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Pandora(改稿版)  作者: あすか@お休み中
第3章:鋼鬼狩りの俺は最強剣士……かな
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国連軍

 俺の父親はこの近くにある会社に勤めていた。そこの事業の一つは軍需に関連していて、俺のレーザーソードも、そこに試作品だ。父親とは鋼鬼が現れたあの日の夜以来、会っていない。と言うか、安否すら分かっちゃいない。

 軍の車両で、ここまで来た以上、俺的には、その会社の状況を知りたい。

 そして、軍をそこに連れて行く餌も、俺にはあった。


「福原さん」


 俺は実はかなり私的な欲求であるにも関わらず、神妙な顔つきで、福原にそう呼び掛けた。

 崩落した壁を修復している作業に目を向けていた福原が、振り向いた。


「俺が持っている、この武器に興味あります?

 これはこの近くの会社で作られた試作品なんですよ」

「どう言う事だ?」

「この近くに、五丸電機ってありますよね?

 そこに勤めていた俺の父親が試作中だったものなんですよ。

 そこに行けば、もしかすると、この武器がもっとあるかも知れません」

「そう言う事か。

 壁の修復をやっている内に、一度行ってみると言うのは、ありかも知れないな」


 福原のその言葉に、俺は心の中で、よっしゃあ! と、力を込めた。



 俺の父親が務める五丸電機の工場に向かうメンバーは、福原、土居、そして土居とペアを組む武本と俺だった。


「なあ、武本、お前、ずっと沢井さんと組むのか?」


 揺れる軍用車の中で、武本にそう言ったのは、沢井とペアと言う関係を崩したいと言うのが本音、建前が友達の身を按じてと言うところだ。


「当たり前だろ。

 お前も、俺たちの成果を見ただろ?」


 得意げな表情の裏には、天使のような沢井と俺以上に親しい仲だと言いたげな感じられた。


「だが、お前は、大事な事に気づいていない。

 俺はお前の身を按じているんだぞ」


 俺の意味深な前ふりに、武本はちょっと驚いた顔になった。


「いいか。

 沢井さんとペアを組んで、まるでお前が人並み外れた能力を示していると、お前が直接狙われる事もあるんじゃないのか?

 いつも沢井さんと一緒と言う訳じゃないだろ?」

「どうすればいいんだよ」


 武本はマジで動揺している。ペア解消しかないだろうと言う言葉を吐こうとした瞬間、沢井が予想外の事を口にした。


「じゃあ、寝る時もずっと私と一緒にいる?」

「えっ?」


 その言葉に、思わず俺は目が点になり、武本はいやらしい事を想像したのか、ごくりと唾をのみ込んだ。


「冗談に決まってるでしょ」


 天使のような容姿と強さと冷徹さを持つこの子は、その手の発言もできるらしい。ちょっとした親近感を抱き、いつかは俺のものにできるのではなんて、妄想を抱きそうになっていた俺の横で、うれしいそうな笑みを浮かべている武本はきっと俺以上の妄想の世界に浸っているに違いなかった。


「武本君、安心していいよ。

 私が守ってあげるからね」

「う、う、うん」


 そう頷く武本は完全に誤解していそうだ。だが、ここのところ守る側と言う使命感のようなものに囚われていたが、ちょっと沢井になら、守られてみたいと思わずにいられなかった。


「と、言う訳だ」


 武本が嬉しそうに俺に顔を向けて言った。ちょっと嫉妬心を抱かずにいられないが、沢井が武本に恋愛感情を抱いているとは思えないので、この話は折れる事にして、軽く返す事にした。


「そっか」



 そんな会話を交わしている内に、それほど遠くなかった俺の父親の会社に、車は到着した。


「ナビではこの壁の奥ですね」


 上本がそう言ったのは、巨大なコロニーを取り巻く急造したと思える壁に、道路が遮断された場所でだった。

 福原たちも、俺も、フロントガラス越しの光景とナビのマップの間で、視線を行ったり来たりさせて、状況を確認している。

 ナビのマップ上はこの壁の向こうにも道路は続いており、その先に目的の会社は存在していた。この壁の先には鋼鬼のいない隔離された世界が広がっており、俺の父親は無事だと言う事が想像できるこの現実は、俺を高揚感に包み込んだ。


