに腰を下ろした。

「そろそろ、寒くなってきますよ」

「首府より山に近いからな。そういえば、どんな山の上も寒いだろうに、山を降りてくる風は暖かいんだよな」

「山を登る風は温度が下がって、下降する風は温度が上がりますからね」

 気圧と空気の関係だ。おまけに、降りてくる風は湿度も少ないから、ますます風下一帯は暖かくなる。

 オレは、傾き始めた日に染まる山の稜線を見ながら頷いた。

「五、六歳の頃に、親父がそんな話をしてな、その頃は原理なんか分からなかったから真っ直ぐに、暖かい風の吹いて来る場所は……山の向こうは暖かいんだなって思った」

 山の近辺には森があり、森の中には『境界線』がある。

 だから山の向こうに何があるのかは、知らない。おそらくは、海があるんじゃないかという予測は立っている。

「だから寒くなると、山の向こうへ行きたいって思ったもんだ」

「……懐かしいんですか?」

 頭上から降ってくる声は、吹く風と同じく冷たさと暖かさが混じっている。

「どうだろうな。覚えていたのがおかしな気分だ」

 おかしなというか、昨日から父親に関わる記憶を思い出しても、頭が少しも痛まないのが変だった。

 六年より前は、閉ざしたはずだった。その罰として苦痛を、引き換えに安寧を得たのだと思っていた。

 だが子供の頃に見たものと、少しも変わらない遠くの景色は、『お前は何も失っていないじゃないか?』と、言っているようだった。

「……懐かしんでいるのかもな」

 思い出すのが、苦痛じゃなくなっている。

 景色に言われるまでもなく、記憶はオレの中にある。枷を掛けたのはオレだから、オレが望めばいつでも解けたのかもしれない。

 本当にそうだとすれば、今までの痛みは何だったんだろうか?――望まなかった、単にそれだけなのだろうか。


「必要のない痛みなんてない――覚えてないのかい?」


 いきなり意識に入ってきた声を、オレは自分の記憶の中から出てきたものかと思った。

 だが不審そうに耳に手を当てた綾部を見て現実だと分かると、ざばっと、頭から冷水を掛けられた気分になって立ち上がった。今の今までオレと綾部以外、このテラスにはいなかった。それは確かだ。

『けっして振り返ってはいけない』 そんな戯曲の一節が頭を過ぎったが、頭はのろのろと動き、目はその姿を捉えた。

 植えられた木々の前、三メートルも離れていない場所に、現在いまに在るはずのない人の姿を捉え、無意識に口が開いた。だが、声が出てこない。それでも何とか押し出そうとした言葉は、誰何すいかの声に消された。

「近づくな! 何者だ?」

 綾部は右手を支えるように左手を寄せて、掌の中にある銃口を真っ直ぐ前に向けていた。表情は平静を保ち、目は敵を見るものだったが、声に動揺が現れている。

 オレは、六年前に死んだはずの親父の姿をした男を見据えていた。

息を深く吸い込み、ゆっくりと吐き出した。鼓動は、まだ治まっていなかった。

「害意はない。ただ、話に来ただけだ」

 今度の声も、昔聞いた父親の声だった。なのに、目の前の男の口は、言葉の形に開かれていない。

 それを知ると、さっきも今も言葉は耳からでなく、脳に直接書き込まれた気がしてきた。

 言葉は分かるが、声を聞いたのかどうかはっきりしない――こういうお伽噺を、オレは知っている。

 だとすれば、今ここでオレたちの見ている姿は……

「綾部、今、『声』は聞えたか?」

「聞えましたが、その『声』は、自分の見ている人物の口からは発されていません」

 同じ事実に気づいたのだろう。口調が抑揚を欠いている。

「そうか。なら……」

 オレは、前方の人影を指で差す。

「アレは、お前には何に見える?」

 非常に珍しく、綾部が言葉に詰まった。

 オレは前方から視線を外し、綾部の顔を見た。表情は変わっていないというか、固まっていた。

「オレの親父に見えている……ってわけじゃないんだな?」

「茅野少佐には、お父上に見えているんですか……」

 棒読みのような声だった。もう一度、誰に見えているのかと聞こうとしたオレに、前方から声が掛かる。

「私の姿は、見る人間によって違うかもしれないよ、茅野少佐」

 告げられた言葉の意味より、名前を呼ばれたほうにオレは反発した。

「私は、貴方に名乗っただろうか?」

 口調を対外的に装うことで、『落ち着け!』と自分に言い聞かせる。

「私は、君に名乗るべき名を持たないのだ」

「それは、答じゃない」

 思わずキツイ声が出たが男は笑った。父親の顔で。

「君はお父上に似ている。懐かしい」

 今度はオレが言葉に詰まった。

 何で、オレの親父の顔をした男に、『親父に似ている』などと、言われなくてはならない?

