助けを求めるコロニー
空のコロニーの崩落した壁を応急処置した福原たちは、すぐに首都を目指して出発した。途中、いくつかのコロニーらしきものも目にしたが、立ち寄る事もなく、そのまま北上を続け、関門橋を渡り本州に上陸した。
本州と九州は海に挟まれていて、それをつなぐのは関門橋と関門トンネル。あの日、鋼鬼たちがいくつもの場所で同時に発生したと言う話は、当時のニュースで聞いていたが、それが事実であるかのように、本州側の状況も俺たちがいた九州と変わりなく、あちこちを赤銅色の肌をした鋼鬼たちが彷徨っていた。
福原たちと共に車で移動するようになってから、気づいたのだが、それなりの速度で移動している車を鋼鬼たちは襲ってこない。野獣が車を大きな一匹の生き物と認識しているのと同じなのかどうかは分からないが。
そんな事を思いつつ、窓の向こうで彷徨っている鋼鬼の姿を見ていると、ハンドルを握る上本が叫んだ。
「前方に花火が打ち上げられています」
その言葉に福原をはじめとする社内の者たちが、視線をフロントガラスの向こうに目を向けると、陽光煌く青空の中、個人の遊戯用と思える弱々しい打ち上げ花火が、何度かその存在を訴えようとしていた。
「俺たちを呼んでいるのかも知れないな」
福原の言葉に、上本が減速し、花火の下を目指し始めた。
「こんな小さなコロニーで、よく生き残れたわね」
門の前たどり着いた時に、沢井が言ったその言葉が全てを物語っているとおりの、花火を打ち上げていたのは、小さなコロニーだった。
「協力してもらえないか」
門の上に設けられた見張り台らしきものの上から、50代半ばと思しき男が言ったが、その頃には、周囲の道路にたむろしていた鋼鬼たちが、集まり始めていた。
野獣たちと違うのは、停車している車は大きな生き物ではなく、その中に人がいると言う事を認識できることらしい。
「この程度なら、俺行きますよ」
「任せる」
半分、沢井も出てくれれば、二人で活躍できると思っていた俺の期待を裏切り、福原は俺の言葉をそのまま受け入れた。これはある意味、俺の強さを信頼してくれているのだろうが、俺としては残念な答えでもあった。
そんな気分は抑えて、ドアを開けて、レーザーソードを構えた。
完全に生身の人間と言う事を認識して、鋼鬼たちが俺に向かってやって来た。
やつらは知性が無いから、飛び道具の怖さも、俺が手にしている物が、リーチを有利にする武器だと言う事すら、理解していない。
鋼鬼の体を真っ二つにしてから、頭部を潰して、鋼鬼を一体一体駆逐していく。
コロニーの見張り台の上から上がる喚声の中、後から湧いて出て来た鋼鬼も合わせて、数十体を葬ると、周囲に鋼鬼の姿は無くなった。
「も、も、門を開けるので、代表の方は入って来てくれませんか?」
俺の活躍で動揺が激しいらしく、ちょっとどもり気味に見張り台の上の男が言った。
そのコロニーは一つの町の区画ほどの広さで、予想通りの小さなものだった。
これまで生き延びて来れたのは、住人が少なかった事と防災用の保存食や小規模だが物流拠点にやはり保存のきく食料が大量にあった事が幸いしたらしかった。
「ですが、そろそろその食料もそこをつきます」
そう言ったのは、40代半ばと思えるここを治めている有吉と言う男だった。
食料の援助につながるのなら、こちらも対応できない。きっとそう思っているはずと、福原の横顔を見つめていると、有吉は予想外の言葉を続けた。
「ですが、先日、ここから少し離れた場所にあるコロニーから使者が来まして。
そのコロニーには食料があるので、移って来ないかと言うのです」
食料問題はこれで解決である。としたら、俺たちを呼んだ理由は何なんだ? そんな思いで、視線を有吉に向けた。
「その時は即答できず、いつでも来てくださいと言う事で、その日は終わり、私たちの中で協議した結果、移動する事を決めたのですが、鋼鬼がうろつく中、移動できずに困っていたのです」
「そのコロニーの方は、移動して来たんですよね?」
「はい。
話では、博打みたいなものだと言っておられました」
「博打なみに自身の命をかけて、他のコロニーを救いに来るなんて、すごい人たちだ」
率直な感想をこぼした俺に、福原が意味深な笑みを浮かべて見せた。
「違うんですか?」
「まあ、そこに行ってみれば、ヒントがあるだろうな」
福岡は俺にそう言うと、有吉に視線を戻した。
「いいでしょう。
我々がお送りしましょう」
福原の言葉で、このコロニーの中にいた数十人の人は、部隊の軍用車に分乗し、ぎゅうぎゅうづめで、そのコロニーに向かう事になった。
他のコロニーの人を救済しようと言うだけあって、そのコロニーは大きかった。そして、その内部に田畑を有していた。
「田井のコロニーに似ている」
コロニーの中に車を入れた時、最初に俺が漏らした言葉はそれだった。その理由は、広大な田畑だけではなく、遠目に見える働いている人々の痩せた姿も重なっていたからだ。
「いい観察力だ」
福原がまた意味深な笑みを見せながら、俺に言った。
上本が運転する車が、元々は町の庁舎だったらしき5階建ての建物の前にあるロータリーに停車すると、後続の車も停車した。俺たちの車のすぐ後ろの車に乗っていた有吉が、俺たちのところに駆けよって来た。
「ありがとうございました」
そう言った顔には安堵の表情と言うより、痩せこけた人々の姿に不安を感じているようだった。
「いや。
ここの人たちと話しを通すまで、ご一緒しますよ」
福原はそう言うと、沢井と武本と俺に目配せをした。
5階建ての建物の中、俺たちが案内されたのは元々の町長室ではないかと思われる二十畳ほどの部屋だった。
立派な木でできた机の前に置かれた応接セットに、福原と有吉が腰を下ろし、その背後に沢井、武本と俺が立ち、テーブルを挟んだ向こうに腰かけているのは、50代半ばと思しき、ちょっと小太りな男だった。
「そうですか。
日本軍の方が、有吉さんたちを連れて来てくれたんですか」
普通、自国の軍を日本軍と言うだろうか?
それにほんの僅かだが、発音に違和感がある気がして、名乗りもしない男を見つめていると、福原がそこを突いた。
「で、あなたたちは、この国の者ではないですね?」
男は一瞬、固まったように沈黙したが、作り笑いを浮かべた。
「よく分かりましたですね。
我々は観光で来ている内に、この国の騒動に巻き込まれたんですよ。
あなたたちには、外国から来た我々を保護する義務がある」
「確かに、そうかも知れませんが、ここのものはあなたたちに所有権は無いはずでは?」
「ここの所有者の方たちから、任されているのですよ」
「では、その証拠を見せてもらえますか?」
「そのような権力は、お持ち合わせではないはず。
我々のコロニーの運営に口出しは止めてもらいたいですな」
「いずれにしましても、あなた方が総ての権利を持っていると言うのは、あり得ない話です。
少なくとも、外で酷使されている人たちの改善のため、私たちの方で介入させてもらいます」
「そんな権利はないはずだ」
ここを治めている男は怒りの形相で立ち上がり、福原を睨み付けた。
「本性を見せますか?
その方が解決は速いのですが」
「な、な、何の事だ。
我々はただの民間人。観光客だ」
男はそう言い終えると、俺たちを置いて部屋を出て行った。




