24話 サクヤの強化計画
12歳の冬。来春には13歳になって目出度く卒業して、一人前の職業について自活できるようになる。
俺は勇者なので、魔女の家から毎月金貨2枚とクエスト達成時のボーナスで悠々自適の生活が保障されている。
ぬるい。これはぬるい。
でも、家賃とメイドの給金、食費などで、ほぼトントンだね。
でも、勇者は危険だよね。過激な職業だし?死ぬかもしれないし。
でもアイリスの言うことには、死なないらしい。不死身だ。
まったく、ぬるい。
二人の魔女が、俺を勇者認定したものの、今のままじゃ普通の男の子。何とか力押しができるように、さらに強化する必要があると、怖い相談をしている。
「サクヤに剣術を学ばせて勇者に育ててきたけれど、剣術だけじゃ心もとないね。 やはり不死能力を与えるべきかな?」
「そうね。 身体に死に至るダメージを負うと、ここに自動で転送して治療する手はどうかしら。」
「それいいね。 転送チップを頭に埋め込もう。 」
いやいや、本人の了承をえてね!
「魔力の方はどうしようか? 」
「魔素を貯蔵できるブレスレットを持たせようか。」
「それと、スキルシステムを導入してはどうかな? やはりちょっとは努力すれば獲得できるとなると、やる気も出ると思うわ。」
「そうそう、男の子なら妄想するハーレムはどうかな? 」
「いやいや、それはパスだな。 冗談じゃないわ」とアイリスが一蹴した。
「それより、本人の希望とか心づもりとかをきちっと聞いてみないと。 押し付けは破たんするよ。」
そうだそうだ!
サクヤの勇者育成計画を整理してみた。
1、不死能力:身体に死に至るダメージを負うと、魔女の家に自動転送して治療する。
2、魔力の増量:魔素貯蔵ブレスレットを開発して、持たせる。容量は必要に応じて、その都度決める。
3、スキルシステムを導入する。:この世界に適用するが、勇者のみ通常の10倍の経験値獲得とスキルポイントの変更を可能とする。
大きくは、この3点だね。
まず、調合室に回復装置を組み立てる。毒が体内を廻って死に至る場合は、毒消しを行う。血管を開いて、血液を浄化装置にかける。猛毒のトリカブトなみのものでも、約2日で解毒できる。魔物など動物性はこれより毒性が弱いので、max1日もあれば回復する。
そうそう、完全に死んだ場合は蘇生はしないよ。あたりまえだけどね。
首を切られて頭だけになった場合は、頭が転送されてきてから、身体を再生するのに14日を要する。
パーティも同様にしたいところだが、それはリソースが足りない。
パーティメンバーには、離脱の種を持たそう。まあ、気が付かないで死亡した場合は仕方ないか。
その代わり、危険探知機能や即死回避機能のスキルを習得させよう。
アイリスは魔素貯蔵ブレスレットを開発している。ここ5日ぐらい、飲まず食わずで調合室にこもっている。
アイリスは、優秀な錬金術師なのだ。魔法でちゃちゃっと作れそうなものだが、そうではないのだ。
魔素貯蔵ブレスレットの仕様は、もちろん魔素を貯蔵して、魔法を唱える都度、適当な量を放出する。また、通常時は周囲から魔素を吸収して貯蔵する。さらに、貯蔵量の上限は、自前の貯蔵量の5倍とする。
「うん。よしよし! これでいこう」とアイリスはつぶやく。
魔素は万物との結合力が強い。クモの糸を10nmまで薄く延ばす。それを100nmの特殊合金で挟む。厚さ110nmを径8cmに巻くので、約7000mが必要になる。ブレスレットの幅を20mmとしたら、魔素は熱量換算で 5000MJ が貯蔵可能となる。5000MJは約15トンの氷を水にする熱量といえる。およそ1メトリックトンともいえる。まあ、半径20m以内の魔物を倒すには十分だろう。
もっとも、サクヤ自身の保有量が、それに達するには、まだまだ時間がある。それまでに容量を増やそう。
もう一つ、スキルシステムについては、魔女ハナの領分である。
スキル項目は、生産、鍛冶屋、料理、剣術、格闘、建設、交渉、政治、法務など。必要に応じて追加する。
職業は、勇者、英雄、剣士、魔導師、冒険者、薬師、商人、神官、錬金術師、村人、町人など。
これらの設定を、ハナは調合室の奥にある”惑星制御装置”で10日かかって構築した。現存の人たちもこれらのカテゴリーに追って所属させる。実際には運用しながら修正してゆく。まずは、サクヤの設定だが、これはサクヤにやってもらおう。
「サクヤ。魔女の家で勇者の設定をするので、来てほしいのだけど?」
フローラが学園で俺の手を取って、そう言った。
ここは魔女の家の居間。フローラとアイリスがテーブルの向こう側に座っている。
「さて、これからサクヤを勇者にする設定を進めるけれど、サクヤ、それで良い?」とフローラが心配そうに言う。
確かに、俺自身何になりたいとか、使命とかあまりしっかりイメージできていない。今までも、どこからきて何をしたらいいのかなど、いつも考えていたが、いざ勇者になれと言われても、優柔不断な俺。
「記憶の中には、毎日が忙しい灰色の世界が横たわっており、そこから逃れたい、ゆっくりしたいという声が聞こえてくる。こちらの世界?に来てまで、忙しい目には遭いたくないな。」と俺。
「そうよね。 あなたの意志を無視して召喚して、揚句に勇者になれなんて。 勝手そのものね。 謝るわ。 でも、元の世界には戻せないと思うの。」
「いや、元の世界に未練があるわけじゃない。 ここは過ごしやすく気に入っている。このままでいいと思っている。 できれば自分の足で歩いて行きたい。 」
「もちろん、あなたの思いを叶えてあげたい。 せめてもの罪滅ぼしになれば・・・・」とハナがショボンとした。
「うーん・・ 湿っぽいな! もっとこう前向きに行こうよ!」とアイリス。
「この世界を気に入っている。それでいいじゃない。 そして勇者ならば、好きなことも手に入りやすいよ。 さあ、うじうじしないで、パット行こうよ。」 なぜかアイリスの語尾がため口になっている。
「そうだね。確かにこの世界で出来ることで楽しもう。 アイリスありがとう。」
ということで、勇者設定を進めた。
勇者の仕事はいつもあるわけではない。ほとんどは自由だし、この世界を楽しむことができる。
俺たちは手を打った。
この時は、まだ想像だにしなかったことがやってくるとは知るよしもない。