 息を一つ吸って、胸の内を吐き出した。

「あんた誰だ? 何でそんな姿をしてオレの前に現れた?」

 礼節も、戦略も投げ捨てた。

「話をしに」

 平然と、目の前の男は告げた。

「私には話す義務があり、君には話を聞く権利があるからだ」

「何の話だ?」

「この姿……君には、お父上に見えているみたいだが」

 その通りだよ、とは口にしなかったが男は続けた。

「私の姿は、君が、一番よく耳を傾けてくれそうな相手に見えるよう、君の中で設定されている」

 だから親父か……納得できるような、納得したくないような気分だ。

「どうやって?」

「さあ? 決めるのは、君の中の意識だ。私は単に、働きかけているに過ぎない」

 とぼけた返事に、また苛立ちを感じる。

「だから、どうやって他人の意識に働きかけているんだ?」

「私は声を出したことがない」

「は?」

「だから、君たちがどうやって声を出しているか分からない。こうして、君たちの身体に入っても、だ」

「……つまり、オレが声を出すには声帯を震わせる、とか言っても、アンタが理解できないように、アンタのやる『他人の意識への働きかけ』も、オレに説明できないってことなのか?」

 オレは、自分の頭の中を整理するように話した。

「そうだ。説明するのはたやすい。だが君たちの中に、『意識』を物として認識する概念がない限り無駄だ」

 何となくむっとしたのを感じ取ったのか、男は口の端を上げて付け足した。

「――と、君のお父上が言ったんだ」

 男は、どこか遠い目をした。

「自分たちとは異文明、異文化だと言っていた。まぁ、身体もろくに持たない私と、君たちが同じ文化を有するはずもないな」

 オレはさっきから気になっていたことを口にした。

「アンタはさっきから、身体を持たないって言っているが、ソレは誰の身体なんだ?」

「君のお父上の身体ではないよ」

 気になっていたのはそこだが、それは答にならない。

「この身体の固有名詞は分かる。だがそれを言ったところで、到底君が納得できるとも思えない」

「……だろうな。だったら質問を変える。その身体は、どこでどうやって調達してきたんだ?」

「それは長い話になる。だが、それで、私が此処に来た目的も果たせる。いいかい?」

 建物の中に入ってもらうことも考えた。しかし、誰にどんな姿で見えるのかが分からないのは、どう考えてもまずい。

「綾部、誰もテラス側に寄せないよう……」

「茅野少佐、その心配は要らない。私のほうで、私の姿を見せる人間を調整チューニングしている」

 有難い話なのだが、男の言葉には、何故かやはり、気持ちのどこかが逆撫でされる。

「そんな調整が可能なら、今オレに見えている姿を変えてもらうわけにはいかないか?」

 外見のせいかと思って、無理を言ってみた。

「これは、君が作っている姿なんだか……」

 と前置きをした後「話しにくいなら」と、男は『設定』を変更してくれた。

 相手の姿が、四十代後半のスーツを着たオレの父親から、二十代前半くらいの、ゆったりとした白い服を着た、中性的な男に変わった。

 長い髪に隠されて、顔は曖昧だ。オレは自分でも知らないうちに、ふうっと息を吐いていた。やはり、死んだ人間が見えているのは精神に悪かったらしい。

 傍らに立ったままの綾部の身体からも、どこか弛緩したのが伝わってきた。

「綾部、拳銃をしまえ」

 中から不審な男の姿は視認できなくとも、綾部が拳銃を出しているのは見えるだろう。それに『伝承』では、拳銃が効く相手ではない。

 はっとしたように指から拳銃を引き剥がしている綾部を横目で確認して、オレは尋ねた。

「今の姿……というか、今オレに見えている姿は、なんの……」

「貴方が想像するところの、『隣人』です」

 頭に響く声も、その口調も変わっていたが、何より男の言葉にはっとして、オレは改めて男を見る。

「今更だが……、貴方は、我々の言うところの、『隣人』なのか?」

「そうですよ」

 幼い頃に読んだ、童話の挿絵さながらに、『隣人』は優しく微笑んだ。


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