異国の兵たち
福原が部下を連れずに田井の下にやって来たのは、この男が大陸の国家とつながっていると疑っていたからだったらしい。そして、捕らえた田井から福原が聞き出したところによると、やはり沢井が倒した銃器を構えた男たちは大陸の兵たちだった。その大陸の兵士たちは他のコロニーにも散らばっていると、田井は言った。
そんなコロニーの中の一番近いコロニーに、福原は今度はなぜだか沢井を乗せずに、後続車に兵士たちを引き連れて向かっている。
このコロニーを統治しているのは鋼鬼が現れる前に、この県を治めていた空正人と言う人物だ。当時から軍嫌いで有名な人物のコロニーに、車両の外目からは兵たちが乗っているとは分かりづらいとは言え、多くの兵士たちを引き連れて向かうなんて、福岡は挑発的と言わざるを得ない。
俺たちが乗る先頭車両が空のコロニーの前に停車した。
「お前たちは何者だ」
コロニーに通じる門の横に立つ見張りの塔の上から、男がたずねてきた。
「第43普通科連隊の福原だ。今、首都に向かっている途中で、少し中で休憩させてほしい」
軍嫌いの男が統治してると言うのに、大胆に自分の身分を名乗った福原に驚いていると、なぜだかコロニーの門が開いた。
「軍嫌いなはずなのに、どうして入れてくれるんだ?」
「修君。嫌いな相手をどうするかと言うのは、人によって違うんだよ。
嫌いな相手を避ける者もいれば、嫌いな相手を打ち負かしたい者もいる訳さ」
「打ち負かすって、軍をですか?」
「ははは。軍嫌いな男が武力で戦ってくる訳ないだろ。
言葉で戦ってくるのさ」
福原と話している内に、俺たちの車は二重の門をくぐり抜け、コロニーの中に入っていた。
「どの面下げて、やって来た!」
「鋼鬼を作り出したのはお前たちだろ」
さすがに軍嫌いの男が統治するだけあって、ここの人たちの軍に対する拒絶反応も激しく、今にも車のボディに殴りかかって来るんじゃないかと言うほどの迫力で、罵声を浴びせてくる。しかも、そんな人たちが続々と集まって来て、俺たちの車は身動きがとれなくなってしまった。後続車両の一部はコロニーに入れていないはずだ。
「戦争反対!」
「軍なんてものがあるから、人が死ぬんだ!」
ますます騒ぎ立てながら、俺たちを取り囲む壁のようなコロニーの者たちが、モーゼの出のように、人の山が二つに割れ、騒ぐのを止めた。人の山が割れ、開けた空間に見える60代の風格の背の高い男は見たことがある。こいつが空だ。
早速の親分の登場らしい。
「この国をこんな事にしてしまった詫びを入れにでも、来られたのですか?」
両手を少し後ろに下げて、胸を突き出すようなポーズで、空が言った。
「そうだ、そうだ。
俺たちの前で、土下座して詫びろ」
俺たちを取り囲む群衆は空の前で、いいところを見せたいのか、それとも空を見て興奮しているのかは分からないが、過激さを増してきていて、その表情は見下すような者や、睨み付ける者、怒りの表情の者など様々だが、完全に俺たちの味方はいなさげだ。
それに臆した訳じゃないだろうが、福原も土居もじっとしたまま車の中に閉じ籠っている。
「お詫びに来たにしては、車から出て来られないですね」
俺たちが乗る車のボンネットの直前に立っている空の嫌味が聞こえてきた。
「前にも後ろにも進めなくなったが、どうするんだ?」
「待っているのよ」
いらだち気味の俺の問いに答えたのは土居だった。
「何を?」
「お楽しみってやつよ」
にんまり気味に言った土居の言葉は答えになっていない! って言うか、答える気無し。
そんな時だった。俺たちを取り囲む群衆の壁の背後が騒がしくなってきた。群衆たちも背後に目を向け始めている。ここの大物 空はすでに登場済みだ。次は何だ?
