第百十五話「師の言葉」
訓練場でオークに言われたのは、ある朝のことだった。
「お前はもう、俺が教えることのない段階に来ている」
蒼は少し驚いたが、顔には出さなかった。「そんなことは」
「ある」とオークは言った。「俺はCランクだ。お前はAランクになっている。純粋な強さという点では、お前の方が上だ。俺が続けて意味があるとすれば、経験の話だけだが、それも俺が持っている経験はお前が必要なものとは別のことが多くなってきた」
「でも訓練で負けたことがあります」
「それはお前が油断しているときだ。本気で向き合えば、今の俺では勝てない」
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オークが椅子に座って、蒼を見た。
「一つだけ伝えておきたいことがある」
「なんですか」
「強くなることと、強くあり続けることは別だ。今のお前は強くなっている。だがそれを維持するのは、また別の話だ」
「維持するために何が必要ですか」
「続けることだ。鍛え続けること、学び続けること。そしてもう一つ」とオークが少し考えた。「目的を忘れないこと。強くなることが目的になると、強さのための強さになる。お前には別の目的がある。その目的を常に思い出しながら動け」
「一年後の対話ですか」
「それだけじゃない。その先もある。対話が終わった後に何をするか、それも目的の一部になるはずだ」
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オークとの稽古が終わって、別れ際にオークが言った。
「俺はもう訓練場に来なくてもいいぞ、という意味ではない。来てもいい。ただ、今後は訓練ではなく確認のために来い。自分の状態を確認したいとき、一緒に動ける相手として来い」
「ありがとうございます」
「礼は言うな」とオークが立ち上がった。「お前が最初に訓練場に来たとき、あのGランクがどこまで行くか興味があった。今わかった。かなり遠くまで行く」
彼は言って、訓練場を出ていった。
蒼はしばらくその場に立っていた。遠くまで行く、という言葉が頭に残った。まだ一年後の対話が終わっていないが、その先のことを考える必要があるという気づきが、少しずつ形になってきた。




