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Pandora(改稿版)  作者: あすか@お休み中
第1章:すべてを与えられし少女
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ぼろぼろな真

 結希たちを乗せたバスが家近くのバス停に停車した時、陽は少し傾いていて、バスを降りた二人の細長い影を道路に描いていた。卓也が差し出した手を結希が取ると、二人はゆっくりと歩き始めた。


「今はあの大きな家に一人?」


そう言った卓也の横をさっきまで乗っていたバスが走り去って行く。


「うん」


 そう返した時、結希はバスの後ろ姿の向こう、結希の家の門近くに一台の車が停車している事に気づいた。

 高級そうなこの辺りでは見かけない車に、少し嫌な予感がして、結希の足が止まった。


「どうしたの?」


 不意に立ち止まった結希に顔を向けて卓也がたずねた。


「う、う、ううん」


 そう答えた結希の視線が、その先にロックオンしている事に気づいた卓也が、結希が見つめる視線の先に目を向けた。


「あの車がどうかしたの?」


 卓也はそう言った後で、何かを思い出したかのような顔で、独り言のようにつぶやいた。


「あの車はあの時の」


 過去の記憶に向けられているかのようだった視線を結希に戻すと、詰問調で結希に言った。


「河原が来ているのか?」

「なんで?」

「そうなんだろ。

 この前、河原を見たって言った時、結希は否定したけど、あの時の車だ」


 そう言い終えた時、最悪のタイミングで車の後部座席のドアが開き、真が降りて来て結希の家の中に姿を消した。


「あれは絶対に河原だ」


 そう言うと卓也は結希とつないでいた手を振り払って、駆け出して行った。


「待って!」


 そう言いながら、結希は頭の中で言い訳を考え始めていた。

 あの時、嘘をついたのは勘違いと言う事にして、真がここに住んでいる事は正直に話すしかないか。でも、真と何もないって、信じてらえるだろうか?



 そんな不安を抱きながら、卓也の後を追っていた時、結希の家の門近くに停車していた車の後部座席に座る高山が、駆け寄ってくる二人の姿に気づいた。


「あの娘、帰って来た」


 高山の言葉に助手席の男がサイドミラーに映る二人の姿に目を向けて、言葉を付け足した。


「河原はあの子を連れてきませんでしたが、奴らがうまくこの家をターゲットとしてくれた事で、ちょうどいい塩梅になりましたですね」


 そんな男の言葉に混じり、外の世界と隔絶された車内には物が破壊されるような音がスピーカーから漏れ聞こえていて、センターコンソールのディスプレイには真っ赤な血で澱んだレンズを通して、何人もの男の姿が映し出されていた。


「超人同士の戦い。せめて、一体だけでも減らしてくれればな。

 それより、車を離れた場所に移動させろ」


 高山の言葉に車は発進し、卓也が開いたままの結希の家の門扉にたどり着いた頃には、その姿は小さくなっていた。

 卓也が結希の家の敷地に足を踏み入れた時、家の中からは何かが激しくぶつかるような鈍い音と時折、男のうめき声のようなものがしていたが、嫉妬と猜疑心と怒りに包まれた卓也の脳にはほとんど処理されず、歩みを全く緩めようとはしなかった。


「待って、卓也。

 何か変!」


 そう言って、結希が卓也を引き留めたが、振り返った卓也には、結希のそう言った行動さえ疑っている表情が浮かんでいた。


「変?