「入り口を探して、中に入ろう!」

「待て。

 あそこを見てみろ」


 今にも飛び出しそうな勢いで言った俺の言葉に、福岡が否定的な言葉で返して来た。

 福岡の言葉に目を向けると、壁の所々にUNの旗がはためいていた。


「どう言う事だ?」

「この先は鋼鬼ではなく、本当の敵の手に落ちていると言うことだろうな」

「じゃあ、俺の父親は?」

「ここからでは分からないな。

 とりあえず、ドローンを飛ばしてみよう」


 福岡の言葉に、沢井と上本が車から降り、沢井の警護の下、上本がドローンを飛ばす準備に入った。


「こんな時は、残念だけど、武本のする事は無いよな?」


 そう言い残して、俺も上本の警護のため、レーザーソードを起動し、沢井の背後に背中合わせにして立った。

 信じあえる友同士が、お互いの背中を預ける。そんな構図を作り上げ、ちょっとうれしくなった俺の耳に、沢井のちょっと冷たい言葉が届いた。


「くっつきすぎ!」

「はい」


 一歩前に出て、沢井との距離をとった時、車の中でそんな俺の事を笑っている武本の姿が目に入った。


「準備できました」


 上本がそう言い終えた時には、ドローンは地上から飛び立ち始めていた。

 福原が俺たちのところにやって来た頃には、ドローンは目の前の壁の高さまで上昇し、壁の向こうに飛び越えて行った。そのドローンが映し出した壁の向こうの光景に、俺たちは神経を集中させた。


 多くの人が、壁の向こうにいた。

 彼らの行動に不穏なものはなく、鋼鬼は壁の向こうには存在していないらしいのだが、多くの一般人と混じり、銃器らしきものを持った迷彩服の軍人らしき者たちが存在していた。

 ドローンの存在に気づいた人々が、空を見上げ、一部の者は銃を構え始めた。

 耳に届く銃撃音と共に、ドローンに向けられていた銃口から飛び散る火花と硝煙がカメラに映し出された。完全に撃墜しようとしている動きに、上本がドローンの高度を上げながら、移動を始めた。

 地上に配置された多くの軍用ヘリ。からのコロニーに訪れたものと同じものだ。

 それに気づいた所で、映像は終了した。ドローンが撃墜されたのだろう。


「一旦引くぞ」


 福岡の命令で、沢井や上本が軍用車に向けて、走り始めた。

 俺たちが車に飛び乗った頃、銃器を持った兵らしき男たちが飛び出してきて、何か喚いているようだっだが、アクセルを踏み込んだエンジン音にかき消されて、聞き取れないでいた。

 上本はアクセルを踏み込んだままで、ぐいぐい加速して、その場を離れて行った。


「あの中はどうなっているんです?」

「いずれ分かる事だろうから、話しておこう。

 おそらくだが」


 福原はそこまで言って、言葉を止めると、俺たちをじっくりと見渡した。


「今の世界は簡単に戦争を起こして、敵国を壊滅させればいいと言う訳じゃない。

 それで済むなら、核を搭載したミサイルで事足りる。

 まあ、他国とほとんど関係を持っていない北朝鮮なら、取り得る手段だろうが、普通の国はそうはいかない。

 その相手が、我が国となればなおさらだ。

 我が国を吹き飛ばしてしまえば、自国の経済も混乱してしまう。

 だから、奴らは我が国をそのまま手に入れる方法を考えた訳だ」

「それがこの鋼鬼たちであり、国連軍?」

「そう言う事だが、我が国は国連軍を拒否した。

 そして、我が国のかろうじて存在する政府の要請により、あの国の狙いを知ったアメリカが海上封鎖した事で、やつらの目論見は外れた事になる。

 すでに上陸してしまっている偽装国連軍は、増援はもちろん自国に引き返す事もできなくなっている。

 つまり、この国から人を含めて、何かを持ち出す事はできないと言う事だ」

「なら、俺の父親もあの中で、生きていると言う可能性が高いと考えていいんですね?」

「おそらく。

 奴らにはこの国の技術と、生産設備をそのまま取り込む必要があった。

 観光客を装った者たちを大量に我が国に送り込んでおいたのは、単に自国民保護を理由に国連を動かすだけではなく、押さえておくべき設備や技術者たちを確保する狙いもあったはず。

もっとも、日本政府が国連軍を拒否したり、アメリカに海上封鎖されることは想定していなかったはずで、自国の経済混乱を抑えるためにも、この状態を早く解決したいと考えているはず

 とにかく、我々も急いだ方がいいだろう」

「なら、さっさとこの国から鋼鬼を駆逐して、国連軍も追い出しましょう」


 鋼鬼は敵。この鋼鬼を作り出した者たちも敵。

 この敵を殲滅させる事だけが、今の俺の目的だったが、父親を取り戻すと言う新たな目的ができた。必ず実現してみせる。そんな思いを固めた時、その時、俺は父親にどんな顔で、謝らなければならないのだろうかと言う、別の思いがこみ上げて来て、両手の拳をぎゅっと握りしめながら、俯いてしまった。

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