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Pandora(改稿版)  作者: あすか@お休み中
第2章:反逆の少女たち
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始まった戦い

 正門が閉じられる時間が近づいていると言うのに、登校してくる生徒たちがまだまだいる中、校庭の片隅で柏木達は岡田妹を取り囲んでいた。校門から校舎を目指す生徒たちは、そんな柏木たちに視線をちらりと向ける事はあっても、そこで大きな事件が起きようとしているとは思ってもいない。


「本当の事を言いなさい。あなたは何なの?」


 柏木の言葉など聞いていないかのように、岡田妹はぶつぶつつぶやいている。


「私は普通。私は普通」


 俯き気味で、視線はさ迷い気味。動揺している事が誰にも分かる。


「止めろ」


 妹の危機に駆けつけて来た岡田兄の声が轟いた。

 兄の声に反応する事も無く、つぶやき続けている妹の所に、駆け寄ろうとした岡田兄の進路を塞ぐように超人たちが立ち並び、壁を作った。

 進路を阻まれた岡田兄が超人たちの壁の数m前で立ち止まった。

 岡田兄を連れて来た聡史に続いて、柳や棚橋も校庭に出てきていて、少し離れだ場所で成り行きを見守っている。


「理保に何をしている?」


 岡田兄の声には怒気が含まれている。


「岡田先輩、教えて。

 この子は何なの?」


 返す柏木の声には、恫喝も怒りもなく、ただ戸惑いだけが現れていた。


「俺の妹だ」


 真面目な顔。いや、怒り気味の顔で、そう返した岡田兄に、聡史は緊張の糸を切らせ、吹き出しそうになった。


「そんな事、聞いてないと思うが」


 あえて、その言葉は出さずに飲み込んだ時、聡史は背後から近寄ってくる人の気配を感じ、振り返えると、原田が息を切らせて、走り寄ってきていた。

 その時、聡史はそのはるか後方、旧校舎の壁際でたたずみ、こちらを見ている梶原の姿にも気付いた。


「やっぱ、はめられたんじゃないだろうか?」


 心に不安がよぎる。と言っても、一体何を梶原が狙っているのかは分からない。だが、あの事件の時と同じ、聡志は梶原の手のひらの上で踊らされている気がしてならなかった。


「俺の予感が当たっているとしたら、梶原は超人を倒す事が出来る。油断は禁物」


 聡史がそう頭の中で、自分の心を引き締めた時、原田も聡史のところにたどり着いていた。


「そんな事、聞いてるんじゃないよ。

 誤魔化そうって事?

 理保ちゃんの治癒能力は普通じゃない。

 それに、それに」


 柏木の言葉はか細くなって、消え入った。


「何なんだよ。何でもいいから、理保を離せ」

「だめよ。あなたたち、二人とも超人だって聞いたんだから。

 本当は、あなたたちが白木さんたちを殺したって聞いたんだから」


 絶叫気味の柏木の声が終わった時、岡田兄の左の人差し指に一筋の血が浮かんでいて、さっきまでは誰もいなかった岡田兄の横に、一人の超人の少女がカッターを持って、立っていた。


「ど、ど、どうなの?」


 柏木の声は何か怯えている。真実を知りたくない。そんな感じだ。

 少女が岡田兄の左手の人差し指を確認し、厳しい顔つきで柏木に答えた。


「カッターで切った傷が、治っています」

「やっぱり」


 そう呟いた柏木は肩を落とした。

 一方、聡史の目は見開いた。


「ねぇ。教えて、白木さんたちを殺したのがあなたたちだって言うのは本当なの?」


 柏木はそう言って、岡田兄をじっと見つめた後、聡志がいる事に気づいていたらしく、視線を聡史に移した。


「中島君、言ったよね。岡田先輩があの時、体育館にいなかったって」

「あ、あ、ああ。あれは俺の思い違い」


 でまかせ。正直にそう言う事はできなかった。

 しどろもどろの聡史から、柏木は視線を岡田兄に戻した。


「教えてよ。あなたたちの正体。でなきゃ、私」


 岡田兄に向けられた柏木の言葉はすがろうとしているかのようだ。


「何をしているんだ」


 大きな事件が起こりそうで起こらないもどかしい状況の中、梶原の声がした。

 旧校舎のところにいたはずの梶原が、原田のすぐ後ろにまで、近づいて来ていた。


「梶原先生」


 柏木の声は戸惑い気味だ。


「俺の言ったとおりだっただろう?

 さっさと、この二人を倒した方がいい」

「先生、どう言うつもり?」


 原田が真っ赤な顔で、梶原に食って掛かった。


「しかし、まだ先生の話、全てを信じきった訳じゃ」

「なんだ、俺の話が信じられないのか?」


 柏木にそんな言葉を投げかけている梶原の頬に、原田がビンタを飛ばそうとした。

 その腕を梶原がかしっと掴んだかと思うと、後ろ手にねじ上げた。

 あがいても身動きの取れない原田の頭上越しに、梶原はじっと柏木の反応を見ている。


「だって」


 苦悩を浮かべた表情で、柏木が言った。

 聡史も腕をねじ上げられている原田も存在しないかのように、二人だけで会話が進もうとしている。


「俺の言葉は君たちを率いている大橋所長の言葉だと思え」

「どう言うことよ?」


 梶原の言葉に絶叫気味に反応したのは原田だった。

 体をよじって梶原の手から逃れようとしているが、大の男と少女では力の差がありすぎて、状況に変化など起きようもない。


「先生は所長の?」


 柏木が驚きの表情を浮かべながら言った。


「ああ。そうだ」

「そんな事、信じられない。だって、それなら、白木さんたちが殺された報告の時に、先生の話があってもいいはず」

「信じられないのか?

 鳥居七海」


 梶原が柏木と不仲な少女の名前だけを言った。


「えっ?」


 柏木がその言葉の威力に圧されるかのように、数歩引き下がった。


「先生。本当に?」

「何度言ったら信じるんだ。

 ずっと隠し続けてきた鳥居が本当は君たちの仲間だと知っている俺は、当然、君たちの仲間だ」


 鳥居が柏木たちの仲間。

 聡史と柳、棚橋が慌てて鳥居の姿を探したが、この場に鳥居はいなかった。


「この嘘つき!」

「さあ。倒すんだ。かかれ!」


 原田の叫ぶような声と、梶原の言葉が重なった。

 梶原の声の方が断然大きかった事と、みんなの意識が梶原に集中していたため、少女たちの頭の中に届いたのは梶原の言葉だけだった。


 梶原の声に、超人たちが岡田兄妹に向かって行った。

 岡田妹の右腕を背後からねじ上げる少女。

 岡田妹の首を締め上げるもう一人の少女。

 別の少女たちは岡田兄に向かった。

 そんな中、柏木だけは呆然と立ち尽くしていた。

 戦いは始まった。

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