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Pandora(改稿版)  作者: あすか@お休み中
第2章:反逆の少女たち
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疑惑

 岡田兄が、超人を抹殺できる兵器が載っているHPを見ていた日から、数週間が経った。


 少し大きめのテーブルに桐谷は座っていて、少し離れた場所に設置している複合機に目を向けていた。複合機からはA4のコピー用紙が勢いよく吐き出され続け、その前には一人の男が立っていた。

 せわしなくコピー用紙を吐き出していた複合機が静けさを取り戻すと、複合機の前に立っていた男は吐き出されたコピー用紙を手に取り、桐谷のテーブルの所に戻ってきた。男は手にしていたコピー用紙の束をめくり、2部印刷した報告書を二つに分けると、一つを自分の前に、もう一つを、軽くとんとんと整えて、桐谷に差し出した。

 その報告書の最初のページには結論が、その後には詳細なデータが並んでいた。


「しかし、さすがは軍ね。

 ネットを監視して、アクセスした者の素性を調べ上げる。

 そこまでは予想していたけど、アクセスの時系列データから組織構成の仮説を立て、リアルな社会で監視して、その裏付けまでするなんて」

「我々ではできない事です」


 二人が結論と、それを結びつけるデータ部分に視線を何度も行ったり来たりさせながら言った。


「意外な事が分かるものね。

 最初にあのHPをアクセスした棚橋と鳥居と言う生徒。

 それぞれ意外な組織につながっていたのね。

 原田たちからの報告だけでは、予想もできない事だわ。

 私たち、完全に騙されていたって事ね。

 危ない、危ない。

 原田たちに伝えておかないとね」

「あと、この報告書では服部と言う先生。偽物ですね。こいつは何者でしょうか?」

「そう言えば、原田からの報告で、棚橋と言う生徒がこの先生と何か話した後、あの子にバスケのボールをぶつけた事があったわね」

「原田は絶対に意図的にだと報告していましたですね」

「以前にあの子と面識があって、棚橋に試させたのだとしたら、組織の古株。

 まあ、試してみても、今のあの子じゃ、勘違いと思ったでしょうけど」

「じゃあ、山本の組織のそれなりの人物ですね」

「でしょうね。

 しかし、山本たちの組織もあの学校に手を出さなければ、こんな事にならなかったでしょうに。

 雉もなんとかってやつだわね」

「あと、組織の構成員を割り出せただけでなく、山本たちの本拠地をつかめたのは大きな成果ですね。

 どうしますか?」

「軍が動くでしょう。もちろん、彼女たちの協力を得ながらでしょうけどね。

 中将に頼んで、人を入れましょう。

 研究所のデータ全てを処分できるようにね」

「そこで研究していた人たちはどうしますか?

 データを消去しても、研究者の頭の中には残ってしまいますが」

「中将は私たちの行動の賛同者ですよ。

 あえて言わなくても、分かるでしょう」

「この世から消えてもらう。ですか」


 男の言葉に桐谷はちらりと視線を向けただけで、何も返さなかった。

 まずい発言。そう感じた男が話題を変えた。


「ここまでうまく行くとは」

「何だか、不安になってしまうわね。

 原田の疑惑を晴らした手口と言い、何だか私たちはあの子の手のひらの上で、踊らされているんじゃないでしょうね」

「どうしてですか?」

「あの子は小田先生に、私の事を聞いていたの」

「小田先生?

 超人を生み出す技術を生み出した小田さんのお父さんですか?」

「そうよ。

 あの子は、私が超人を生み出す技術を否定的に考えていたと言う過去の事を知っていて、超人を生み出す技術の封印を持ちかけてきたのよ」

「知っています。なので、今、こうして我々が存在している訳ですよね」


 男の言葉に、桐谷は首を横に振った。


「違うのよね。

 最初は私、あの子の話を断ったの。

 だって、超人を生み出す技術は私的には存在は許せないと言う気持ちは変わっていなかったし、私と悟志さんとの間を切り裂くことになった技術であって、憎む気持ちが無い訳じゃなかったの。

ましてや、最後には悟志さんが、この技術を封印しようとしたと言うのも聞かされたんだけど、この技術は悟志さんがこの世に残した技術でもあったのよね。

 この技術を封印してしまうって事は、何か悟志さんの存在を消し去ってしまう気がしたの。

 それに、そもそも女の私に何ができるって言うのよ。

 確かに悟志さんと同じ研究室だった事もあったけど、それだけで、できる事じゃないのよ。

 超人を敵に回す事になるんだからね」

「じゃあ、どうして、考えが変わったんですか?」

「一つはね。私が超人に襲われたからなのよ。

 二つ目は、あの子から、私の名前を聞いたスポンサーが、私にこの組織を作らないかと言ってきた事。

ちなみに、両親、兄弟たちを殺した超人たちに復讐をと、スポンサーを唆したのも、私を誘うように言ったのも、あの子なの。

 そして、最後が杉本中将の参加なんだけど、スポンサーと中将は遠縁で、中将は以前から反超人派だったんだけど、さすがに国家に忠誠を誓う軍人だから、最初は同意してくれなかったらしいんだけど、中将を政府側の超人が襲ったの。

 中将は無事だったんだけど、彼の部下に死者が出たらしいの。

 この話は公に発表もされていないし、私も詳しい話は知らないんだけどね」

「それで、中将さんもその気に?」

「まだ先があるのよ。

 知っていると思うけど、政府側が開発した超人は女性にしか適用できないと、政府内部では言われているの。

 これは政府側の開発責任者である大橋が、正式に言っている事なんだけどね。

 中将を襲った超人は男だったらしいのよ。

 なので、山本たちの策略か、それとも政府内部の情報に嘘があるかのどちらかだと考えた中将は私の所にやって来て、大橋が言っている事が真実かどうか確かめてくれと言ったの。

 もちろん、何人か分の超人たちのDNAのサンプルを持ってね。

 調べた結果、それは真実ではないと分かったの。

 としたら、大橋がどうしてそんな事を政府内部に言っているのかとか、どうして前面に出てくる超人は少女ばかりなのかと言う疑問に行きつくじゃない。

 もしかすると、実際には男の超人を隠している。それも、政府中枢にも隠して。と言う可能性が考えられるじゃない。

 だから、中将は大橋たちを信用できなくなり、国家に裏で弓を引こうとしているんじゃないかと考えて、中将も決断したの」

「もしも、中将を襲った超人が本当に大橋の超人だったら、中将の懸念は確かに頷けますが、それがそうでなったとしたら、原田や桐谷さんのパターンと同じって事ですか?」


 桐谷は悩ましげに眉間にしわを寄せた表情で頷いてみせた。


「超人と言う存在、それを生み出す技術。その全てをこの世から消し去る事を目的に動いている私たちが言うのもなんだけど、原田への疑いを晴らすために、あの子は躊躇なく超人の少女を一人殺めた訳でしょ。

 もしかすると、あの子は過去にも人を殺めた事があるのかもと思ったの。

 そしたら、何だか私たちの過去が一つにつながるんじゃないかと言う気になったのよ」

「まぁ、可能性としてはあるかも知れないですね。

 ですが、確証はないですし、考え過ぎって気もしますが」

「そうよね。

 考え過ぎ。

 いくら、あの子が彼女を守りたいからって、ね」


 桐谷はそう言って、自分を納得させていた。

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