 河原がいる事が?」


 そう言い捨てると、再び結希を振り切って、結希の家の中に飛び込んで行った。


「かわはらぁぁぁ」


 玄関でそう叫ぶ卓也の後ろ姿の向こうに見える家の中は、壁の一部に穴が開き、血の痕がいたる所に残る異様な状況である事に気づいた結希が叫んだ。


「まことぉぉぉ」


 それは真の命を心配する叫びだったが、その異様な光景さえ脳の処理から弾き飛ばされるほどの猜疑心に覆われた卓也はそうは受け取らなかった。


「やっぱり河原か」


 そう言いながら、靴を脱ぎ家の中に入って行った。


「卓也、待って。入らないで」


 結希の言葉が卓也の心に悪い意味で燃え上がらせた。睨み付けるような視線を結希に向けたかと思うと、卓也はもうひと叫びして、廊下の中を進んで行った。


「河原、どこにいる」


 卓也の声に答えたのは真ではなかった。見た事のない男が姿を現して、卓也に言った。


「なんだ、お前」

「だ、だ、誰?」


 振り返って結希にたずねて来たが、結希にも悪者と言う推測以外の答えは持ってはいない。


「お前も来い」


 結希が答える間もなく、男は卓也の腕を引っ張って、奥の部屋に引きずり出し始めた。

 危険を感じた結希は迷った末、力を解放しつつも、怪しまれない程度で男に向かい、卓也を掴んでいる腕を握りしめた。

 力は加減しつつも、骨を折る程度。

 そんなつもりで、手から伝わる感触に注意を払う結希だったが、それなりの力を込めていると言うのに、骨が折れる感触が伝わってこない。

 戸惑い気味に力を増した時、男に腕を掴まれた。

 男の口がゆっくりと動いている事に気づいた結希が力を一旦抑え込むと、怒気を含んだ男の声が聞こえて来た。


「この馬鹿力女め。

 お前も来い」


 男は右手で卓也、左手で結希を掴み、二人を引きずるように連れて行ったのは廊下の奥のリビングだった。そこに広がっていたのは、いつもの見慣れたくつろぎの空間ではなく、凄惨な殺人現場のような光景だった。

 元々置かれていた場所がどこだったのかと言う手掛かりも無さげなほど、乱雑に散らばった家具類の多くは破壊されていて、いたる所にまだ新鮮な赤い血痕で染め上げられていた。

 そこに立っているのは、三人の男。そして、部屋の片隅でうずくまっているは真だった。


「真ぉぉぉ」

「く、く、来るな」


 結希の叫び声に、真はそう振り絞るのがやっとだった。

 真がここまでやられたと言う事はこの三人、いや自分を捕まえている男も合わせて四人は超人と考えていい。そう理解した結希は力を解放し、本気で戦いを挑む決意をした。


 男の手を振りほどくと、男の手から卓也を引き離し、そのまま鳩尾に拳をねじ込んだ。

 男が吹き飛ぶのを確認すると、すぐに残りの三人に結希は襲い掛かった。

 時がほとんど停止した結希の世界の中、異変にまだ気付いていない三人の男たちに連続して攻撃を加えるつもりだった結希の考えは打ち砕かれた。

 男たちの一人は力を解放したままだったらしく、結希に向かって襲い掛かって来た。

 振り上げた男の拳に全神経を注ぐ結希の横っ腹に男の蹴りが入ろうとしていた。

 格闘技を身につけていないどころか、けんかすらしたことが無い結希が同じ身体能力を得ている超人相手に勝てるめどはない。

 その事に気づいていた真がふらふらしながらも立ち上がり、結希を襲っていた男に体当たりした。

 体勢が崩れた事で、蹴りの威力が削がれはしたものの、結希は吹き飛ばされ、壁際にまだ立っていた本棚に激突した。

 背中から襲ってくる痛みに耐えている結希の視界に、にんまりとした笑みを浮かべた男の顔が迫って来た。

 逃げなきゃ。そんな回避行動をとろうとした結希の首を男の右手が掴み、背後の本棚に結希を押し付けた。


「このガキだけかと思っていたが、女の超人いたとはな。

 しかも、中途半端なこのガキとは違い、こいつは本物の超人らしいじゃないか。

 その体、別の意味で楽しませてくれないか?」


 いやらしい笑みを浮かべ、舌を出しながら、男が卑猥な笑みを浮かべた顔を結希に近づけて来た。

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