暗殺
「どう言う事、もっと情報はないの?」
桐谷が報告に来た男に、大声で言った。その表情は強張り、つかめない事態に焦りの色を浮かべていた。
「軍からは大統領が暗殺されたらしいとしか」
「明日は治安維持特殊部隊の解散を正式発表するはずだったじゃない。
それなのに、そんな事件が起きるなんて。
誰が、何の目的で。
TVをつけてみて」
桐谷がそう言いながら、電話を手にした。
男は部屋の片隅に置かれているTVのスイッチを入れた。
事件が事件だけに、その話が事実なら、緊急のニュースが流れるはずだが、TVの画面にはただのドラマが映っているだけだった。
男がチャンネルを変えていくが、どのチャンネルにも平穏な時が流れている。
ガセ?
そんな思いで、テレビの画面を見つめながら、電話を耳に当てている桐谷の電話がつながった。
「桐谷くんか。
とんでもない事になった」
「聞きました。ですが、もっと詳しい情報はないのですか?」
「今、調べさせているが、詳しい事は分かっていない。
超人部隊の廃止に反対する勢力に先を越されたと言う可能性もある。
だが、犯人は警護についていた治安維持特殊部隊の隊員だと言う話も届いている。
それが真実なら、我々は超人たちに裏切られた。
そう考えるのが自然かも知れん」
「そんな」
「いずれにしても、超人たちの事と関係しているとしたら、私たちがこのままで済まされるとは思えない。
私たちの事が、どこまで掴まれているのか分からないが、気を付けた方がいい。
しばらくは連絡も控えよう」
「分かりました。では」
桐谷が電話を切った時、テレビの画面に緊急速報が流れた。
「10時32分頃、柴田大統領、暗殺」
桐谷がその字幕に目を向けながら、スマホを手にして、原田に向けてメッセを送った。
「至急、連絡を」
その内容に、原田はすぐに反応した。
「先生、気分が悪いので、保健室に行かせてください」
手をあげ、辛そうな表情を原田は作っていた。
「保健委員は誰だ?」
「大丈夫です。一人で行けます」
「そうか。なら、行って休んで来い」
「すみません」
そう言って、よろける仕草をしながら、席を立って歩き出した。
「大丈夫なのか?」
聡史のかけた言葉に、軽く頷き返した。
廊下に出た原田は、さっきまでとは一変した速さで、トイレに駆け込んだ。トイレに並ぶ個室に誰もいない事を確かめると、原田は桐谷に電話をかけ始めた。
「原田です」
「大変な事になったわ。
大統領が暗殺された。
犯人は警護についていた超人の可能性もあるらしいわ」
「そんな。
じゃあ、私たちは柏木たちに裏切られた?」
「分からない」
「どうしたらいいのですか?」
「ごめんなさい。
どろどろした事には私、疎いの。
これまでの経緯から説明して、かわ、じゃなかった。岡田君に聞いてみてくれない。
あの子の方が、どろどろした事には慣れていそうだから。
彼に至急下足箱の所に来てくれるようメッセ送っておくから」
「分かりました」
電話を切った原田は、トイレを出ると下足箱を目指した。
授業中。照明は消されていても、外から差し込む陽光で、それなりの明るさが確保された空間。そこに原田がたどり着いて、数分ほどで岡田兄は現れた。
「君の事は知っている。
緊急事態ってなんなんだ?」
岡田兄の言葉に、原田がこれまでの組織の計画と、大統領暗殺の話を要点を絞って語った。
「で、どうしたらいいのかは、岡田先輩に聞けって」
岡田兄はその言葉に疑問を唱える事も無く、真面目な顔で話し始めた。
「まずは、超人少女たちが裏切ったのかどうかだが、クラスの超人たちに妙な動きは無いんだろ?
俺のクラスの超人たちも普段通りだ。
それから言って、あの子たちは裏切っていないだろうな」
「よかったぁ」
「全然、よくない。
今、ここにいる子たちが組織的には裏切っていないと言う意味でしかない。
柏木は教室にいた?」
「はい」
貴明がスマホを取り出して、時刻を確認した。
11時15分。
「休憩時間になったら、すぐに3階の非常階段の踊り場に来るよう、柏木に伝えてくれ」
「それだけで、いいんですか?
私たちはどうすれば」
「桐谷さんに直接話しておくよ」
「分かりました」
そう言って頷き、立ち去って行く原田の後ろ姿を見届けると、岡田兄はそのまま非常階段の踊り場に向かって行った。




