売国の芽
そこは寺井豪と名乗る帰化人がお気に入りにしている海外ブランドの高級ホテルの一室だった。
シャンデリアの灯りが照らし出す中、中世欧風貴族の館に似合いそうなソファに寺井が腰かけている風景は、もはや日常のものになっていた。
「フーバー君、確かに君はあの時の約束を守った。
松下を殺害し、こうして鋼鬼の技術情報を提供してくれた。
だが!」
最後の口調には、怒気がこもっている風でもあった。
「鋼鬼など、もはや過去の技術じゃないか。
君たちの国のテロリスト 山本たちの勢力は超人なるものを開発し、君たちの政府側も超人を開発し終えたようじゃないか。
鋼鬼など、超人たちの前では赤子のようなもの。
ジェット戦闘機の時代にプロペラ機の設計図をもらって、喜ぶものがいるとでも思っているのかね」
寺井の言葉は閉じられたドアの向こうに立つフーバーに向けたものだった。
何度も密会を重ねる間柄になってはいても、お互い顔を見せあわないと言う関係だけは続けられていた。
「大丈夫ですよ」
落ち着いた声で、フーバーが答えた。
「山本たちの超人を葬った後は、政府側も超人を放棄します」
「なぜ、そんな事ができる?」
「あなたたちの国と違い、この国は人権に敏感なんですよ。
人権を旗印に掲げれば、非人道的な遺伝子改変なんてものは、この国から一掃できます」
「ふむ。
確かにこの国ならあり得るな。
周りの状況も考えずに、核兵器は絶対悪だ、廃絶だと言っていたら、核兵器が無くなり、平和が保たれると思ってるくらい、自分たちの理想だけを信じる平和な民だからな。
で、どうやって?」
「決行は山本たちの超人たちを葬ってからですが、すでに動き始めています。
そのための組織も密かに作られていますから」
「なら、信じて待っていればいいんだな?」
「はい」
「なら、任せよう。
わが皇帝にはそう伝えておくよ」
「よろしくお願いします」
ドアの向こうで見えない相手の寺井に一礼するフーバーの仕草は、いかにも日本人っぽい行動だった。




