表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Pandora(改稿版)  作者: あすか@お休み中
第2章:反逆の少女たち
65/107

落ちていた制服のボタン

 体のいくつかの部分を失い、血の海に沈んだ優の意識はもはや無かった。


「一刻を争うと思うんだが、まだ協力すると言わない気かい?」


 男がそう言った時、超人たちに破壊されたリビングの窓を通って、別の男が現れた。

 制服姿の男子高校生。


「なんだお前?」


 男がそう言って、優に大けがを負わせ、もうする事を無くしていた超人に合図を送った。

 超人は余裕をかませ、ゆっくりと歩いて男子高校生に近づいて行き、その前でにやりと笑った。


「お前、邪魔。

 死ねや」


 それがその超人の最後の言葉だった。

 優の状態に動揺していたせいもあって、未来も何が起きたのか、はっきりとは分からなかったが、超人は突然崩れ去るかのように、ガラスの破片に埋め尽くされたリビングの床に倒れ込んだ。


「な、な、何をした。

 何が起きた?」


 政府側の超人でもないかぎり、無敵と思っていた超人の呆気ない姿に動揺した男が、狼狽気味に言った後、未来を捕まえていた超人に向かって指示を出した。


「やれ!」


 その瞬間、体を束縛していた超人がいなくなり、力の抜けた未来の体は重力に屈し、リビングに膝をついた。

 未来が四つん這いになって、優に駆け寄る。

 その背後で、ガラス片のシャリシャリした音に混じって、何か大きな物が倒れる音がした。


「な、な、何者だ。お前」


 優の事を気にしつつも、振り返った未来はリビングの床に転がる二人の超人と、真っ青な顔で怯えている男の姿を見た。


「うおー」


 雄たけびを上げて、男子高校生に向かって行った男が、高校生の制服を両手でつかんだ瞬間、男子高校生に鳩尾に拳をねじ込まれていた。

 助かった。

 その光景にそう確信を抱いた未来はリビングに横たわる優を抱きかかえ、名を呼び続けた。


「優君、優君」


 未来は優をどうすれば助けられるのか、と言う事だけに思考を振り向けた。

 答えはすぐに出た。

 まずはすぐに病院で止血などの治療をしなければならない。

 が、それだけでは不十分。

 超人にもぎ取られ、損壊してしまっている優の体は元に戻らない。

 戻すためには、超人の技術を使うしかない。

 私的流用。そんな事は許されない。

 ばれれば、自分だけでなく、優もただではすまない。


「大丈夫ですか?

 救急車を呼びましょうか?」

「お願い。私の車に、この子を運ぶのを手伝って」


 お礼を言う余裕も、どこの誰なのかも、どうして助けに来てくれたのかも聞く余裕もなく、未来はその高校生に頼んだ。

 未来は車に優を乗せると、前大統領時代、反政府運動に参加して怪我を負った者たちをひそかに治療していた裏社会の医者の下に運び入れた。

 そして、優の容態が安定したのを確認すると、自分が勤めているセンターから、超人を生み出すウィルスを持ち出し、優に使用した。

 未来は自分のやった事はいずればれると考えていた。

 ばれた場合、その追求と被害が優に及ぶ。

 それに備えて、未来は優に別人の名前と住民のデータをあてた。

 中島聡史。高1。

 中島本人も、その家族の安否も分からない。

 この国では分からないとは、すでに死亡している事を意味していた。


「なるほどね。

 で、今の話で、いくつか聞きたい事があるんだけど。

 まず一つ、小鳥遊君はその男子高校生の正体を知ってるの?」

「とりあえず、小鳥遊とか優と言う名前は避けてくれないか」

「分かったわ。中島君。

 で、正体は知ってるの?」

「分からない。ただ、姉貴は部屋の後片付けをしている時に、これを見つけたらしい。

 その男子高校生の制服のボタン以外ありえない。

 超人や男と戦った時に外れて落ちたんだと思う」


 聡史が制服のポケットから、あのボタンを取り出すと手のひらに乗せて、柏木の前に差し出した。

 柏木が目を凝らして、そのボタンを見た。


「うちの学校のボタンね。

 つまり、その男子高校生はうちの生徒って訳ね」


 柏木の言葉に、聡史が頷いた。


「で、その子に会いたくて、うちに転校してきたの?」

「ああ」

「で、その相手には会えたの?」

「俺はその人物の顔を見ていないし、手がかりはこのボタンだけだから、確証がない」

「確証はないけど、候補はいる訳だ。

 で、誰?」

「岡田先輩」


 その言葉に柏木の表情は曇った。


「確かに岡田先輩のボタン、一時無くなってたし」


 柏木の観察力と記憶力に一瞬感心し始めた聡史だったが、恋する乙女と言う仮定が正しければ、当然な事だと思い直した。


「岡田先輩が普通の人じゃなかった事を考えたら、その可能性は高いわね。

 だとすると、岡田先輩は梶原先生の仲間と言う可能性もあり?」

「分からない。ただ、同じような武器を持っているのは確かだろうな」

「本人に聞くしかないか。

 で、中島君がその人に会いたいと言う目的は?」

「それは」


 言葉を止めた聡史に、何? 的な視線を柏木は向けていて、答えないと言う選択肢を選ばせてくれそうにない。


「姉貴を救い出すのに、協力してくれないかと。

 何しろ、テロリストたちを瞬殺する力と行動力を持った人物だ。

 相談とかにも乗ってもらえそうだし」


 本音の奥深くは隠して、表面的な事だけを話した。


「小鳥遊さんを助け出すって、どう言う事?」

「姉貴は俺に超人の技術を使った事がばれて、政府側に捕えられてしまっている」

「どうして、そう思うの?」


 聡史の力のこもった言葉に対し、柏木はきょとんとした表情で、全く聡史の言葉を信じていなさそう口調で言った。


「行方不明だし、俺に連絡が全くない」

「ただ、連絡してこないだけかも知れないじゃない。

 だって、そんな事を本当にしたってばれてたら、命だって危ないと思うんだけど」

「姉貴は言っていた。

 姉貴は一人でひっそりと所長直轄の特別な任務に就いていた。

 開発コード“希望”と言うものの再確立。

 だから、何かあっても、すぐにどうこうされる確率は低いかもって。

 それでも心配なんだ。急がなきゃ」

「“希望”?」


 聡史の最後のフレーズには緊迫感があったはずだが、柏木はそこには触れず自分の興味のある言葉を疑問形で口にした。

 聡史が自分の気迫が伝わっていない事に、少し気落ちし、勢いを無くしたテンポで柏木の問いに答えはじめた。


「事件の後、預けられた姉貴の日記によるとだな」

「日記?

 お姉さんのを読んだの?」

「俺に知っている事を伝えたくて、渡したんだと思う。

 中は日記と言うより、業務ノート。そんな感じで、書かれているのは全て仕事の事ばかりだった」

「なるほどね。

 で、それで?」


 聡史は日記に書かれていた話を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