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Pandora(改稿版)  作者: あすか@お休み中
第2章:反逆の少女たち
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襲われた原田

 薄暗い部屋の中で、TVの画面がせわしなく放つ光の色を変えている。

 その前に置かれた二人用のソファに一人の人物が座っていて、その人物の視線はテレビに向いておらず、手元の白っぽい光を放つタブレットに向けられていた。


「やはり一番疑うべきは原田怜美と入院中の梶原かと。

 後は柏木たちと仲が悪い鳥居七海。

 あの時、体育館からいち早く姿を消した中島聡史。

 ダークホース的な所では、火の無いところにと言う考えで、柏木達が疑っている岡田貴明でしょうか」


 タブレットの画面に映し出されているメールに目を通すと、その人物はぽそりとつぶやいた。


「やはり確証はないままか。

 しかし、政府側でもないとすると、こいつらの目的は何なのか?

 まずは相手が誰なのかと言うところを、犠牲を伴ってでもあぶりだすか」


 そう呟くと、男はタブレットでメールに返信を書き始めた。





 その日、自宅を目指す原田は駅のホームの先に岡田兄妹を発見した。ギブスで固定された左腕のおかげで、離れていても岡田妹を識別できる。当然、その横には兄がいる。

 もっと近づこうか?

 近づいて、話でもしてみようか?

 と言う欲求を感じはしたが、あの二人の間に入って行ける、いや近づいて行く勇気が無い事を自覚し、階段を下りてすぐの場所に立ち、二人と距離をおくと、その距離を保ったまま電車に乗った。

 これまでにも原田は岡田兄妹と電車で一緒になった事があった。


 原田と岡田兄妹が降りる駅は同じである。電車を降りて、改札を目指す原田の先を歩く二人がカップルではなく、ただの兄妹らしい唯一のところは二人の距離である。

 腕を組んでたり、手をつないでいたりはしない。

 ただ十数cmの距離を空けて、横に並んで歩いているだけ。


 原田は接近し過ぎない距離で、二人の後をついて行く。と言っても、つけている訳じゃない。

 駅を降りてからの方向が同じだけである。

 駅で降りた人たちも、少しずつ離れ離れになり、原田の付近の人気と言えば、かなり先を歩いている岡田兄妹だけである。


「兄妹かぁ。私のお兄ちゃんも生きていたらなぁ」


 ぽそりと原田がつぶやいた時、突然視界に一人の人物が現れた。

 原田の目が大きく見開いて、立ち止まった。

 現れ方だけでも、十分超人だったが、原田の学校を襲った時と同じ迷彩服を着ていて、いかにもテロリスト側の超人だと全身で言っている。

 狙いは自分。

 動物的な勘だけでなく、理性的な分析も、そうはじき出した。


「原田怜美だな」


 原田の推測が正しかった事が、超人のその言葉で証明された。

 組織から三体を同時に殺したのはまずかったと言われた事が脳裏に浮かんだ。


 やっぱ、まずったか。

 少しの後悔が込み上げてきたが、今はそんなものは役に立たない。

 原田は、自分が採れる選択肢を思い浮かべていた。


 逃げる。と言っても、相手が超人なら、逃げ切れる訳もない。

 戦う。と言っても、普通では勝てない。

 八方ふさがり。

 そう思った時、超人が言った。


「お前を殺しに来た」


 その言葉に、原田が引きつった顔で一歩後退した次の瞬間、のど元を右手で掴まれていた。

 原田を襲った超人は、余裕の態度で原田の体を持ち上げた。

 喉を掴まれている苦しさで、原田は顔を歪ませ、苦しそうに足をばたつかせながらも、心の中では助かったと思っていた。

 超人の動きは人間では視界に捉える事さえできない。

 人間の手が届かない間合いから、人間に急襲を駆ける事さえ容易な事である。

 人間は殴られた事すら気づかないまま絶命してしまう。

 だが、この超人は原田の間合いに入ってしまった。

 苦しみ、もう打つ手が無いような態度をとりながら、原田はポケットの中から、ちょっと太めのペンのような物を取り出したかと思うと、右手に全神経を集中させ、そこに取り付けられているボタンの位置を探した。


「苦しんで死ぬのは嫌か? うん?」


 超人がにやりとした顔でそう言った次の瞬間、その右手から原田の体が零れ落ちた。

 両膝を地面に屈し、四つん這いで、苦しそうに咳き込む原田の目の前で、超人も崩れ落ちた。


「げはっ。げはっ。はぁ、はぁ」


 苦しげな表情で立ち上がった原田が、誰かに見られていないかを確認しようと、辺りを見渡そうとした時だった。


「なるほど。それが俺たちを殺す武器か」


 超人は一人だけ。

 そう思って、油断した原田の前にもう一人の超人が現れた。

 新たな超人が、ペン状のものを持つ原田の右手を掴んだ。

 キシ、キシと原田の腕の内部が鳴っている。


「どうだ。これなら、その武器を突き立てる事もできないだろう?」


 超人は脂ぎった顔を原田の顔に近づけて、にやりとした。

 今度こそ、もう終わり。

 原田が覚悟を決めて、目を閉じた時、右手を掴んでいた超人の力が緩んだ。


「何?」


 原田が目を開けた時、超人が崩れ落ちた。

 まず膝から。

 そして、上半身が前のめりに倒れてきて、原田の胸に超人の頭が当たった。

 慌てて原田が後ずさりすると、超人はそのまま崩れ去り、地面に突っ伏した。


「えっ? どう言う事?」


 辺りを見渡す原田の目に映っているのは、何事も無かったかのように静けさが包み込む住宅街と、地面に倒れている超人二人。

 そして、道のはるか先を行く後姿の岡田兄妹だけだった。

 この場からすぐに離れた方がいい。そう思った原田は路地に飛び込んで姿を消した。

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