群衆たちの向こうから現れてくるものを確認しようとしていた時、土居と福原が車のドアを開いた。群衆のどよめきに交じって届けられる銃撃音。
「お前たち、何をした」
「兵たちを別の場所から入れたな!」
車を降りた福原たちに群衆の怒りが向けられている。これを待っていたとなると、福原たちは彼らが言うように、どこかから中に入れなかった兵たちをここに入れ、銃撃をしている事になる。問題はその銃口が何に向けられているかだ。
「私たちはそんな事しませんよ」
福原はそう言ったが、誰も信じちゃいない。福原たちに群衆の一部が襲い掛かるのではないかと近づき始めた時、今度は背後から銃声がした。振り返ると、福原の兵たちが後続の車両から出て、銃を手にしていた。
前と後ろからの挟み撃ち? 軍嫌いの市民たちとは言え、全面衝突する気なのか?
福原はいったい何を考えているんだ?
兵たちが走り寄り、福原たちの近くに並んだ。
「俺たちを殺す気か?
これが軍の正体だ」
空が後ずさりしながら、俺たちを指さしながら、後ずさりしている。が、その背後だって、銃撃音が止んでいない。雪崩を打って、群衆が逃げはじめ、視界が開けた先には一人の少年の姿があり、その彼を何人もの兵士が追っていた。止む間の無い銃撃音の中、逃げ続けている少年の背中の向こう側から、長く一つに束ねられた茶色の髪が左右に揺れて姿をのぞかせている。
武本?
なんで?
武本を見つめる俺の横を福原の兵士たちが駆け抜けて行く。
「俺たちを殺す気だぁ」
「逃げろぅ」
群衆たちが算を乱して逃げ出し始めたため開いた進路を兵士たちが駆け抜けて行く。
「ってぇぇぇ」
指揮官らしい男の合図で、福原の兵たちが銃撃を始めると、武本を追っていた兵たちが鮮血をまき散らしながら、一人を除いて倒れて行った。たった一人生き残った兵は手にしていた銃を手放し、両手をあげて、降伏のポーズをとった。
味方ではなかったのか? としたら、これも大陸の兵士なのかも知れない。
「捕らえろ」
福原の言葉で男を捕らえると、福原が叫んだ。
「このコロニーに暮らすお前たちに問う。
この男は日本語を話せぬようだが、そんな兵がどうして、お前たちのコロニーの中にいる?」
逃げるのを止めた群衆たちの多くはその答えを持っていないと言うか、その事実を信じ切れていないようで、お互い顔を見合わせては戸惑いの表情を浮かべている。
「空はどこに行った。
答えてみよ。
軍は嫌いではなかったのか?」
福原の言葉に辺りを見渡して空の姿を探してみるが、騒動が起きる前には群衆の先頭に立っていたはずのその姿がない。見渡していると、群衆を掻き分けて、空が姿を現した。あの騒動の中、もしや群衆の山に身を隠したのか? と言う疑念がわいてくる。
「お前たちと一緒にするな。
軍にも悪い軍とよい軍がある。
帝国主義的な軍とは違い、人民の軍はあってもいいのだ」
「あのう。
高校生の俺でも、それ変だと思うんだけど」
論戦好きと聞いてはいても、空のとんでも発言に口を挟まずにはいられない。
「子供だから、分からないんだ。
歴史を勉強しなさい」
「どんな?」
「かつて帝国主義国家の軍隊が世界を蹂躙したではないか」
「えぇーっと、じゃあポーランド侵攻とかプラハの春への軍事介入とか、チベットやウイグルの問題はどうなるんだ?」
「それは解放だ!」
「まあ、そう言う事だ。
話し合って分かり合える者じゃないんだよ」
福原が俺の肩にポンと手を置きながら言った。
「負けそうになったので、逃げたな」
「て言うか、論理的な話する能力無いんじゃないの?」
息巻く空に言い返した時だった。頭上からエンジン音が聞こえてきた。
視線を空に向けると、迷彩色を施した一機のヘリが近づいてきつつあった。
今、この国の制空権は軍には無い。UNを騙る大陸のヘリに違いなかった。




